フードデリバリーアプリで夕食を選ぶとき、もし健康的でないメニューが少し値上がりし、逆に健康的なメニューが少し値下がりしていたら、私たちの選択は変わるのでしょうか。清涼飲料税のように、価格を通じて食行動を変えようとする政策的アイデアは各国で議論されていますが、実際の効果や、所得や学歴などの社会経済的な立場によって効果が異なるのかどうかは、まだ十分にわかっていません。今回紹介する研究は、この疑問をオンラインの模擬フードデリバリーアプリを使って検証したランダム化比較試験(RCT)です。
研究でわかったこと
この研究では、英国の成人3107人を対象に、模擬のオンライン食品デリバリーアプリ上で架空の夕食を選んでもらう実験を行いました。参加者は社会経済的地位(SEP)によって層別化されたうえで、次の4つの条件のいずれかにランダムに割り付けられました。健康的でないメニューに10%の『税』を課す条件(750人)、健康的なメニューに10%の『補助金』をつけて値下げする条件(808人)、税と補助金を組み合わせた条件(769人)、そして価格を変えない標準価格の条件(779人)です。なお、参加者の57〜58%は相対的に社会経済的地位が高い層でした。
主な評価項目は、参加者が選んだメイン料理が『健康的』か『健康的でない』か、そして選ばれた食事の総カロリー(kcal)でした。結果を見ると、いずれの価格介入も、健康的な食事が選ばれるかどうかに統計的に有意な効果を示しませんでした。例えば、税ありの条件を標準価格と比べたオッズ比は0.91(95%信頼区間0.74〜1.12)、補助金ありの条件では1.08(95%信頼区間0.89〜1.31)で、いずれも『効果あり』とは言い切れない結果でした。総カロリーについても同様で、税ありの条件では標準価格との差が-44.31kcal(95%信頼区間-95.90〜7.28)、補助金ありの条件では-7.94kcal(95%信頼区間-60.23〜44.35)と、統計的に意味のある差は見られませんでした。さらに、こうした効果が社会経済的地位によって異なるという証拠も見つかりませんでした。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、あくまで『模擬的』なオンラインアプリ上で架空の食事を選んでもらう実験であり、実際にお金を払って食品を購入する場面とは条件が異なる可能性があります。また、今回検証されたのは10%という比較的小さな価格変化であり、著者らは、より大きな価格変化や、実際の購買行動のもとでの効果を調べる今後の研究が有益かもしれないと述べています。1つの研究で得られた結果であり、これだけで『価格介入は食行動に効果がない』と結論づけられるわけではない点にも注意が必要です。
まとめ
今回の大規模なランダム化比較試験では、フードデリバリーアプリ上での10%の税・補助金といった価格介入が、健康的な食事の選択や摂取カロリーに統計的に有意な影響を与えるという明確な証拠は得られませんでした。また、その効果が社会経済的地位によって異なるという証拠も見られませんでした。価格を用いた食行動へのアプローチについては、価格変化の大きさや実際の購買環境を含め、今後さらなる検証が求められそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:社会経済的地位と、模擬フードデリバリーアプリにおける健康的・非健康的食品への価格介入が食品選択に与える効果:ランダム化比較試験(パブリック・ヘルス・ニュートリション・2026年08月)