この研究は、デンマーク、イギリス、アメリカの研究機関の研究論文です。
掲載誌:BMC Medicine
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を論じた文章か
2025年11月、医学誌ランセットが超加工食品(UPF)に関する3部構成のシリーズを掲載しました。その第1部でMonteiroらは、超加工食品が長年続いてきた食生活を置き換えることで食事の質が低下し、食事に関連する複数の慢性疾患のリスクが高まるという仮説を示しました。さらに、因果関係を推論するための「ブラッドフォード・ヒルの基準」9項目のうち7項目が満たされているとの判断のもとで、多様な自然の食品を基礎とする食事パターンを促進・保護する政策を求め、証拠がさらに必要だからといって公衆衛生上の行動を遅らせるべきではないと主張しました。
この論考の著者らは、食事が健康と慢性疾患に大きく関わることや、食事への介入が集団の健康を改善する有力な手段であること自体は疑いようがないとしつつ、それとは別の問題を提起します。すなわち、Nova分類で定義される「超加工」という特徴そのものが原因であり、介入の標的になりうるのかという点は、はるかに不明確だというのです。著者らは、超加工されたチョコレートケーキは自家製のものより本当に有害なのか、加工度の低い塩辛い肉は超加工の雑穀パンより望ましいのか、といった問いを挙げ、栄養疫学には自信をもって示された因果の主張が後に誤りとされてきた歴史があるため慎重さが必要だと述べます。そして、因果推論の観点から、Monteiroらが十分に扱っていない限界を整理しています。
論考が指摘する主な論点
第一に、「超加工食品とは何か」という定義の問題です。Nova分類の第4群は、安価な原材料から抽出・派生した成分に添加物を組み合わせた、商業的な製品として説明されます。著者らはこれを、商業的にはまとまりのある食品群であっても、生化学的にまとまりのある分類ではないと評します。その結果、加工肉、砂糖入り飲料、甘い食品のように以前から健康への悪影響が指摘されてきたものと、乳製品やパンのように有害の証拠がはるかに乏しいものが同じ群にまとめられます。脂質・塩分・糖分・カロリーの過剰といった既知の問題と、食感や加工、添加物をめぐる十分に解明されていない懸念とが混在することにもなります。著者らはこれを多次元的な曝露と呼び、研究結果が平均化され文脈に依存したものになるため、有害な食品の影響を薄める一方で中立あるいは有益な食品まで巻き込みかねないと論じます。
第二に、メカニズムの問題です。Monteiroらは、即時の公衆衛生対策にメカニズムの解明は必須ではなく、歴史的にもメカニズム確立前に有益な介入が導入された例が多いとします。これに対し著者らは、Nova第4群の多くの食品が有害であることは既知の明確な生物学的機構で説明できるが、その機構の大半は超加工食品に固有ではないと指摘します。例として、高いエネルギー密度は超加工食品に限らず自家製のチョコレートケーキにも当てはまりうるとします。また、英国の食事ガイドラインに沿った2種類の食事(主に最小限加工の食品による食事と、主に超加工食品による食事)を比較した無作為クロスオーバー試験では、8週間後にどちらの群でも体重が減少し、最小限加工の群で0.96kg大きい減少がみられたと紹介しています。食感についても、果物のスムージーや自家製パンのように、加工度の低い食品やNova第3群にも柔らかいものがあると述べ、無作為化試験の証拠からは超加工ではなく食感がエネルギー摂取量増加の主な要因のひとつである可能性が示唆されるとします。さらに、超加工食品と非超加工食品を、過剰なおいしさ・エネルギー密度・食感の面で揃えた対照的な食事介入研究では、米国の青年がビュッフェ形式の食事を自由に食べた際のエネルギー摂取量に差がみられなかったと報告されています。
第三に、比較対象の設定です。Monteiroらは、ある食品のNova第4群版は同じ食品のより低いNova群版よりも常に劣るという仮説を示しますが、著者らはこの仮説は現時点で証拠に支えられていないとします。個々の超加工食品を直接の非超加工の対応品と比較した研究は比較的少なく、その多くは試験であり、必ずしも超加工の方が劣るとは示されていないというのです。植物性の代替肉と未加工の赤身肉、植物性ミルクと牛乳、人工甘味料入り飲料と水の比較では、短期的な健康アウトカムの差は観察されていないと挙げられています。加えて、多くの研究がNova第4群とNova第1群を比較している点について、生活の実情からして市販の食品を最小限加工の材料による手作りの食事に置き換えることを期待するのは現実的でない場合があると述べ、超加工や工業的添加物が真に原因であるなら、第4群と類似の第3群の食品を比べることで検出できるはずだと論じます。そうした研究の方が、製品の配合見直しや食事ガイドラインという実行しやすい道筋につながり、集団の健康にとって直接的に有用だというのが著者らの見立てです。
著者らの結論
