この研究は、ドイツの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Innovative Food Science & Emerging Technologies

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

パンやビールでおなじみの酵母(サッカロミセス・セレビシエ)は、乾燥重量あたり40〜60%程度のたんぱく質を含み、食品用のたんぱく質原料として注目されています。酵母からたんぱく質を取り出すには、まず細胞を壊して中身を外へ出す「細胞破砕」という工程が必要で、酵素を使う方法や物理的な力で壊す方法など、いくつものやり方があります。破砕方法が違えば、得られる「酵母エキス」の成分や色も変わることは知られていましたが、なぜそうした違いが生じるのか、その仕組みははっきりしていませんでした。

著者らは、破砕の最中に酵母細胞が受ける熱や機械的な力、そして酸素との接触といった条件が、エキスの成分と見た目にどうつながるのかを明らかにすることを目的としました。特に、食品としての利用価値を大きく左右するにもかかわらずこれまであまり議論されてこなかった「色」に注目している点が、この研究の特徴です。なお研究チームは、それぞれの破砕方法の条件を細かく最適化することではなく、方法ごとの条件で比べることを意図したと述べています。

調べた方法

研究チームは市販の生パン酵母を用い、5種類の破砕方法を試しました。酵素を使う非機械的な方法として、酵母自身がもつ酵素で分解させる「自己消化」と、これに加えて外から酵素(パパイン)を加える「酵素分解」の2つ。機械的な方法としては、超音波をあてる「超音波処理」、高速で回転させて強いせん断力をかける「インラインディスパーサー」と「コロイドミル」の3つです。破砕後の液は遠心分離し、上澄みを凍結乾燥させて粉末状の酵母エキスとしました。比較の基準として、破砕していない酵母懸濁液の上澄みを同じように乾燥させたものも用意しています。

得られた試料については、顕微鏡で細胞の形の変化を観察し、生きている細胞の割合を数え、たんぱく質・灰分(ミネラル分)・脂質・糖・アミノ酸などの成分を分析しました。さらに、粉末の明るさ(L値、0が黒で100が白)と色あい(色相角、0°が赤で90°が黄)を測定しています。加えて、破砕中に空気を吹き込んだり、超音波処理した液をあとから95℃に加熱したりする条件も試し、酸素と高温がどう影響するかを直接確かめました。

この研究では、酵母がストレスを受けたときに細胞内にたまる物質(グリセロールやトレハロース)を、ストレスの手がかりとして使っています。ただし著者らは、これらの量は抽出のされ方や分解によっても変わりうるため、あくまで間接的な指標にすぎないと注意を添えています。

報告された主な結果

たんぱく質の含量は方法によって大きく違いました。外部酵素を加えた酵素分解が最も高く65.0%±1.4%、次いで超音波処理が56.1%±0.1%、自己消化が52.9%±0.1%でした。一方、インラインディスパーサーは27.4%、コロイドミルは25.1%±0.3%と低い値でした。もっとも著者らは、この2つの値が、破砕していない懸濁液の乾燥上澄み(18.9%±1.5%)を有意に上回っていた点を指摘し、これらの機械的方法でも実際に細胞は壊れていたと述べています。もとの酵母から回収できたたんぱく質の割合で見ると、酵素分解が64.5%±2.0%と最も高く、インラインディスパーサーとコロイドミルは1%に満たない水準にとどまりました。なお著者らは、酵素分解の値には加えたパパイン由来の窒素が最大で5ポイント程度上乗せされている可能性を見積もったうえで、それを差し引いても最も高いままだと述べています。

顕微鏡では、2つの酵素法で細胞が5µm未満に縮んで楕円形になり、細胞壁の穴が増えて中身がしみ出したとみられる様子が観察されました。超音波処理では細胞が割れて空の殻や破片が見られた一方、インラインディスパーサーとコロイドミルでは多くの細胞が壊れずに残り、破片のかたまりが目立ちました。

色の違いも顕著でした。超音波処理のエキスは明るさL値が77.0±0.5と最も明るく、酵素分解と自己消化は65前後でした。これに対しインラインディスパーサーとコロイドミルのエキスはL値が0に近く、色相角も低くて赤みがかった暗い色になりました。この2つのエキスは粉末としてさらさら流れず、べたつく状態でした。著者らは、細胞のストレス指標であるグリセロールがこの2つで最も多かったこと(コロイドミルで133±7 g/kg、インラインディスパーサーで76.0±2.7 g/kg。最も少ない超音波処理は5.8±0.1 g/kg)を挙げ、グリセロールが可塑剤としてはたらいて粉末が固まりやすくなった可能性を指摘しています。また、灰分もこの2つで最も高い値でした。

加熱と酸素の影響を直接確かめた実験では、超音波処理した液を95℃で加熱すると、たんぱく質含量が46%、L値が36%低下しました。著者らはこうした結果を、加熱による褐変(メイラード反応)やたんぱく質の酸化・変性が起きたことを示すものとして解釈し、グリセロール量とたんぱく質量のあいだに有意な負の相関があったことも報告しています。

この研究が示すこと

同じ酵母を原料にしても、細胞を壊す方法しだいで、得られるエキスのたんぱく質の量も、色も、粉末の扱いやすさも大きく変わることが、ひとつの研究の中で並べて示されました。特に、強いせん断力をかける機械的な方法では、発熱と空気の巻き込みが避けにくく、それがたんぱく質の減少と色の濃化につながる可能性が示されています。

著者らは、高い温度と酸素が酵母エキスのたんぱく質含量と見た目を損ない、食品への利用可能性を狭めうると結論づけています。破砕という一工程の条件が、最終的な製品の質を左右しうる——酵母を食品用たんぱく質源として考えるうえで、この研究はその見取り図を与えるものだといえます。

著者:Louisa Wötzel(University of Hohenheim, Institute of Food Science and Biotechnology, Department of Plant-based Foods, Garbenstraße 25, 70599 Stuttgart, Germany)、Fabienne Kühnel(University of Hohenheim, Institute of Food Science and Biotechnology, Department of Plant-based Foods, Garbenstraße 25, 70599 Stuttgart, Germany)、Sabina Paulik(University of Hohenheim, Institute of Food Science and Biotechnology, Department of Plant-based Foods, Garbenstraße 25, 70599 Stuttgart, Germany)、Holger Hrenn(Core Facility Hohenheim (640), Analytical Chemistry, University of Hohenheim, Emil-Wolff-Straße 12, 70599 Stuttgart, Germany)、Sandra Renz(Core Facility Hohenheim (640), Analytical Chemistry, University of Hohenheim, Emil-Wolff-Straße 12, 70599 Stuttgart, Germany)、Mario Jekle(University of Hohenheim, Institute of Food Science and Biotechnology, Department of Plant-based Foods, Garbenstraße 25, 70599 Stuttgart, Germany)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Louisa Wötzel, Fabienne Kühnel, Sabina Paulik, et al. Insights into yeast cell disruption: Linking thermo-mechanical processing effects to physicochemical properties of yeast extract. Innovative Food Science & Emerging Technologies 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.ifset.2026.104802. 原著ライセンス:CC BY.