この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Medicine
ライセンス: CC BY-NC 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
てんかんの治療や、神経障害性疼痛・片頭痛などの症状に対しても処方される「抗てんかん薬(ASM)」。一方で、日々の食事内容が体内の炎症状態に影響を与え、それが神経系の状態と関わっている可能性がこれまでも指摘されてきました。では、炎症を起こしやすいとされる食事パターンと、抗てんかん薬の使用状況との間には何か関係があるのでしょうか。今回紹介する研究は、米国の大規模な健康調査データを用いて、この点を統計的に検討したものです。
研究チームは、米国国民健康栄養調査(NHANES)の2013年から2020年のデータを利用し、11,536人(うち女性46.44%)を対象に分析を行いました。参加者の食事内容は1回の24時間思い出し調査から得られ、26種類の食事関連項目をもとに「食事性炎症指数(DII)」と呼ばれる指標が算出されています。これは、食べているものが全体として炎症を促しやすい傾向にあるか、抑える傾向にあるかを数値化したものです。抗てんかん薬の使用については、過去30日以内に使用したかどうかの自己申告に基づいて判定されました。年齢や性別、生活習慣などの要因を調整したうえで、DIIと抗てんかん薬使用との関連がロジスティック回帰という統計手法で調べられています。
研究でわかったこと
分析の結果、DIIが最も高い(炎症を促しやすい食事傾向が強い)群は、中間の群と比べて抗てんかん薬の使用が有意に多いという関連が示されました(オッズ比1.63、95%信頼区間1.15〜2.34)。さらに詳しく調べると、DIIと抗てんかん薬使用の関係は単純な右肩上がりではなく、J字型と表現される非線形の形を示したことが報告されています。つまり、ある一定のところから急に使用率が高まるような、単純ではないパターンが見られたということです。
この関連は、特に女性、無職の人、教育年数が短い人、そして身体活動が不十分な人において、より顕著に見られたとされています。また、栄養素ごとの検討では、食物繊維・ビタミンA・セレンの摂取量が多いほど抗てんかん薬使用との関連は弱まる(負の関連)傾向が示されました。一方でビタミンD・C・B12については摂取量が多いほど使用と正の関連が見られましたが、研究チームはこれについて、サプリメント利用の習慣を反映している可能性が高いと考察しています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究はある一時点でのデータを解析した横断研究であり、食事の炎症傾向が抗てんかん薬の使用を「引き起こす」といった因果関係を証明するものではありません。論文でも、逆の因果関係(たとえば薬の使用や基礎疾患が食生活に影響を与えている可能性)も否定できないとされており、今後の前向き研究による確認が必要だと述べられています。あくまで一つの研究であり、これだけで結論が確定したわけではない点に留意する必要があります。
今回の研究は、食事の炎症傾向と抗てんかん薬使用との間に統計的な関連が見られたことを示すものであり、特定の食品や栄養素が病気の予防や治療に直接役立つと結論づけるものではありません。今後、より詳しい仕組みの解明や、実際の因果関係を確かめる研究が期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):米国成人における食事性炎症指数および特定栄養素と抗てんかん薬使用との関連(メディシン・2026年08月)
著者:Guoli Ma(Department of Epidemiology, School of Public Health, Suzhou Medical College of Soochow University, Suzhou, Jiangsu, China)、Jiayu Zhang(Department of Epidemiology, School of Public Health, Suzhou Medical College of Soochow University, Suzhou, Jiangsu, China)、Hexing Wang(Department of Epidemiology, School of Public Health, Suzhou Medical College of Soochow University, Suzhou, Jiangsu, China)、Junlan Qiu(Department of Oncology and Hematology, Suzhou Hospital, Affiliated Hospital of Medical School, Nanjing University, Suzhou, Jiangsu, China)、Xiaochen Shu(Department of Epidemiology, School of Public Health, Suzhou Medical College of Soochow University, Suzhou, Jiangsu, China)