著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:Clinical Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
総説のねらい
運動不足は世界的な問題になっています。論文によると、身体活動が不十分な人の割合は2022年に31.3%に達し、半数以上の国で増加していました。全身持久力(心肺持久力)は、運動中に体がどれだけ多くの酸素を取り込めるかで測られ、心血管病や全死亡の強い予測因子として知られています。それにもかかわらず、多くの集団で持久力は低下傾向にあるといいます。
著者らは、座りがちな仕事や生活習慣に加えて、見過ごされてきた要因として現代の食事に注目しました。この総説は、加工度の高い食品に多く含まれる無機リン酸塩(リン添加物)を過剰にとることが、運動のしにくさ(運動耐容能の低下)や骨格筋の不調とどう結びつくのかについて、これまでの知見を整理したものです。
著者らは、定義に幅がある「超加工食品」全体を論じるのではなく、量を客観的に測れて科学的に検証しやすい成分として、リン添加物に焦点を絞ったと説明しています。また、超加工食品と健康との関連を示す観察研究は、社会経済的な要因の影響を受けやすく、慎重に解釈する必要があるとも述べています。
加工食品とリン添加物
米国では、成人が摂取するエネルギーのおよそ57〜58%を超加工食品が占めると報告されています。リンは食品にもともと含まれていますが、植物由来や動物由来の有機リンは体への吸収率が20〜60%程度にとどまります。一方、保存料や乳化剤などとして加えられる無機リン酸塩は、すでにイオンの形になっているため、80〜100%がほぼそのまま吸収されるとされます。
論文が紹介する調査では、米国の食品約4万品目のうち56%にリン酸塩系の添加物が含まれていました。米国の成人のリン推奨量は1日700mgですが、平均摂取量はその約2倍の1400mg程度とされています。さらに米国では、食品の栄養表示にリンの総量を記載する義務がありません。著者らは、そのため消費者も医療者も実際の摂取量を把握しにくい状況にあると指摘しています。
動物と細胞の研究から見えたこと
著者らが最も有力な手がかりとして挙げるのは、マウスを使った実験です。高リン食(リン2.0%)を12週間与えたマウスは、通常食(0.6%)のマウスに比べて、最大酸素摂取量、走行を続けられる時間、自発的な活動量がいずれも低下しました。一方で、心臓のポンプ機能、体重、筋肉量、体脂肪量、血糖値には変化がありませんでした。このことから、運動能力の低下は肥満や心臓の問題ではなく、骨格筋の代謝の異常によるものと考えられています。
筋肉の内部では、脂肪酸の利用に関わる多くの遺伝子の働きが低下し、糖の利用に関わる遺伝子の働きは高まっていました。筋肉から取り出したミトコンドリア(細胞内でエネルギーをつくる器官)でも酸素の消費が減っており、エネルギー産生能力が落ちていることが示されました。培養した筋細胞を高リン環境に置いても同じような遺伝子変化が再現されたことから、リンが筋細胞に直接作用している可能性が示されています。
このほか、高リン環境が筋細胞を小さくする、筋肉の形成に関わる遺伝子の働きを抑える、といった報告も紹介されています。高齢マウスで食事中のリンを0.6%から0.2%に減らすと筋力の低下が防がれたという研究もあり、著者らはこれをリンと筋力低下の因果関係を支持する結果と位置づけています。
人での知見と、その意味
人を対象とした研究も紹介されています。1603人を調べた米国の研究では、血液中のリン濃度が高い人ほど中〜高強度の運動時間が短く、座っている時間が長い傾向がありました。この関連は年齢や腎機能などを考慮しても残り、心機能との関連は見られませんでした。7421人の成人を対象とした別の調査では、血中リン濃度が高いほど太ももの筋力が低いという関連が報告されています。また健康な人の小規模な研究では、食事からのリン摂取が多い人ほど、ふくらはぎの筋肉でのエネルギー産生が低い傾向がありました。ただし、これらは関連を示したもので、因果関係を直接示したものではありません。
著者らは、健康な4人を対象とした予備的なクロスオーバー試験の結果も報告しています。同じ参加者が、通常の米国人並みのリン摂取量に相当する時期と、推奨量程度に抑えた時期をそれぞれ4週間ずつ経験しました。その結果、リンを減らした時期には自転車運動中の酸素摂取量が増え、最大時では1分あたり167mL多くなりました。この違いは心臓が送り出す血液量ではなく、筋肉が酸素を取り込む量の差によるものだったといいます。著者らは、ごく少人数の予備試験であり、より大規模な試験での検証が必要だとしています。
なお、運動選手が短期間に大量のリン酸ナトリウムを摂取する研究では、効果があったとする報告と、なかったとする報告が混在しています。著者らは、こうした短期的な大量摂取と、加工食品から長期間にわたって少し多めに摂り続ける状態とは本質的に異なると述べています。
この総説が示しているのは、加工食品に広く使われ、表示では見えにくいリン添加物が、筋肉のエネルギー代謝を通じて運動能力の低下と結びついている可能性です。動物や細胞では直接的な影響を示す結果がそろいつつある一方で、人での証拠はまだ観察研究と小規模な予備試験にとどまっています。
原著論文の著者・所属:John M. Giacona(1Hypertension Section, Cardiology Division, Department of Internal Medicine, The University of Texas Southwestern Medical Center, 5323 Harry Hines Boulevard, Dallas, Texas, U.S.A; 2Department of Applied Clinical Research, The University of Texas Southwestern Medical Center, 5323 Harry Hines Boulevard, Dallas, Texas, U.S.A; 3Cardiology Division, Department of Internal Medicine, The University of Texas Southwestern Medical Center, 5323 Harry Hines Boulevard, Dallas, Texas, U.S.A)、Han-Kyul Kim(1Hypertension Section, Cardiology Division, Department of Internal Medicine, The University of Texas Southwestern Medical Center, 5323 Harry Hines Boulevard, Dallas, Texas, U.S.A)、Wanpen Vongpatanasin(1Hypertension Section, Cardiology Division, Department of Internal Medicine, The University of Texas Southwestern Medical Center, 5323 Harry Hines Boulevard, Dallas, Texas, U.S.A; 3Cardiology Division, Department of Internal Medicine, The University of Texas Southwestern Medical Center, 5323 Harry Hines Boulevard, Dallas, Texas, U.S.A)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):John M. Giacona, Han-Kyul Kim, Wanpen Vongpatanasin. Inorganic phosphate: a link between processed food and exercise intolerance in the modern world. Clinical Science 2026-08-14. DOI: 10.1042/cs20250837. 原著ライセンス:CC BY.