この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Jurnal Kesehatan Masyarakat
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
生後6〜24か月の時期に与える補完食(離乳食、現地ではMP-ASIと呼ばれます)は、子どもの栄養状態を左右する大きな要因のひとつです。原著によれば、開始時期・回数・質・量が推奨を満たさない与え方は、低体重ややせ、発育の遅れのリスク上昇と関連することが、観察研究や介入研究で一貫して示されてきました。インドネシアでは2022年の全国栄養状態調査で、幼児の低体重(やせを含む栄養不良)の割合が17.1%と報告されています。
著者らは、こうした場面で従来行われてきた栄養教育——リーフレットの配布や保健施設での対面指導、集団カウンセリング——には、届く範囲や継続性、時間・場所の制約といった限界があり、知識は増えても実践の変化までは結びつきにくいと指摘します。一方でSNSは若い母親に届きやすい手段ですが、短い教育動画と対話型のチャットボットを組み合わせた「双方向のデジタル教育」を、低体重児をもつ母親という高リスクの集団で評価した研究はほとんどないとしています。そこで本研究は、SNSを用いた双方向の情報・教育・コミュニケーション(IEC)が、母親の離乳食に関する知識・態度・実践(KAP)を改善するかを分析することを目的としました。
何を、どのように調べたか
研究チームは、2025年10月から11月にかけて、インドネシアのスマラン県で準実験デザイン(無作為割り付けを行わない対照群つき試験)を実施しました。対象は、県保健局のデータで低体重と判定された生後6〜24か月の子どもをもつ母親84人で、介入群42人・対照群42人に分けられました(それぞれ5か所の保健センターから)。参加の条件には、同意が得られること、Android端末を持ち操作できること、研究の全過程に参加すること、子どもに栄養状態へ影響する医学的疾患や先天異常がないことが含まれます。
介入群には14日間、TikTokとYouTubeで1日2本の教育動画が配信されました。内容は、離乳食の必要性と安全性、与え方と組み合わせ、簡単な作り方、回数や食材の多様性を含む量・頻度の十分さ、保存と調理の方法、子どもが体調を崩したときの与え方などです。TikTokの動画は1〜2.5分、YouTubeの動画は6〜9分で、後者は国際的な保健教育素材をインドネシアの文脈とガイドラインに合わせて吹き替え・調整したものだと述べられています。動画の内容は、あらかじめ行った系統的文献レビューと、対象となる母親のニーズや障壁を把握するためのフォーカスグループディスカッションに基づいて作られました。加えて、WhatsApp上で24時間対応のチャットボットが用意され、離乳食に関する母親の質問に答えるとともに、動画視聴を促すリマインドが日々行われました。対照群は、保健センターの通常のサービスを受けました。
評価は、信頼性を確認した質問票を用い、介入の前後で知識・態度・実践の得点を測定する形で行われました。群内の変化はウィルコクソンの符号順位検定、群間の比較はマン・ホイットニー検定で解析されています。介入前の基本的な特徴(母親の年齢や学歴、子どもの月齢や出生体重など)は両群でおおむね同等でしたが、子どもの性別のみ統計的な差がみられたと報告されています。
報告された主な結果
知識の得点は、対照群でも17.14点から18.14点へ上昇しましたが(p = 0.004)、介入群では18.36点から20.43点へと、より大きな上昇がみられました(p < 0.001)。介入前には両群に有意差はありませんでしたが(p = 0.061)、介入後には有意な差が認められました。
態度については、対照群の得点が66.36点から63.83点へと低下した(p = 0.019)のに対し、介入群では70.24点から76.43点へ上昇しました(p < 0.001)。著者らは、この対照群の低下について、散発的で頻度の少ない保健コミュニケーションだけでは母親の態度を維持・向上させるには不十分であることを示すものだと解釈しています。
実践の得点は、対照群では前後とも12.88点で変化がありませんでした(p = 1.000)が、介入群では13.83点から14.24点へと有意に上昇しました(p = 0.009)。介入後の群間比較では、知識・態度・実践のすべてで有意差(p < 0.001)が認められ、介入群では中程度から大きい効果量が得られたと報告されています。
著者らは、変化が生じた仕組みとして、短い動画が視覚と音声で理解しやすい情報を伝えて知識と態度を高めたこと、繰り返し見られる柔軟なアクセスが記憶の定着を助けたこと、調理や分量を示す実演が母親のまねしやすい行動の手がかりになったこと、そしてチャットボットが必要な場面で個別の疑問に答える「その場での支え」となったことを挙げています。同時に、無作為割り付けをしていないこと、回答が社会的に望ましい方向に偏る可能性があること、介入期間が比較的短いことを限界として挙げ、子どもの栄養状態という長期的な結果については慎重に解釈すべきだとしています。
この研究が示すこと
この研究は、SNS上の短い教育動画と24時間対応のチャットボットを重ねた双方向の栄養教育が、低体重児をもつ母親の離乳食についての知識・態度・実践を、通常の保健センターのサービスよりも改善したことを報告しています。とくに、知識は増えても実践は変わりにくいとされてきた領域で、実践の得点にも有意な上昇がみられた点が、著者らの強調するところです。
論文は、こうしたデジタル教育を、届く範囲や実施頻度に制約のある地域保健の現場を補う、実行しやすく費用の負担も小さい方法として位置づけています。ただし著者らは、行動の変化が続くかどうか、そして子どもの栄養状態そのものにつながるかどうかを確かめるには、無作為化を用いたより強い設計と、より長い期間、子どもの体格指標の測定を伴う研究が必要だと述べています。
著者:Vistra Veftisia(Public Health Study Program, Faculty of Medicine, Universitas Negeri Semarang)、Mahalul Azam(Public Health Study Program, Faculty of Medicine, Universitas Negeri Semarang)、Dina Nur Anggraini Ningrum(Public Health Study Program, Faculty of Medicine, Universitas Negeri Semarang)、Oktia Woro Kasmini Handayani(Public Health Study Program, Faculty of Medicine, Universitas Negeri Semarang)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Vistra Veftisia, Mahalul Azam, Dina Nur Anggraini Ningrum, et al. Interactive Social Media-Based Nutrition Education to Improve Complementary Feeding Practices for Mothers with Underweight Children. Jurnal Kesehatan Masyarakat 2026-09-26. DOI: 10.15294/kemas.v22i1.37746. 原著ライセンス:CC BY.