日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとしたのか

母親自身の母乳が得られないとき、早産児には他の母親から提供されたドナーミルク(DHM)が用いられます。母乳に含まれるカルシウム(Ca)、リン、亜鉛(Zn)は、骨の形成や酵素のはたらき、免疫機能などに欠かせない成分です。研究チームは、早産児は胎内でこれらのミネラルを蓄える時期(妊娠後期)が途中で終わってしまうため、生まれた時点での蓄えが少なく不足しやすいと説明しています。

一方で、ドナーミルクのミネラル組成に関するデータは限られており、とくにアジアの集団での報告は乏しいと著者らは指摘します。また、母親の年齢や出産回数、赤ちゃんの性別や在胎週数といった要因がミネラル濃度と関係するかどうかは、研究によって結果が一致していません。そこで本研究は、日本の母乳バンクに集められたドナーミルクのCa、無機リン(IP)、Znの濃度を測定し、どのような母親・乳児の要因が濃度と関連するのかを調べることを目的としました。

どのように調べたか

調査対象は、2022年4月から2024年12月までに日本財団母乳バンクへ登録されたドナー331人から得られた、457件の分析用試料です。このうち106件が早産で出産した提供者からのもの、351件が正期産の提供者からのものでした。提供者は健康に関する問診や血液検査などの審査を経て登録され、搾乳された母乳は低温保持殺菌(62.5℃で30分)の処理を受けたのち、分析まで冷凍保存されました。

ミネラル濃度は比色法(色の変化を利用して濃度を測る方法)で測定されました。同じ提供者から複数の試料が得られている場合、データが互いに独立でなくなるため、研究チームは提供者ごとの違いを考慮に入れられる「線形混合効果モデル」という統計手法を用いて、母親の年齢・妊娠前のBMI・出産回数、乳児の性別・在胎週数・出生体重、そして産後週数との関連を同時に解析しました。試料が採取された産後週数は2週から79週にわたっていました。

報告された主な結果

Caと無機リンの濃度は、早産の提供者と正期産の提供者のあいだで差がありませんでした(Ca:29.2対29.1 mg/dL、IP:5.2対5.3 mg/dL)。Znについては、調整前の比較では早産群のほうが高い値を示しました(141対113 µg/dL)。ただし早産の提供者の試料は産後のより早い時期に採取されていたため、産後週数を考慮して調整したところ、この差は統計的に意味のあるものではなくなりました。著者らは、この差は早産か正期産かという違いそのものではなく、授乳がどの段階にあるかの違いで主に説明できると述べています。

最も一貫して見られたのは、産後週数との関連でした。3つのミネラルすべてが、産後週数が進むにつれて低下する関係を示しました。産後12週から25週への変化に相当する範囲で、推定される低下はCaが7.8%、無機リンが4.1%、そしてZnは36.2%と報告されています。Znの低下がとりわけ大きい点が特徴です。

このほか、母親の年齢は無機リン濃度と正の関連を示し、出産回数が2回の提供者は1回の提供者に比べてCa濃度がやや低いという関連が見られました。妊娠前のBMI、乳児の性別、在胎週数、出生体重については、3つのミネラルいずれとも統計的に意味のある関連は認められませんでした。ただし著者らは、関連が見つからなかったことをもって影響がないと解釈すべきではないと注意を促しています。また、母親の食事内容が調査されていないこと、母親・乳児の情報が自己申告によるものであること、搾乳量の情報が得られなかったことなどを限界として挙げ、複数の要因を同時に検討したためこれらの知見は探索的なものとして慎重に受け止めるべきだとしています。

この報告が示すこと

日本の集団を対象にドナーミルクのCa、無機リン、Zn濃度を明らかにしたのは、この研究が初めてだと著者らは述べています。報告された値は、日本人女性の殺菌処理前の母乳について過去に報告されている範囲に収まっており、ドナーミルクの組成は母親が自分の子どもに与える母乳とおおむね同等だとされています。

得られた知見の中心は、産後週数がドナーミルクのミネラル組成を左右する主要な変動要因だという点です。誰がどの時期に提供した母乳なのかによって、含まれるミネラル量は一様ではありません。著者らは、この変動を踏まえた栄養分析が、ドナーミルクを適切に提供し栄養管理を行ううえで重要だとし、その臨床的な有用性を確かめるにはさらなる研究が必要だと結論づけています。

著者:Miori Tanaka(The Nippon Foundation Human Milk Bank, Nihonbashi‑koamicho Square Building 1F, 17-10 Nihonbashi-koamicho, Chuo-ku, Tokyo, 103-0016, Japan)、Midori Date(The Nippon Foundation Human Milk Bank, Nihonbashi‑koamicho Square Building 1F, 17-10 Nihonbashi-koamicho, Chuo-ku, Tokyo, 103-0016, Japan)、Katsumi Mizuno(Department of Pediatrics, Showa Medical University School of Medicine, 1- 5-8 Hatanodai, Shinagawa-ku, Tokyo, 142-8555, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Miori Tanaka, Midori Date, Katsumi Mizuno. Mineral composition of donor human milk and its associations with maternal and infant factors in a Japanese population. Scientific Reports 2026-09-15. DOI: 10.1038/s41598-026-71654-4. 原著ライセンス:CC BY.