著者の所属・活動拠点の国は、ルーマニアです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ザワークラウトは、刻んだキャベツを塩とともに漬け込み、キャベツに付いている乳酸菌の働きで発酵させる中欧・東欧の伝統的な発酵食品です。乳酸菌が糖を乳酸に変えることで酸性になり、保存性が生まれます。その仕上がりは、乳酸菌の育ち方や発酵温度などの条件に大きく左右されます。
一方、植物から蒸留して得る精油(エッセンシャルオイル)は香りの成分を多く含み、細菌の増殖を抑える作用があることで知られています。研究チームは、こうした精油を発酵中のキャベツに加えたとき、発酵を担う乳酸菌や、出来上がったザワークラウトの成分や風味にどのような影響が出るのかを調べました。
どのように調べたか
材料には、ルーマニアで栽培された白キャベツの品種「デ・ブザウ」が使われました。研究チームはディル、タイム、ワイルドタイム、ローレル(月桂樹)、バジルの葉を乾燥させて水蒸気とともに蒸留し、それぞれの精油を取り出しました。
刻んだキャベツをガラス瓶に入れ、2.5%の食塩水に精油を0.015%の濃度で乳化させて加えました。精油の濃度は、役に立つ乳酸菌の働きを妨げないよう、文献で報告されている値より低く設定されています。発酵温度は14℃と22℃の2通りとし、精油を加えない対照も用意しました。発酵はpHが一定になるまでの12日間で止め、その後5℃の冷蔵庫で180日間保存しました。
調べた項目は、酸性度を示すpH、乳酸菌の数、果汁に溶けている成分の量(可溶性固形分)、糖、ビタミンC(アスコルビン酸)、ポリフェノールなどのフェノール類、抗酸化活性です。さらに、園芸学部の学生10人による味や香りの評価も行われました。
主な結果
発酵の初期には、22℃で発酵させたものの方が14℃のものよりpHが速く下がりました。発酵終了時のpHは、ディル精油を加えて22℃で発酵させたものが3.14で最も低く、タイム精油を加えて22℃で発酵させたものが4.91で最も高くなりました。乳酸菌はどの条件でも増えましたが、数が最も多かったのは精油を加えない対照でした。研究チームは、精油が乳酸菌に影響を与えていると述べています。ただし、どの精油でも発酵が完全に止まることはありませんでした。
生のキャベツに100gあたり3.34g含まれていた糖は、発酵後、対照ではわずかに残った一方、精油を加えたものでは検出されなくなりました。測定されたビタミンCの量は、多くの条件で発酵後に生のキャベツ(100gあたり20.56mg)より多くなりました。著者らは、乳酸菌がビタミンCを作り出したのではないと説明しています。キャベツ中のビタミンCと結びついた成分から酸性の環境でビタミンCが放出されることや、空気に触れにくい状態で分解が抑えられることなどが理由に挙げられています。6か月の保存後にはビタミンCは大きく減り、生のキャベツを下回る条件もありました。
フェノール類の量と抗酸化活性は、どちらも発酵によって生のキャベツより高くなりました。フェノール類が最も多かったのはタイム精油を加えて14℃で発酵させたもので、抗酸化活性が最も高かったのはバジル精油を加えて14℃で発酵させたものでした。保存中はいずれもやや低下しました。発酵温度は、これら2項目に統計的に意味のある差をもたらしませんでした。また著者らは、精油の成分分析を行っていないため、抗酸化活性の上昇が精油によるものとは結論できないとしています。
味や香りの評価では、ディル精油を加えて22℃で発酵させたものが最も好まれ、バランスの良い風味と香りが評価されました。次いで、バジル精油を加えて22℃で発酵させたものと、ワイルドタイム精油を加えて14℃で発酵させたものが好まれました。タイム精油を加えたものは香りと味が強すぎて評価が低くなりました。なお、評価者は10人と少なく、著者らはこの官能評価を予備的なものと位置づけています。
この研究が示すこと
この研究からは、ごく少量の植物精油でも、ザワークラウトの乳酸発酵の進み方や仕上がりの成分、風味が変わりうることが分かります。精油の種類によって乳酸菌への影響や好まれ方には差があり、ディルのように風味の評価が高かったものもあれば、タイムのように香りが強すぎたものもありました。
一方で、精油の成分分析や、どの種類の乳酸菌が影響を受けたかの特定は行われておらず、成分の変化に精油がどこまで関わったかは未解明の部分として残されています。研究チームの報告は、精油を発酵野菜に加える際の効果と課題の両方を具体的に示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Felicia Tuțulescu(Department of Horticulture & Food Science, Faculty of Horticulture, University of Craiova, A.I. Cuza Street, No. 13, 200585 Craiova, Romania)、Mira Elena Ionică(Department of Horticulture & Food Science, Faculty of Horticulture, University of Craiova, A.I. Cuza Street, No. 13, 200585 Craiova, Romania)、Felicia Stoica(Department of Horticulture & Food Science, Faculty of Horticulture, University of Craiova, A.I. Cuza Street, No. 13, 200585 Craiova, Romania)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Felicia Tuțulescu, Mira Elena Ionică, Felicia Stoica. The Influence of Incorporating Essential Plant Oils in the Lactic Fermentation Process of Cabbage on the Quality of Sauerkraut. Foods 2026-08-05. DOI: 10.3390/foods15152746. 原著ライセンス:CC BY.