新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、外出の制限や生活リズムの変化など、私たちの暮らし方に大きな影響を与えました。こうした生活の変化は、体を動かす機会や食事の内容にも及んだと考えられますが、それが実際に体の中の数値、たとえば血液検査でわかる血糖値やコレステロール値にどう表れたのかは、あまり詳しく調べられていませんでした。今回紹介する研究は、ある地域の国立病院を受診した人たちの検査データを使い、パンデミックの前と最中とで血清の糖・脂質関連の数値を比較したものです。
研究でわかったこと
この研究は、2019年2月1日から2021年5月31日までに病院を受診した人たちの血液検査記録をさかのぼって調べる「後ろ向き研究」という手法で行われました。対象期間は2つに分けられ、「パンデミック前」(2019年2月1日〜2020年3月31日)と「パンデミック期間中」(2020年4月1日〜2021年5月31日)として、それぞれほぼ同じ長さの期間で比較されています。合計29万3462件という非常に多くの検査記録が解析対象となり、全体での比較に加えて、年齢・性別・季節ごとの違いも調べられました。
その結果、パンデミック期間中は、パンデミック前と比べて血清グルコース(血糖値)、総コレステロール、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、そして中性脂肪の値が上昇していたことが示されました。一方で、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)の値は低下していたと報告されています。これらの結果から、研究者らは、パンデミック期間はパンデミック前と比べて血糖・脂質のプロファイルがやや好ましくない方向に変化していたことが示唆される、と結論づけています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、実際の病院受診者から得られた検査データを大量に集めて比較したという点で規模の大きさが特徴ですが、あくまで一つの医療機関のデータをもとにした後ろ向きの観察研究です。要旨の中では、パンデミック中の生活習慣の変化(食事内容や運動量など)が具体的にどのように数値の変化に結びついたのかという因果関係までは述べられていません。あくまで「パンデミック前後で数値に違いがみられた」という関連が示されたにとどまり、この一つの研究だけで結論が確定したわけではない点には留意が必要です。
まとめ
今回紹介した研究では、コロナ禍を挟んだ前後の期間で、大規模な血液検査データをもとに血糖値やコレステロール値などが比較されました。その結果、パンデミック期間中には血糖値やLDLコレステロール、中性脂肪が上昇し、HDLコレステロールが低下していたことが報告されています。パンデミックのような社会全体の変化が、人々の体の中の数値にどう影響しうるのかを考えるうえで、興味深い手がかりを示す研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:COVID-19パンデミック前後における栄養関連生化学パラメータの評価(ミドル・ブラック・シー・ジャーナル・オブ・ヘルス・サイエンス・2026年08月)