この研究は、ノルウェーの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとしたのか
食物繊維を多くとることが健康に役立つことはよく知られていますが、西ヨーロッパ諸国では摂取量が推奨に届いていないと研究チームは述べています。パンはこうした国々で食物繊維の重要な供給源である一方、小麦粉に含まれるフルクタンなどにより「FODMAP(フォドマップ)」と呼ばれる糖類の供給源でもあります。FODMAPは小腸で分解されずに大腸へ届き、腸内細菌にすばやく発酵されるため、おなかの症状がある人がパンを避ける理由になっていると研究チームは説明しています。
サワードウ(サワー種)は乳酸菌と野生酵母からなる複雑な微生物の集まりで、発酵の過程でFODMAPをより多く分解する可能性が指摘されてきました。一方、現代の製パンで主に使われる市販のパン酵母は、少数のサッカロミセス・セレビシエ株が中心で、同じような複雑な働きはありません。ただし、これまでの人を対象とした研究結果は一致していないと著者らは整理しています。
そこで研究チームは、パンを食べることに抵抗がある人、あるいはパンを食べると軽度から中等度のおなかの症状が出ると自己申告する人を対象に、サワードウパンがパン酵母のパンに比べておなかの症状を軽くするかどうかを調べました。あわせて、特定の腸内細菌の量や、血液中の微量栄養素・代謝の指標が変わるかどうかも検討しています。
どのように調べたか
この研究は、無作為化・対照・二重盲検のクロスオーバー試験として行われました。クロスオーバーとは、同じ参加者が順番に両方のパンを食べる方式で、一人ひとりが自分自身の比較対照になります。二重盲検は、参加者もデータを集める研究者もどちらのパンかを知らない状態を指します。新型コロナウイルスの影響で、研究はすべて遠隔で実施されました。
参加者は18〜65歳の健康な成人で、BMIが18.5〜27kg/m²の範囲にある人です。研究期間は5週間で、最初の2週間の慣らし期間のあと、サワードウパンまたはパン酵母のパンを1週間食べ、1週間の間隔(ウォッシュアウト)をはさんでもう一方に切り替えました。25人が開始し、慣らし期間中の脱落などを経て、20人(男性5人、女性15人)が解析対象となりました。
2種類のパンは、膨らませる方法(サワードウか市販のパン酵母か)と発酵時間を除いて同じレシピで、栄養成分もそろえられていました。参加者は1日に最低5枚(200g)を食べるよう指示され、実際の遵守率は両方のパンで94%と算出されています。おなかの症状は過敏性腸症候群向けの消化器症状評価尺度(GSRS-IBS)とブリストル便形状スケールで評価し、便の検体からは107種の腸内細菌をねらって定量するPCR法で測定、指先から採った乾燥血液スポットで鉄・亜鉛・セレンや代謝指標を分析しました。
報告された主な結果
おなかの症状全体の点数は、サワードウパンを食べたあとで2点下がり、パン酵母のパンを食べたあとでは2.5点上がりました。ただし、この両者の差は統計的に有意な水準には届かなかったと報告されています(p=0.051)。一方、下痢に関する下位項目では、サワードウパンで0.5点の低下、パン酵母のパンで1.5点の上昇という有意な差が認められました(p=0.016)。個人差は大きく、サワードウパンで大きく改善して市販酵母パンで悪化した人もいれば、両方のパンで同じような変化を示した人もいたと述べられています。便の形状には両者で有意な差はなく、どちらの期間も正常な範囲でした。
腸内細菌については、解析対象とした45種のうち、サワードウパンで増えてパン酵母のパンで減るという有意な変化が5種で認められました。具体的には、Alistipes putredinis、Alistipes shahii、そしてビフィズス菌に属する Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium longum、その亜種(spp. longum)です。また、サワードウパン摂取時には Alistipes shahii の量と下痢の点数の間に負の相関が、パン酵母のパン摂取時には同じ菌と痛みの点数の間に正の相関がみられました。下痢の点数が下がった人(反応者)と下がらなかった人を分けて比べると、サワードウパン後の Alistipes shahii の量は反応者のほうが有意に多かったと報告されています。著者らは、これらの相関はあくまで探索的なもので、独立した確認が必要だと述べています。
血液中の指標では、鉄の値がサワードウパン後にパン酵母のパンと比べて増える傾向がみられましたが、統計的には境界的な水準でした(p=0.053)。亜鉛、セレン、総コレステロール、中性脂肪、Cペプチドについては、どちらのパンの間でも有意な差はありませんでした。なお個人ごとに見ると、両方のパンのあとで鉄が増えた人も減った人もおり、発酵以外の要因が関わっている可能性があると著者らは指摘しています。
この報告が示すこと
研究チームは、2種類のパンで違っていたのは膨らませる方法と発酵時間だけであり、その条件下で、サワードウパンのほうがおなかの症状、とくに下痢の項目で好ましい変化と結びつき、いくつかの腸内細菌の量が増えたことを報告しました。分析されたパン中のFODMAP量は、サワードウパンで1日あたり1.90g、パン酵母のパンで2.62gでした。著者らは、サワードウパンの果糖含有量が少なかったことが症状の違いに寄与した可能性を挙げる一方、糖の構成や発酵で生じる物質など他の違いも関わりうると述べています。
同時に、著者らは限界も明確にしています。参加者は20人と少なく、正式な必要人数の算出を行っていないため統計的な検出力が下がった可能性があること、欠測値を平均値で補ったこと、参加者は自己申告の症状はあっても病気の診断はない健康な人であり、結果はそうした集団に限られることです。全体の症状スコアの差が有意水準に届かなかったことも含め、この試験は、パンの発酵方法という一つの違いが、おなかの感じ方と腸内細菌の両方に関わりうることを示す一例として報告されています。
著者:Solveig I. N. Watters(Department of Nursing and Health Promotion, Faculty of Health Sciences, Oslo Metropolitan University, 0130 Oslo, Norway)、Christine Henriksen(Department of Nutrition, Institute of Basic Medical Sciences, Faculty of Medicine, University of Oslo, 0317 Oslo, Norway)、Mia Gjøvik(Department of Nursing and Health Promotion, Faculty of Health Sciences, Oslo Metropolitan University, 0130 Oslo, Norway)、Lisa Garnweidner‐Holme(Department of Nursing and Health Promotion, Faculty of Health Sciences, Oslo Metropolitan University, 0130 Oslo, Norway)、Marius Pihl Frederiksen(Mesterbakeren AS, 0552 Oslo, Norway)、Stephanie Jonassen(Mesterbakeren AS, 0552 Oslo, Norway)、Ina Ravnanger(Mesterbakeren AS, 0552 Oslo, Norway)、Mari C. W. Myhrstad(Department of Nursing and Health Promotion, Faculty of Health Sciences, Oslo Metropolitan University, 0130 Oslo, Norway)、Vibeke H. Telle‐Hansen(Department of Nursing and Health Promotion, Faculty of Health Sciences, Oslo Metropolitan University, 0130 Oslo, Norway)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Solveig I. N. Watters, Christine Henriksen, Mia Gjøvik, et al. Sourdough Bread and Baker’s Yeast Bread Affect Gut Symptoms and Targeted Gut Microbial Taxa Differently: A Randomised Controlled Trial. Nutrients 2026-09-01. DOI: 10.3390/nu18172854. 原著ライセンス:CC BY.