著者の所属・活動拠点の国は、タイです。

掲載誌:Molecules

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

腸と肺の「つながり」を整理する目的

腸と肺は体の中で離れた場所にある別々の臓器ですが、どちらも外界と接する粘膜をもち、免疫や代謝の仕組みを通じて互いに影響し合っていると考えられています。この関係は「腸–肺軸」と呼ばれます。著者らによると、腸–脳軸や腸–肝臓軸に比べて、腸–肺軸についてはまだ分かっていないことが多いといいます。

さらに、肺の感染や損傷が腸の状態に影響するという逆向きの関係は「肺–腸軸」と呼ばれ、腸から肺への方向よりも研究が進んでいません。本総説は、腸と肺の双方向のやり取りの基本的な仕組みを、肺から腸への方向にも目を向けながら整理することを目的としています。あわせて、植物由来の食品や薬用成分がこれらの経路にどう関わりうるかを検討しています。

どのように文献を集めたか

本論文は、既存の研究をまとめて解説する「ナラティブレビュー」と呼ばれる形式の総説です。著者らは、一定の検索手順を定めつつも、厳密な系統的レビューとは異なる方法で、医学文献データベースのPubMed/MEDLINEを検索しました。選んだ論文の参考文献からも関連文献を補っています。

検索は二本立てで行われました。一つは、腸と肺のやり取りの仕組みを説明するための基礎的な文献を集める検索です。もう一つは、植物由来成分と呼吸器の病気、腸内細菌の関わりを扱った研究に絞った検索で、521件の記録が適格性の確認対象として見つかったと報告されています。この分野では仕組みに関する知見の多くが実験モデルから得られているため、ヒトの研究と動物の研究の両方が検討の対象とされました。

総説が示した主な内容

著者らが中心的な役割をもつ物質として挙げているのが、短鎖脂肪酸です。短鎖脂肪酸は酢酸、プロピオン酸、酪酸などの総称で、人の消化酵素では分解されない食物繊維などを、腸内細菌が発酵させることで作られます。総説では、腸で使われずに血流に入った短鎖脂肪酸が骨髄や肺の免疫細胞に働きかけるという動物実験の報告が紹介されています。たとえば、インフルエンザ感染モデルで酪酸が肺への好中球(炎症に関わる白血球の一種)の集まりを抑えたという報告や、プロピオン酸の経口投与がアレルギー性の気道炎症を防いだという報告です。

短鎖脂肪酸のほかにも、腸内細菌が作る物質や、腸から肺へ移動する免疫細胞が肺の免疫に関わる経路が整理されています。一方、肺から腸への方向については、呼吸器の感染、喫煙、肺の損傷が腸の防御機能(バリア)を乱し、腸内細菌の構成を変え、腸の免疫の乱れにつながる可能性があると論じられています。

植物由来成分では、食物繊維、多糖類、ポリフェノールが有望とされています。著者らによれば、その主な働き方は、短鎖脂肪酸を介した免疫の調整、こうした物質を作る細菌を増やすこと、そしてそれに続く炎症経路の抑制です。また一部の成分は、腸内細菌を介さずに、抗酸化作用や上皮のバリアの保護、炎症シグナルの抑制によって働く可能性もあると述べられています。

この総説が伝えること

著者らは、現時点で最も裏付けが厚いのは短鎖脂肪酸を介した免疫調整の仕組みであり、肺から腸へのシグナルについてはまだ十分に確立されていないとまとめています。また、植物由来成分に関する根拠の多くは動物実験などの前臨床段階のものであり、用量や安全性、呼吸器の実際の状態への影響をヒトで確かめる研究が必要だと指摘しています。腸と肺のやり取りという分野で、何がよく分かっていて何が未解明なのかを見渡せる整理となっています。

原著論文の著者・所属:Sarocha Vivatvakin(Chulalongkorn University)、Duangporn Werawatganon(Chulalongkorn University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sarocha Vivatvakin, Duangporn Werawatganon. The Impact of Plant-Derived Foods and Medicines on the Lung–Gut Axis and Microbiota Cross-Talk. Molecules 2026-08-03. DOI: 10.3390/molecules31152699. 原著ライセンス:CC BY.