この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
稲わらを飼料にする際の課題と研究の目的
稲作では毎年大量の稲わらが発生します。論文が引用する推計では、世界の稲わら生産量は年間7億トンを超えます。一方で、収穫時期が限られることやかさばることが回収の妨げとなり、一部の稲作地域では今も畑での野焼きが行われています。牛や羊、水牛など、胃の中の微生物の働きで草の繊維を消化できる「反芻家畜」の飼料に使えば、人が食べられない作物残さを畜産物に変えられます。
ただし稲わらは飼料として扱いにくい素材です。タンパク質が少なく、細胞壁は消化されにくいリグニンやケイ素(シリカ)で固められており、胃の中の微生物がエネルギー源として使える成分も限られます。そのため、家畜があまり食べず、栄養も十分に利用されません。
中国・湖南省農業科学院などの研究チームは、稲わらの加工技術、栄養価、家畜に与えたときの反応、環境面の得失を総合的に検討する批判的総説をまとめました。著者らが重視したのは、稲わらを与えられるかどうかではありません。特定の方法で加工した稲わらを、栄養バランスを整えた飼料全体(完全飼料)の中にどの割合で組み込んだとき、採食量、消化率、生産性、メタン排出、窒素利用、安全性がどう変わるかという問いです。
どのように文献を整理したか
著者らは、2026年6月までの主要な学術データベースを検索し、引用関係もたどって、検証可能な54件の学術資料や規制資料をもとに考察しました。研究条件の違いが大きいため、複数研究の結果を数値的に統合するメタ解析は行っていません。
あわせて、主に2024〜2026年に発表された、実際に家畜へ給与した代表的な試験10件を選び、「エビデンスマップ」を作成しました。これは、各研究が7つの項目を報告しているかどうかを一覧にし、研究の手薄な分野を可視化する手法です。7つの項目は、栄養・消化・胃内発酵、生産成績、家畜から出るメタン、汚染物質の検査、経済性や労力、ふん尿中の養分や汚染物質の行方、生産から利用までの全過程を通じた環境評価です。
加工技術と給与試験から見えたこと
裁断、粉砕、圧縮などの物理的な加工は、運搬や飼料の混合をしやすくします。しかし、繊維の消化されにくさそのものはあまり改善しないと著者らは整理しています。尿素を使ったアンモニア処理は窒素を補い、アルカリ処理は繊維を分解されやすくします。最近の水牛の試験では、尿素と石灰を組み合わせて処理した稲わらで、採食量、消化率、胃内の微生物によるタンパク質合成が改善したと報告されています。
収穫時に湿っている稲わらは、サイレージ(密封して乳酸発酵させた保存飼料)にすると保存しやすくなります。稲わらには発酵に必要な糖が少ないため、糖蜜などの糖源や乳酸菌などの添加物が発酵を助けます。ほかの作物や残さと一緒にサイレージにする「混合サイレージ」では、特定の配合条件のもとで、羊の成長が維持された例や、乳牛の採食量、繊維の消化、乳量が改善した例が報告されています。菌類、微生物、酵素を使う処理には細胞壁の分解を高める可能性がありますが、農場規模での給与試験による確認はまだ限られています。
著者らは、効果は飼料全体の組み立て、特に発酵に使えるエネルギー、タンパク質の供給、反芻を促す物理的な繊維の量に左右されると強調しています。子羊の試験では、従来の粗飼料の一部を発酵稲わらに置き換え、飼料乾物の5%としたときは成長や消化率が維持されました。一方、10%まで増やすと消化率が下がり、飼料効率も悪化しました。
環境面の条件と、研究の空白
環境面の利点も条件付きです。野焼きを減らし、ほかの飼料を置き換えることで、汚染や資源の使用を減らせる可能性はあります。しかし、加工に使う資材、輸送、保存中の損失、家畜の消化管から出るメタン、窒素の排出によって、その利点が相殺されることもあります。メタンの反応は処理方法や飼料によって異なり、ある試験では稲わらの割合が高いほどメタンとエネルギーの損失が大きくなりました。また、家畜1頭あたりの排出が減っても、乳や肉の生産量あたりの排出が減るとは限らないと著者らは指摘しています。重金属などの元素による汚染は加工では取り除けないため、汚染物質の検査は欠かせません。
エビデンスマップでは、栄養や消化に関する結果は10件すべてが報告していました。生産成績は7件、メタンの直接測定は3件、汚染物質の明確な検査は1件にとどまりました。経済性や労力、ふん尿の行方、全過程の環境評価を報告した研究は1件もありませんでした。
著者らは、現時点の証拠からは、加工した稲わらはバランスの取れた飼料の中で粗飼料の一部として使うのが妥当だと結論づけています。持続可能な食料システムへの貢献は、家畜の生産性の維持、安全な原料、そして地域ごとに確かめられた環境面・実用面の利点がそろって初めて成り立つ、というのが論文の示す要点です。
著者:Xiong Li(Hunan Institute of Animal and Veterinary Science, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha, China)、Jianbo Li(Hunan Institute of Animal and Veterinary Science, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha, China)、Yang Luo(Hunan Institute of Animal and Veterinary Science, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha, China)、Yang Luo(Yuelushan Laboratory, Changsha, China)、Kangle Yi(Hunan Institute of Animal and Veterinary Science, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha, China)、Kangle Yi(Yuelushan Laboratory, Changsha, China)、Baizhong Zhang(Hunan Institute of Animal and Veterinary Science, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha, China)、Baizhong Zhang(Yuelushan Laboratory, Changsha, China)、Huifen Deng(Yuelushan Laboratory, Changsha, China)、Huifen Deng(Department of Plant Science, Hunan Biological and Electromechanical Polytechnic, Changsha, China)、Ao Sun(Hunan Institute of Animal and Veterinary Science, Hunan Academy of Agricultural Sciences, Changsha, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiong Li, Jianbo Li, Yang Luo, et al. Rice straw for ruminants: processing technologies, nutritive value, feeding responses and environmental trade-offs. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-10-01. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1919149. 原著ライセンス:CC BY.