新型コロナウイルスの流行は、世界中の食料の生産・流通の仕組みを混乱させ、多くの国で食料品の値上がりを招きました。では、値上がりは「野菜や果物、肉、魚といった素材そのものに近い食品」と、「スナック菓子や清涼飲料などの超加工食品」とで、同じように起きたのでしょうか。それとも、栄養価の高い食品の方がより値上がりし、結果として手が届きにくくなったのでしょうか。この論文は、メキシコを対象に、2012年から2025年までの長期データを使ってこの問いを検証した研究です。

どんな方法で調べたのか

研究チームは、メキシコの国民健康栄養調査(ENSANUT)の食物摂取頻度調査に含まれる157種類の食品を対象としました。これらの食品は、加工度に応じて4つに分類する「NOVA分類」というシステムを使い、(1)野菜・果物・肉・魚・卵・豆類・無塩のナッツなどの「最小加工食品」、(2)最小加工食品と調理用材料を組み合わせた「加工食品」、(3)添加糖・ナトリウム・脂肪を多く含み、家庭の調理では使わないような添加物(酸化防止剤、香料、安定剤など)を含む工業的な調製品である「超加工食品」(市販のパン、朝食用シリアル、ケーキ、菓子スナック、ピザ、フライドポテト、アイスクリーム、冷凍食品などが該当)、(4)塩・砂糖・蜂蜜・食用油・動物性脂肪(ラード・バター)などの「調理用材料」、の4区分に振り分けられました。分類の結果、最小加工食品が55品目(35.0%)、加工食品が40品目(25.5%)、超加工食品が57品目(36.3%)、調理用材料が5品目(3.2%)でした。

栄養価の高さは「栄養豊富食品指数(NRF9.3)」という指標で評価されました。これは、たんぱく質・食物繊維・ビタミンC・カリウム・ビタミンA・カルシウム・鉄・マグネシウム・ビタミンDという9種類の望ましい栄養素の充足度から、飽和脂肪・添加糖・ナトリウムという3種類の摂りすぎに注意すべき成分の量を差し引いて計算されます。価格データは、メキシコ国立統計地理院(INEGI)が公表する2012年5月から2025年7月までの月次の食品価格指数を用い、ガソリン価格や為替レート、国際的な穀物・燃料価格といった経済的な要因の影響も統計モデルで調整したうえで、コロナ流行前(2020年3月まで)・流行期(2020年3月~2022年2月)・流行後(2022年3月~2025年7月)の3つの期間でインフレ率(物価上昇率)の違いが分析されました。

研究でわかったこと

まず、最小加工食品は100グラムあたりのカロリーが最も低く(77.29kcal)、加工食品(174.53kcal)、超加工食品(305.57kcal)の順に高くなっていました。栄養密度(NRF9.3)は最小加工食品が202.2と際立って高く、調理用材料が31.4、加工食品が15.7、超加工食品は5.4と最も低いという結果でした。

一方で、カロリーあたりの価格を見ると、最小加工食品が一貫して最も高く、次いで超加工食品、加工食品、調理用材料の順で安くなるという価格の序列は、コロナ流行前・流行中・流行後を通じて変わりませんでした。具体的には、最小加工食品の価格(100kcalあたり)は流行前の28.89メキシコペソから、流行期には37.36ペソ、流行後には45.18ペソへと上昇しました。栄養価の高い食品ほど、ペソあたりに得られる栄養(NRF9.3をペソで割った値)は流行前の13.34から、流行期11.34、流行後8.62へと目減りしており、加工が進んだ食品との差が徐々に開いていったことが示されました。

統計モデルからは、コロナ流行期に最小加工食品のインフレ率が流行前と比べて1.64ポイント上昇していたものの、この差は統計的にはぎりぎり有意といえる水準(p=0.064)にとどまりました。これに対し流行後の期間では6.04ポイントの上昇が確認され、こちらは統計的にはっきりとした差(p<0.001)でした。また流行期には、加工食品で1.99ポイント、調理用材料で1.21ポイントの追加的な物価上昇が、最小加工食品と比べて確認されましたが、超加工食品には統計的に意味のある差は見られませんでした。流行後の期間では、加工の度合いによるインフレ率の差は見られなくなり、どの区分もおおむね同じように物価が上昇していたということです。

本文で紹介されている具体例として、コロナ流行期にはライム(月次年率換算で51.80%の上昇)、かぼちゃ類(23.22%)、鶏肉部位(15.52%)、いちご・メロン・フルーツウォーター(12.61%)などで大きな値上がりが見られた一方、赤トマト(マイナス32.86%)や青トマトのような品目(マイナス29.01%)では逆に価格が下がるなど、最小加工食品の中でも品目によって振れ幅が大きかったことも報告されています。

研究チームは、加工食品や超加工食品は保存期間が長く、供給網も複雑であるため価格が比較的安定しやすい一方、最小加工食品は生鮮の供給網に依存するため、生産や流通の混乱の影響を受けやすいのではないかと考察しています。また、メキシコにおける食品価格の上昇率(最小加工食品で平均8.4%、超加工食品で平均6.1%)は、同時期の国全体の消費者物価指数の上昇率(平均5.0%)を上回っていたことも述べられています。

この研究の位置づけと注意点

著者らは、この研究にはいくつかの限界があると述べています。第一に、栄養成分のデータは食品成分データベースに基づいており、期間中に商品の配合が変更された可能性(リフォーミュレーション)までは反映されていません。第二に、100kcalあたりの価格という指標は、エネルギーの入手しやすさを見るには有用である一方、消費者が実際に感じる「食品の高い・安い」という感覚(量や満腹感に基づく感覚)を必ずしも反映していない可能性があります。さらに、この研究で使われた「入手しやすさ」の指標は、あくまで食品価格の推移を捉えたものであり、世帯の所得や賃金、購買力の変化までは組み込まれていません。そのため、結果は所得を加味した本当の意味での「入手しやすさ」というよりも、相対的な食品価格の圧力を示すものとして解釈すべきだと著者らは注意を促しています。

また、この研究は今回の要旨・本文で示された分析に基づくものであり、単独の研究として今後さらに検証が重ねられていく性質のものです。今回の内容だけで、健康的な食生活の実現可能性について確定的な結論が出たわけではありません。

まとめ

この研究では、メキシコにおいて栄養価の高い最小加工食品ほどカロリーあたりの価格が高く、コロナ流行後にはその価格差がさらに広がったことが示されました。研究チームは、こうした状況が家計にとって、より安価でエネルギー密度の高い超加工食品への置き換えを促す可能性があると指摘しつつ、栄養価の高い食品の入手しやすさや価格の安定を図る政策の重要性を論じています。今回の結果は経済的な混乱が生じた際に食生活の質にどのような影響が及びうるかを考えるうえでの一つの手がかりであり、今後も注視していく必要がありそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:メキシコにおける食料価格の上昇と栄養格差の拡大:COVID-19前後・期間中の栄養密度食品と超加工食品のコスト(プロス・ワン・2026年08月)