著者らは、柔らかく過剰においしく、エネルギー密度が高くて脂質・糖分・塩分の多い食品の摂取が健康に害を与えることはほぼ確実であり、そうした条件に当てはまる食品の多くが超加工食品であるため、多くの人にとって超加工食品の摂取を減らすことはおそらく有益だろうとまとめます。ただし、性質が似ている加工度の低い食品と比べて超加工食品を特に有害にする追加的な特徴があるのかは明確でないとします。そこで、研究は超加工食品という広いカテゴリーの検討から離れ、食感や添加物といった具体的な下位分類・特徴を調べる方向へ進むべきだと提案します。Monteiroらは交絡や測定の偏りといった方法上の困難を理由に下位分類の分析に明確に反対していますが、著者らは、Nova分類のような一体的な変数を作ることでその困難が解決されるわけではなく、むしろ逆かもしれないと反論します。曝露の分布が大きく異なる群同士(摂取量の最上位と最下位の四分位など)の交絡を除くことは、加工肉と未加工肉のようなより控えめな対比より難しく、誤差が相関しやすい食事データで要約変数を作ると測定の偏りの影響が増幅されうる、というのがその理由です。
証拠が不確かな場合には、科学者がその不確実性を認めて解消に努めることが不可欠だとも述べられます。著者らは、不確実性を伝えることは科学への社会的信頼を損なうのではなく守るものであり、根拠のない確実さこそが最も懐疑を生むという知見に触れています。食品システムがより健康的な方向へ変わる必要があるという点には同意しつつ、超加工食品というカテゴリーを一括して標的にすることが最善とは考えないとし、広いカテゴリーの強調が既存の食事指針や、より強い証拠に基づく的を絞った介入の検討から注意をそらす危険があると指摘します。砂糖入り飲料への課税、減塩のための配合見直し目標、パッケージ前面の表示制度は、具体的で性質のよく分かった対象に働きかけることで集団の健康を意味あるかたちで改善しうる例として挙げられています。
この論考が伝えていること
この文章が示しているのは、「食事は健康に大きく関わる」という広く共有された前提と、「超加工という区分そのものが害の原因である」という個別の主張は、証拠の確かさの度合いが異なるという整理です。著者らは、後者をめぐる不確実性を隠さずに示したうえで、対象をより具体的に絞った研究と、すでに根拠が固まっている対象への介入という道筋を提案しています。不確実さを認めることが政策や信頼を弱めるのではなく、むしろ実行できる選択肢を明確にするという見方が、この論考の芯にあります。
著者:Daniel B. Ibsen(https://ror.org/01aj84f44 grid.7048.b 0000 0001 1956 2722 Department of Public Health Aarhus University Aarhus Denmark)、Michael Fridén(https://ror.org/040r8fr65 grid.154185.c 0000 0004 0512 597X Steno Diabetes Center Aarhus Aarhus University Hospital Aarhus Denmark)、Georgia D. Tomova(https://ror.org/02jx3x895 grid.83440.3b 0000 0001 2190 1201 Centre for Longitudinal Studies, UCL Social Research Institute University College London London UK)、Natalia Ortega(https://ror.org/04b6nzv94 grid.62560.37 0000 0004 0378 8294 Division of Preventive Medicine, Department of Medicine Brigham and Women’s Hospital Boston MA USA)、Peter W.G. Tennant(https://ror.org/03v76x132 grid.47100.32 0000 0004 1936 8710 Yale School of Public Health Yale University New Haven CT USA)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Daniel B. Ibsen, Michael Fridén, Georgia D. Tomova, et al. Public health policy should be grounded in established evidence that acknowledges uncertainty: a response to The Lancet series on ultra-processed foods. BMC Medicine 2026-09-27. DOI: 10.1186/s12916-026-05214-y. 原著ライセンス:CC BY.