この研究は、ヨルダンの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food & Nutrition Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
2型糖尿病は、インスリンの分泌不足や効きにくさによって血糖値が高くなる慢性の代謝疾患です。コントロールされないまま時間が経つと、心臓や血管、目、腎臓、神経に深刻な合併症を引き起こすことがあります。論文によれば、国際糖尿病連合の資料では2024年時点で20〜79歳の成人5億8,900万人が糖尿病を抱えており、2050年には8億5,300万人に増えると見込まれています。ヨルダンでの有病率は特に高く、2017年の報告では女性18.1%、男性32.4%とされています。
食物繊維は、穀類・果物・野菜・ナッツなどに自然に含まれる成分で、糖の代謝に働きかけることを通じて血糖の調節に関わると考えられてきました。現在の食事ガイドラインは1,000kcalあたり1日14g以上の摂取を勧めていますが、著者らが引用したヨルダンでの調査では実際の平均摂取量は1日24.4g、1,000kcalあたり約8gにとどまり、推奨量のおよそ3分の2でした。
著者らは、これまでの研究が食物繊維摂取の個々の側面を切り離して扱いがちで、知識・食品源・摂取パターン・現実の障壁をまとめて捉えた検討は少ないと指摘しています。そこで本研究は、2型糖尿病患者における食物繊維の知識の水準を評価し、食物繊維の豊富な食品をどのくらいの頻度で食べているかを調べ、それらとHbA1c(ヘモグロビンA1c、過去1〜2か月ほどの平均的な血糖状態を反映する検査値)との関連を検討し、さらに摂取を妨げていると本人が感じている要因を明らかにすることを目的としました。
調べ方
研究チームは2024年12月から2025年2月にかけて、ヨルダンの首都アンマンにある国立糖尿病・内分泌・遺伝センターに通院する2型糖尿病患者を対象に、横断研究(ある一時点での状況をまとめて観察する調査)を行いました。18歳以上で同意が可能な患者を対象とし、1型糖尿病や妊娠中の人などは除外されています。抽出には系統的無作為抽出が用いられ、研究の目的を説明したうえで、受付に来て組み入れ基準を満たした患者の5人目ごとに参加を依頼しました。必要最小限とされた385人を上回る722人が参加しています。
主要な指標であるHbA1cは診療記録から取得し、7%未満、7〜8%、8%超の3つに分けられました。食物繊維の知識は、繊維を多く含む食品源についての知識と、心血管疾患・肥満・糖尿病・高コレステロール血症など健康との関わりについての知識を尋ね、正答の割合で「低い(60%未満)」「中程度(60〜80%)」「高い(80%超)」に区分されました。食物繊維の豊富な食品の摂取は、「食べない」から「毎日」までの頻度で自己申告してもらう形式で、分量そのものは測っていません。あわせて、高繊維食品が高価か、健康への利点が少ないと思うか、味が好みでないか、入手しにくいかといった、本人が感じる障壁も尋ねられました。
主な報告結果
参加者は女性387人(53.6%)、男性335人(46.4%)で、平均年齢は62.7歳でした。平均BMIは31.3で、54.7%が肥満に該当し、その割合は女性(63.3%)が男性(44.8%)より高いと報告されています。糖尿病の罹病期間は10年未満が34.1%、15年以上が36.7%でした。血糖コントロールは十分とはいえず、HbA1cが7%未満だったのは38.1%にとどまりました。高血圧(77.0%)と脂質異常症(84.3%)を併せ持つ人が多く、心血管疾患は男性に多く、骨粗鬆症・過敏性腸症候群・便秘は女性に多いという性差も示されました。
食品別にみると、加熱した野菜、サラダ、皮つきの果物、全粒パン、白パン、ナッツ、ドライフルーツ、果汁、シリアルのいずれについても、摂取頻度とHbA1cの間に統計的に意味のある関連は認められませんでした。例外はオーツ麦で、摂取頻度が「週1回未満」または「週に数回」と答えた人は、HbA1cが7%未満のコントロール良好群に該当する割合が有意に高いという結果でした(P = 0.005)。ただし著者らは、この評価も分量ではなく頻度に基づくものであり、横断研究のため因果の向きは特定できず、血糖コントロールが良い人ほどオーツ麦を選びやすいという逆向きの説明も否定できないと述べています。
摂取を妨げる要因として最も多く挙がったのは、ガスなどの消化器症状(23.4%)で、女性に有意に多く報告されました。次いで、食物繊維の重要性についての認識不足(23.5%)、味が好みでない(19.5%)、入手しにくい(15.5%)、価格が高い(10.2%)が続きました。
知識に関しては、食品源についての知識(P = 0.017)と健康との関わりについての知識(P = 0.049)の両方が、HbA1cと有意に関連していました。知識が低いほどHbA1cが高い傾向がみられ、とくに7〜8%および8%超の区分で目立ちました。なお著者らは、他の要因を同時に調整した多変量解析では統計的に有意な関連は認められなかったため、結果は二変量の解析として示していると記しています。
この研究が示すこと
著者らは、食物繊維が血糖の改善に寄与しうるとされる一方で、この集団では果物・パン・野菜の摂取頻度とHbA1cの間に有意な関連が見られなかったことを報告し、その理由として、文化的な食習慣、分量、調理法、食品の質の違いが関わっている可能性を挙げています。たとえばヨルダンの全粒パンは、漂白した小麦粉にふすまを加えたもので小麦胚芽を欠いていることが多いこと、パンが主要な炭水化物源として高脂肪の食品と組み合わされやすいことなどが、論文中で指摘されています。
研究の限界として、横断研究であるため因果関係は言えないこと、食事の評価が分量ではなく頻度に基づく定性的なものであること、対面での聞き取りによる思い出しの偏りや望ましく答えようとする偏りが入りうること、身体活動量や総エネルギー摂取量、調理法といった交絡要因を十分に扱えていないことが挙げられています。
それでもこの研究からは、食物繊維についての知識が血糖の状態と結びついている一方で、知識があるだけでは十分ではないという構図が浮かび上がります。消化器症状や入手のしやすさ、価格、味の好みといった日常生活の壁が、知っていることを実際の食卓に移すのを妨げているためです。著者らは、その文化的文脈に合わせた教育と、知識を実践へ翻訳する具体的な工夫の必要性を結論として述べています。
著者:Dana Abu Hamed(The National Center for Diabetes, Endocrinology, and Genetics (NCDEG), Amman, Jordan)、Refat AlKurd(Department of Nutrition, Faculty of Pharmacy and Medical Sciences, University of Petra, Amman, Jordan)、Mousa Abujbara(The National Center for Diabetes, Endocrinology, and Genetics (NCDEG), Amman, Jordan)、Yousef Khader(Department of Public Health, Jordan University of Science and Technology (JUST), Irbid, Jordan)、Kamel Ajlouni(The National Center for Diabetes, Endocrinology, and Genetics (NCDEG), Amman, Jordan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dana Abu Hamed, Refat AlKurd, Mousa Abujbara, et al. Associations of dietary fiber knowledge and intake with glycemic control among Jordanian patients with type two diabetes mellitus: a cross-sectional study. Food & Nutrition Research 2026-08-31. DOI: 10.29219/fnr.v70.13819. 原著ライセンス:CC BY.