この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of the Science of Food and Agriculture
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
炊いたごはんを冷凍して保存する方法は、レトルトや冷凍の「すぐ食べられるごはん」を支える技術です。ただし冷凍すると米の内部に氷の結晶ができ、水分の分布が変わるため、でんぷんとタンパク質がつくる組織や食感が損なわれることがあります。研究チームは、この冷凍と解凍のふるまいを左右する要因を整理し、より扱いやすい冷凍ごはんをつくる手がかりを探ろうとしました。
著者らが注目したのは二つの処理です。一つは、米を炊く前にエタノール(お酒の成分であるアルコール)の水溶液に浸けること。もう一つは、炊くときの水の代わりにトレハロース(でんぷんなどに由来する糖の一種で、凍結や乾燥から食品の構造を守る働きが知られている)の水溶液を使うことです。論文では、エタノール浸漬をごはんの冷凍・解凍を改善するための「素地を変える前処理」として調べた例はこれまでなかったとしています。そこで、二つの処理を単独で行った場合と組み合わせた場合、さらに冷凍する温度を変えた場合について、凍る速さ、解ける速さ、水の状態、食感、微細な構造をまとめて比較することが本研究の目的でした。
どのように調べたか
研究チームは精米した米(品種サムグァン)を、蒸留水か、エタノールを700 mL/L含む水溶液のどちらかに70 °Cで30分浸けました。その後、蒸留水またはトレハロース水溶液(30 g/L)を使って電気圧力鍋で炊飯しています。炊き上がったごはんは密閉容器に入れ、−20 °Cまたは−55 °Cで中心部が−18 °Cになるまで凍らせ、−18 °Cで7日間保存しました。解凍は加熱せず、27 °Cの空気中に置いて中心温度が室温に達するまで待つ「受動的な解凍」で行っています。これは、屋外での食事などで冷凍ごはんを温めずに室温で戻して食べる使い方を想定した条件です。
評価には複数の手法が使われました。温度計で凍結時間・凍結速度・解凍時間を測り、示差走査熱量測定(DSC、試料を加熱したときの熱の出入りから氷が融けるのに必要な熱量を調べる方法)で「凍る水」の量を推定しました。また時間領域核磁気共鳴(TD-NMR、水分子の動きやすさを信号の減衰から読み取る方法)で水の動きやすさを、走査型電子顕微鏡(SEM)で凍結乾燥後の断面の穴の様子を観察しています。食感は、冷凍していない炊きたてのごはんと比べる形で、硬さ・付着性(ねばり)・凝集性・咀嚼性を測定しました。
報告された主な結果
最も大きな差が出たのは、エタノール浸漬とトレハロース炊飯を組み合わせ、−55 °Cで凍らせた試料(論文でET55と表記)でした。凍結速度は1.37 °C/分で全条件中最速、凍結時間は39.0分と最短で、室温での解凍時間も34.3分で最短でした。これに対し、無処理で−20 °Cで凍らせた対照では解凍に59.3分かかっています。論文では、毎分0.83 °Cを超える速さを急速凍結の範囲としており、この区分に入ったのはトレハロースを使い−55 °Cで凍らせた二つの試料だけでした。
水の状態についても違いが見られました。DSCでは、組み合わせ処理をした試料で氷が融けるのに必要な見かけの熱量(見かけの融解エンタルピー)と、凍ることのできる水の量がいずれも低く、ET55ではそれぞれ56.8 J/gと170.3 g/kgでした。無処理・−20 °Cの試料ではこれが168.0 J/gと503.7 g/kgだったと報告されています。試料ごとに水分量そのものが違うため、著者らは全水分量に対する比としても計算し、この比が無処理・−20 °Cの約0.895からET55では0.369まで下がったことから、凍る水が減ったのは水分量の低さだけでは説明できないとしています。TD-NMRでは、エタノールとトレハロースを併用した試料で、結合の弱い水と自由な水に対応する緩和時間が対照より短く、自由な水の相対的な信号の大きさが減ることなく、これらの水の動きが制限されていることを示したと述べています。
構造と食感については条件によって様子が異なりました。−20 °Cで凍らせた試料のSEM観察では、組み合わせ処理によって穴の小さい緻密な凍結乾燥組織ができていました。なお−55 °Cの試料は凍結乾燥後に緻密で半透明な外観となり、穴の解析が行えなかったため、微細構造の比較は−20 °Cの試料に限られています。食感では、凍結した試料の硬さはいずれも炊きたての無処理ごはんより高い値でしたが、トレハロースを含む試料を「同じ処理で凍結していないごはん」と比べ直すと硬さはほぼ変わらず、ET55の硬さもその炊きたての対応試料に近い値でした。著者らは、この差はおおもとの処理が最初の食感に与えた影響によるもので、冷凍保存中の変化によるものではないと解釈しています。付着性はエタノール処理をした試料で最もよく低下し、ねばりの減少にはエタノール処理が強く関わるとしています。
著者らは、でんぷんの再結晶化(老化)そのものは本研究では直接測っていないと明記しており、保存後に見られた硬さの上昇を老化だけに帰することはできず、凍結による構造の乱れや水分の移動も関わりうると述べています。水の動きが制限されているという解釈についても、構造測定では確かめていないと限界を示しています。
この結果が意味すること
この研究が示したのは、冷凍ごはんが室温でどれだけ早く解けるかは、凍らせる温度だけでなく、炊く前と炊くときの処理によって「凍ることのできる水」をどれだけ減らせるかにも左右されるということです。エタノール浸漬とトレハロース炊飯を−55 °Cの急速凍結と組み合わせた条件では、氷を融かすのに必要な熱量が小さく、水の動きが抑えられており、それが最短の解凍時間と結びついていたと報告されています。
著者らは、この組み合わせが冷凍ごはんの解凍効率と凍結・解凍に対する安定性を高めうるとまとめています。食品を凍らせて保つという身近な工程を、水がどのような状態でそこにあるのかという視点からとらえ直した研究といえます。
著者:Mingyo Ha(Division of Food and Nutrition Chonnam National University Gwangju South Korea)、Dong-Hwa Cho(Division of Food and Nutrition Chonnam National University Gwangju South Korea)、Felicia Irawan(Division of Food and Nutrition Chonnam National University Gwangju South Korea)、Hyun‐Jung Chung(Division of Food and Nutrition Chonnam National University Gwangju South Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mingyo Ha, Dong-Hwa Cho, Felicia Irawan, et al. Coupled ethanol–trehalose processing accelerates thawing of rapid‐frozen cooked rice through water‐state modulation. Journal of the Science of Food and Agriculture 2026-09-03. DOI: 10.1002/jsfa.71045. 原著ライセンス:CC BY.