この研究は、カザフスタンの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Human Earth and Future
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
缶詰などの保存食品では、微生物による食中毒を防ぐために高温で加熱する「殺菌」の工程が欠かせません。しかし加熱は、野菜に含まれる健康機能に関わる成分にも変化をもたらします。研究チームは、天然の抗酸化物質を多く含む野菜スナック缶詰を新たに設計し、その機能性をできるだけ保てる殺菌条件を見いだすことを目的としました。
ここで「抗酸化物質」とは、体内や食品中で起こる酸化反応を抑える働きをもつ成分の総称で、ポリフェノール、フラボノイド、ビタミンC、ビタミンE、β-カロテンなどが含まれます。著者らは、これらを水に溶けやすい「親水性」のグループと、油に溶けやすい「親油性」のグループに分けて考えました。両者は食品中での存在場所や熱に対する壊れやすさが異なるため、片方だけを測っても製品全体の抗酸化の実態はつかめない、というのが著者らの問題意識です。論文によれば、多成分からなる野菜スナック缶詰について、この二つの画分をまとめて評価した報告はこれまで限られていました。
何をどのように調べたか
研究チームはまず、カザフスタン・ジャンブール州で2025年に収穫されたピーマン(甘とうがらし)、トマト、ニンジン、カボチャ、ナス、ビーツ、タマネギ、ニンニク、ズッキーニ、ダイコンの10種類の野菜について、ポリフェノール、フラボノイド、ビタミンC、ビタミンE、β-カロテン、ペクチンの含量を測定しました。抗酸化活性については、親水性と親油性の画分を別々に定量できるアンペロメトリー法(電流を利用した測定法)が用いられています。
この分析結果をもとに、抗酸化成分の量が異なる3種類の配合が組み立てられました。配合1はトマトとピーマンを主体とした野菜サラダ(高抗酸化)、配合2はカボチャと根菜のピューレ(中程度)、配合3は根菜を中心とした混合野菜製品(低め)です。これらをガラス容器に詰め、実験用オートクレーブ(加圧加熱殺菌装置)で、温度115〜125℃、時間20〜40分、圧力110〜130kPaの範囲を変えながら処理しました。
処理条件の影響を整理するため、著者らは応答曲面法と呼ばれる統計的手法を使っています。これは、温度・時間・圧力といった複数の条件を一度に変化させた実験データから、結果がどう変わるかを数式(回帰式)として表し、条件の組み合わせが最も望ましくなる点を探す方法です。条件を一つずつ変える従来のやり方に比べて、少ない実験回数で全体像をつかめる点が利点とされています。モデルが妥当かどうかはフィッシャー基準(有意水準p≤0.05)で確認されました。すべての測定は3回繰り返して行われています。
報告された主な結果
原料野菜のなかで最も高い抗酸化能を示したのはピーマンでした。論文では、ポリフェノール0.31±0.02%、フラボノイド0.18±0.01%、ビタミンC 226.4±5.1mg/100gと報告されています。ビタミンCの値は他の野菜を大きく上回りました。抗酸化活性の測定でも、ピーマンは親水性画分0.80mg/g、親油性画分0.24mg/gと、いずれも最も高い値を示しています。ニンニクが両画分で二番手に位置し、β-カロテンについてはニンジン、ペクチンについてはビーツが高い値を示すなど、成分の多い野菜は項目ごとに異なりました。
加熱殺菌による変化は、著者らが「多方向的(multidirectional)」と表現するとおり、二つの画分で逆向きでした。親油性の抗酸化物質は24.5〜102.6%増加し、一方で親水性の抗酸化物質は37.9〜67.9%減少しました。著者らはこの結果について、加熱で細胞構造が壊れて結合していた成分が遊離しやすくなったことが親油性画分の増加につながり、熱と酸化による分解が親水性画分の減少をもたらしたと説明しています。なお、これは著者らによる解釈であり、加熱が原因であることを個別に検証した実験とは区別して読む必要があります。
こうした相反する変化をふまえ、研究チームは微生物学的な安全性と機能性成分の保持を両立させる条件として、温度120〜125℃、処理時間27〜31分、圧力117〜122kPaという最適な殺菌条件を示しました。
この研究が示すこと
この研究が伝えているのは、加熱殺菌が抗酸化成分を一律に「減らす」処理ではない、という点です。水に溶ける成分は失われる一方で、油に溶ける成分は測定上むしろ増える。片方だけを見れば、加熱の影響を過大にも過小にも見誤りかねません。
著者らは、多成分からなる野菜缶詰について二つの抗酸化画分をあわせて評価し、そのうえで殺菌条件を数式として整理した点に本研究の新しさがあるとしています。安全性のための加熱と、原料がもつ機能性の保持という、しばしば対立する二つの要請のあいだで、どこに条件を置けばよいかを具体的な数値で示した報告といえます。
著者:Nurzhan Zh. Muslimov(International Taraz University named after Sh. Murtaza, Taraz 080000)、Kurmangazy Omarov(International Taraz University named after Sh. Murtaza, Taraz 080000)、Гульнара Джумабекова(Limited Liability Company "Scientific and Production Unification "KazProdProm", Taraz 080000)、Aygerim Tuyakova(International Taraz University named after Sh. Murtaza, Taraz 080000)、Indira Zaurbekova(Limited Liability Company "Scientific and Production Unification "KazProdProm", Taraz 080000)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nurzhan Zh. Muslimov, Kurmangazy Omarov, Гульнара Джумабекова, et al. Impact of Thermal Processing on the Antioxidant Profile and Stability of Vegetable Snack Canned Products. Journal of Human Earth and Future 2026-09-01. DOI: 10.28991/hef-2026-07-03-03. 原著ライセンス:CC BY.