この研究は、ラトビアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Nutrients

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

妊娠中の体は、胎児の成長を支えるために大きく変化します。基礎代謝や酸素消費量が増えることで、活性酸素種(ROS)と呼ばれる反応性の高い分子が多く生じやすくなります。研究チームは、ROSの産生と体の抗酸化の働きとのつり合いが崩れた状態を「酸化ストレス」として説明しています。

また、脂肪酸は細胞膜を保つ、細胞の情報伝達を支えるなど、さまざまな生理機能に関わります。赤血球(RBC)膜の脂肪酸組成は、過去およそ120日間の食事からの脂肪酸摂取を反映する客観的な指標として提案されている、と論文は述べています。

著者らは、この分野の研究がまだ限られていると指摘したうえで、ラトビアの妊娠中および産後の女性を対象に、赤血球膜リン脂質の脂肪酸指標と酸化ストレス指標を測定し、それらが互いに、また食事・生活習慣、妊娠週数、妊娠合併症、新生児の身体計測値とどう関連するかを調べることを目的としました。

何をどのように調べたか

この研究は、ある一時点の状態を調べる横断研究として行われました。ラトビアの研究助成プロジェクトの一環として、2020年7月から2023年6月にかけて、リガの外来医療機関と他都市の産科病棟でデータが集められました。ラトビア国外に居住する人、未成年、多胎妊娠、糖尿病や一部の消化管疾患、摂食障害のある人などは対象から除かれています。

最終的に、酸化ストレスに関する分析の対象となったのは20〜41歳の女性74人で、妊娠27〜40週の妊婦と、出産後7日以内の産後女性が含まれます。食事内容は、211品目について頻度と量をたずねる食物摂取頻度調査票で過去6か月分を評価し、あわせて73問の構造化された質問票と診療記録から、生活習慣や健康状態、出産や新生児の情報を集めました。

血液からは、赤血球膜リン脂質の脂肪酸組成を水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフィー(GC-FID)で測定し、各脂肪酸を検出された脂肪酸全体に対する割合(%)として表しています。血漿では、酸化による脂質の変化を反映するマロンジアルデヒド(MDA)、鉄イオンを還元する力として抗酸化能をみるFRAP、抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の活性、セレンを運ぶたんぱく質セレノプロテインP(SEPP1)が測定されました。

統計解析では主に順位相関(スピアマンの相関係数)が用いられ、多数の項目を同時に検定することで偶然の有意差が生じやすくなる点を補正する手続き(ベンヤミニ・ホックベルグ法、ホルム・ボンフェローニ法)もあわせて適用されています。著者らは、この解析が探索的なもので、特定の一つの関連をあらかじめ主要評価項目として定めてはいないと明記しています。

報告された主な結果

食事については、対象者の脂質摂取が総エネルギー摂取の42.0%、飽和脂肪酸(SFA)が6.8%を占めていました。著者らは、脂質の割合はラトビア保健省やWHO欧州が示す30%未満という水準を上回るものの、同様の傾向は他の欧州諸国でも観察されていると述べています。EPAとDHAの摂取量の中央値はそれぞれ195.1 mg、231.2 mgでした。

赤血球膜の脂肪酸では、飽和脂肪酸が全体の半分以上を占める最大の画分で、なかでも炭素数16の飽和脂肪酸(16:0、パルミチン酸)が最も多く含まれていました。妊婦と産後女性を比べると、産後女性ではDHAが有意に低く、一方で20:2(n-6)と飽和脂肪酸は有意に高いという結果でした。著者らはDHAの低さについて、授乳により母乳へDHAが移行し続けることを反映している可能性がある、と考察しています。酸化ストレス・抗酸化指標については、両群の間に統計的に有意な差は認められませんでした。

食事因子と赤血球脂肪酸、あるいは酸化ストレス指標との間には、統計的に有意ではあるものの弱い相関がいくつも見つかりました。ただし著者らは、これらは多重比較の補正を行うと有意ではなくなったと報告しています。

赤血球脂肪酸と酸化ストレス指標の間では、16:1、18:3(n-3)、18:3(n-6)、20:2(n-6)がFRAPと正の相関を示しました。母体の状態(妊娠中か産後か)を調整した解析でもこれらは有意なままでしたが、多重比較の補正後も有意であり続けたのは18:3(n-3)とFRAPの関連のみでした。さらに妊婦のみ(38人)に限った感度分析では、多くの関連が有意でなくなりました。著者らは、この人数では検出力が低いことをあらかじめ計算して示しています。

新生児の身体計測値との関係では、体重や頭囲などと赤血球脂肪酸やFRAPとの間に名目上有意な相関がいくつか認められましたが、妊娠週数・妊娠前のBMI・喫煙状況を調整したうえでも、ホルム・ボンフェローニ補正後に有意なまま残ったものはありませんでした。妊娠合併症の有無による脂肪酸組成や酸化ストレス指標の差も認められていません。

この研究が示すこと

この研究は、妊娠後期から産後という限られた時期の女性を対象に、食事、赤血球膜の脂肪酸組成、酸化ストレスの指標をまとめて測り、それらの関連を一つの集団の中で見渡した報告です。飽和脂肪酸が赤血球膜脂肪酸の中心を占めること、産後にDHAが低くなることといった所見が、ラトビアという特定の地域の集団について記述されました。

同時に、見いだされた関連の多くは弱く、多重比較の補正後には有意でなくなりました。著者らはこれを探索的な研究と位置づけ、検出力の限界や、脂肪酸組成を左右する遺伝的要因(脂肪酸不飽和化酵素の遺伝子多型など)を評価していないことも明記しています。横断研究であるため、観察された関連がそのまま原因と結果を意味するわけではありません。

妊娠期の栄養状態と酸化ストレスという、母と子の双方に関わる領域について、地域集団の実態を数値として記述した点に、この研究の意味があります。

著者:Ksenija Nikolajeva(Department of Rehabilitation, Riga Stradins University, 26a Anninmuizas Boulevard, LV-1067 Riga, Latvia)、Anna Lece(Institute of Occupational Safety and Environmental Health, Riga Stradins University, LV-1067 Riga, Latvia)、Andrejs Šķesters(Institute of Occupational Safety and Environmental Health, Riga Stradins University, LV-1067 Riga, Latvia)、Vinita Cauce(Statistics Unit, Riga Stradins University, 14 Balozu Street, LV-1048 Riga, Latvia)、Dzintars Začs(Scientific Institute of Food Safety, Animal Health, and Environment, Lejupes Street 3, LV-1076 Riga, Latvia)、Laila Meija(Department of Rehabilitation, Riga Stradins University, 26a Anninmuizas Boulevard, LV-1067 Riga, Latvia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ksenija Nikolajeva, Anna Lece, Andrejs Šķesters, et al. A Comprehensive Study of Dietary and Lifestyle Correlates of Erythrocyte Membrane Fatty Acids and Oxidative Stress and Their Association with Maternal and Neonatal Outcomes. Nutrients 2026-09-01. DOI: 10.3390/nu18172859. 原著ライセンス:CC BY.