クコの実やスイカズラなど一部の植物に含まれる「イリドイド配糖体」という成分の一種、モノトロペイン。植物由来の化学物質(フィトケミカル)にはさまざまな生理活性が報告されていますが、実際に体内でどのくらい吸収されるのかは、まだよくわかっていない部分が多いといいます。今回紹介する研究では、モノトロペインと、その化学構造を少し変えた2種類の「エステル体」(モノトロペイン-10-クマル酸エステル、モノトロペイン-10-桂皮酸エステル)が、腸の壁をどのように通過するのかを、実験室内で再現した腸管モデルを使って調べています。

研究チームは、Caco-2細胞とHT29-MTX-E12細胞という2種類の細胞を組み合わせて培養する「共培養モデル」を用いました。これは、小腸の上皮細胞の性質を模した、実験でよく使われる手法です。まずコンピューター上でのシミュレーション(in silico解析)により、モノトロペインとそのエステル体は極性が高く(186平方オングストローム超)、腸内のpH環境ではイオン化しやすい性質(pKa約4.10〜4.14)を持つことが示されました。これは、細胞膜を受動的にすり抜けて吸収される力(受動透過性)が低いことと関連していると考えられています。

研究でわかったこと

細胞への取り込み実験では、モノトロペインとそのエステル体はいずれも速やかに細胞内へ取り込まれ、その量は時間が経ってもあまり変化しないという、時間に依存しない挙動が観察されました。興味深いことに、モノトロペインの取り込みは、通常の体温に近い37℃よりも低温の4℃で行った方が多くなりました。これは、能動的な輸送(エネルギーを使って積極的に取り込む仕組み)によるものというより、低温で細胞の排出機能や代謝が抑えられたためではないかと考察されています。一方、2種類のエステル体ではこうした温度による違いは見られませんでした。

腸の壁を模した細胞シートを通り抜けて反対側へ移動する量(経上皮輸送)は全体的に少なく、腸管の内側(消化管側)のpHを7.4から6.0に下げた条件の方が、輸送量がやや増える傾向が示されました。また、人工的な脂質膜を使って受動的な透過性だけを調べる「PAMPA」という手法でも、やはり低い透過性であることが確認されています。さらに、特定の輸送体を阻害する薬剤を使った実験からは、糖を運ぶ輸送体であるナトリウム-グルコース共輸送体1(SGLT1)や、有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)と呼ばれるタンパク質が、モノトロペインの取り込みに部分的に関わっている可能性が示唆されました。加えて、質量分析を用いた網羅的な解析(HPLC-MS)では、代謝物は検出されず、エステル体が分解(加水分解)される様子も見られませんでした。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

今回の結果からは、モノトロペインおよびそのエステル体の腸管での透過性は全体的に限られており、化学構造をエステル化しても透過性の改善にはつながらなかったことが読み取れます。研究チームは、これらの成分は全身への吸収量(全身曝露)が少なく、実際の体内では大腸の細菌や肝臓による代謝が重要な役割を果たしている可能性があると述べています。ただし、これは細胞を用いた実験モデルでの知見であり、ヒトの体内でそのまま同じことが起こるとは限りません。一つの基礎研究の結果であり、健康への影響について結論づけるものではない点に留意する必要があります。

モノトロペインという成分名になじみのない方も多いかもしれませんが、こうした植物由来成分が「どのように体に取り込まれるのか」を明らかにすることは、食品成分の働きを理解するうえでの基礎的な一歩といえます。今回の研究は、その吸収のしくみの一端を細胞レベルで示したものであり、今後さらに研究が積み重ねられていくことが期待されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:Caco-2/HT29-MTX-E12共培養モデルにおけるモノトロペインおよびモノトロペインエステルの取り込みと輸送(モレキュラー・ニュートリション・アンド・フード・リサーチ・2026年07月)