著者の所属・活動拠点の国は、イギリスです。
掲載誌:Journal of Rural Studies
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
スコットランドのスペイサイドでは、ウイスキーと飲食に関わる観光が、地域の景観や文化、自然環境を商品の価値に結び付けています。研究チームは、こうして地域から生まれる価値が、地元の人々や環境への恩恵としてどのように還元されているかを調べました。
著者らは、場所そのものがブランドの一部になる仕組みを「ブランドスケープ」と捉えています。産業が地域の魅力を利用して得る価値と、地域に残る恩恵との間にずれがないかを、経済面だけでなく社会・文化面、環境面から検討しました。
何を、どのように調べたか
研究チームはスペイサイドを事例に、モルトウイスキーと飲食観光について、生産から流通、販売、観光サービスへとつながる活動を調べました。地域ブランドを見る視点と、こうした事業のつながりを追う「価値連鎖分析」を組み合わせた研究です。
データ収集は2021年9月から2023年11月に行われました。学術文献や関連報告書に加え、雇用、税収、環境指標などの既存資料を収集し、6回の参加型ワークショップと、関係者55人への半構造化インタビューを実施しました。これは、あらかじめ用意した質問を軸に、回答に応じて話を掘り下げる聞き取りです。関係者による助言グループも、調査活動の共同検討や結果の確認に関わりました。
主な報告結果
研究チームは、ウイスキー産業と観光が地域に大きな恩恵をもたらす一方、その配分は均等ではなく、地域社会や自然環境がブランドを支える貢献に必ずしも見合っていないと報告しました。一部の地元所有の農場や観光事業を除き、資産や資金は主に大規模な土地所有者や多国籍企業が所有しており、地元の人々が意思決定に関わる機会も、おおむね生産段階に限られていました。
社会・文化面では、ウイスキー産業、観光業、地域の人々の間に良好な協力関係が見られました。土地や水の管理、蒸留所間の観光振興などで連携し、地域の景観や伝統を支えていました。その一方、住宅の別荘・休暇用住宅としての利用が多く、従業員や住民が手頃な価格の住宅を確保しにくいことも報告されています。企業による地域への配慮や還元は、法的義務よりも自主的な責任感に依存する面がありました。
環境面では、取水や冷却水の放流による河川への潜在的な影響、事故による流出や排水などの問題が挙げられました。同時に、一部の蒸留所では泥炭地や河川の再生に投資しており、水資源の管理や汚染削減に向けた取り組みも報告されました。著者らは、自然環境を守ることが、生産資源だけでなくブランドの維持にも結び付いていると捉えています。
この報告が示すこと
著者らが重視するのは、地域を商品のイメージや原料の供給源として扱うだけでなく、その価値を支える住民や環境にも恩恵が戻る関係です。企業と消費者に注目するだけでは捉えにくい地域への影響を、産業のつながりと地域ブランドの両方から見る必要があると論じています。企業の責任を確かなものにする制度や、地域の実情を反映したブランド表現も提言しました。
本研究は一地域を深く調べた事例研究で、著者らは、影響を数量や経済面から評価する点には限界があると認めています。その上で、地域ブランドの価値を考える際には、売られる商品だけでなく、それを支える人々や場所に何が残るかが重要だと示しています。
原著論文の著者・所属:Rachel Creaney(Social, Economic and Geographical Sciences Department, James Hutton Institute, Craigiebuckler, Aberdeen, Scotland, AB15 8QH, United Kingdom)、Sharon Flanigan(Social, Economic and Geographical Sciences Department, James Hutton Institute, Craigiebuckler, Aberdeen, Scotland, AB15 8QH, United Kingdom)、Kirsty Blackstock(Social, Economic and Geographical Sciences Department, James Hutton Institute, Craigiebuckler, Aberdeen, Scotland, AB15 8QH, United Kingdom)、Liz Dinnie(Social, Economic and Geographical Sciences Department, James Hutton Institute, Craigiebuckler, Aberdeen, Scotland, AB15 8QH, United Kingdom)、Chloe Thompson(Social, Economic and Geographical Sciences Department, James Hutton Institute, Craigiebuckler, Aberdeen, Scotland, AB15 8QH, United Kingdom)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rachel Creaney, Sharon Flanigan, Kirsty Blackstock, et al. When place becomes a brand: Creating values and benefits for rural people and places in a whisky region. Journal of Rural Studies(出版社:Elsevier BV) 2026-10-28. DOI: 10.1016/j.jrurstud.2026.104457. 原著ライセンス:CC BY.