著者の所属・活動拠点の国は、ルーマニアです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究のねらい
ジビエ(狩猟で得られる野生動物の肉)は、イノシシやノロジカ、アカシカ、キジなどの野生鳥獣に由来します。脂肪が少なく栄養価が高い一方、飼料や抗生物質、畜舎への依存が小さいことから、持続可能なたんぱく源の候補として欧州で関心を集めています。ただし実際には供給が季節的で量も限られ、一般の小売店では手に入りにくく、欧州の食生活では周辺的な存在にとどまっています。
ポーランド、イタリア、スペイン、チェコなどでは消費者調査が進んでいますが、狩猟の伝統を持つルーマニアでは、消費者がジビエをどう受け止めているかを体系的に調べた調査がありませんでした。研究チームは、ルーマニアの回答者がジビエをどう認識し、どのくらいの頻度で、どこから入手しているのか、何が消費の妨げになっているのか、どのような属性の人が関わりを持っているのかを明らかにすることを目指しました。
どのように調べたか
研究チームは、ルーマニア在住の18歳以上を対象に、ルーマニア語のオンライン質問票を用いた横断調査(ある一時点での状況を尋ねる調査)を行いました。調査票のリンクは、ティミショアラ、ブカレスト、クルジュ=ナポカ、ヤシの獣医学系教育機関に関わる教職員・学生のネットワークや、SNS・メッセージアプリを通じて広められました。回答期間は2025年5月13日から2026年5月3日で、最終的に640人の回答が分析されました。
この方法は、無作為に選んだ人ではなく協力を得やすい人から回答を集める「便宜的標本」です。回答者は女性が約6割、18〜24歳が半数強、学生が57.5%を占めるなど偏りがあり、著者らは結果をルーマニア全体の推定値ではなく、この回答者集団の様子として解釈すべきだとしています。
質問は、ジビエや個々の動物種の認知、情報源、食べた経験と頻度、入手経路、ジビエに対するイメージ、消費の障壁、今後食べてみたいかどうかなどに及びました。分析では、属性と回答との関連を統計的に調べたほか、回答パターンから回答者をいくつかのタイプに分ける探索的な分析も行われました。
主な結果
回答者の75.8%がジビエを少なくとも一度は食べたことがありました。しかし頻度は低く、毎週食べる人は2.3%、毎月食べる人は11.9%にとどまり、多くは「たまに」や「年に数回以下」でした。最もよく知られ、よく食べられていたのはイノシシで、認知度は98.0%、食べた経験のある人の87.2%がイノシシを挙げました。
入手経路は個人的なつながりに強く依存していました。入手経路に回答した人の80.7%が、狩猟者や知人から直接手に入れたと答え、専門店(20.1%)や伝統的な市場(10.8%)を大きく上回りました。地元でジビエをどこで買えるか知っている人は33.1%にすぎず、54.4%が「小売店では見つけにくい」と答えています。
ジビエのイメージは良い面と懸念が混在していました。「おいしい・上質」(45.5%)、「自然・環境に優しい」(42.8%)、「健康的」(39.2%)といった肯定的な評価が多く挙がる一方、「調理が難しい」(29.8%)、「汚染の可能性がある」(28.1%)、「安全でない」(15.8%)という見方もありました。肉の産地を重要と考える人は82.3%に上りました。ジビエについての自己評価の情報量は5段階で平均2.59と低めでした。
属性との関連では、ジビエを食べた経験と最も強く結びついていたのは狩猟とのつながりでした。他の要因を考慮した分析でも、家族や友人に狩猟者がいる人は、狩猟とのつながりがない人に比べて食べた経験のあるオッズ(起こりやすさの指標)が約4.8倍でした。年齢が高いことや、自分はジビエについてよく知っていると感じていることも、食べた経験と関連していました。
まだ食べたことのない人のうち、ちょうど半数が今後食べてみたいと答えました。この意欲と関連していた属性は性別だけで、男性では74.3%、女性では42.7%でした。食べたことのない人が挙げた障壁は「機会がない」(63.2%)が最多で、「野生動物を食べるという考えが好きではない」(43.4%)、「狩猟に関する倫理的懸念」(34.2%)が続きました。食べた経験のある人がもっと食べるきっかけとして最も多く挙げたのは、店や市場での入手しやすさの改善(53.3%)でした。
回答パターンをもとにした分析では、ジビエへの関わりが深い「関与型」、安全性や産地についての不安が比較的大きい中間的な「両価型」、関わりが最も薄い「無関心型」の3つの回答者像が浮かび上がりました。ただし著者らは、これは探索的に見いだされた傾向であり、確立された消費者分類ではないとしています。
研究が示すこと
著者らは、この回答者集団ではジビエを食べた経験そのものは広く見られる一方、日常的な食品ではなく、狩猟者や知人を介して時折口にする「人づての食べ物」になっていると整理しています。そのうえで、消費を抑えているのは拒否感よりも入手のしにくさであり、多くの人は食べたことがあっても手軽に買うことはできない状況だと論じています。
好意的なイメージと、調理や安全性への懸念が同時に存在することは、肯定的な評価が頻繁な消費につながらない理由の一端を示しています。ルーマニアにおけるジビエ需要の実態を初めて体系的な調査で描いた点に、この研究の意義があります。
原著論文の著者・所属:Răzvan-Tudor Pătrînjan(Department of Animal Production and Veterinary Public Health, Faculty of Veterinary Medicine, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timișoara, Calea Aradului 119, 300645 Timișoara, Romania)、Adriana Morar(Department of Animal Production and Veterinary Public Health, Faculty of Veterinary Medicine, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timișoara, Calea Aradului 119, 300645 Timișoara, Romania)、Viorel Herman(Department of Infectious Disease and Preventive Medicine, Faculty of Veterinary Medicine, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timișoara, Calea Aradului 119, 300645 Timișoara, Romania)、Emil Tîrziu(Department of Animal Production and Veterinary Public Health, Faculty of Veterinary Medicine, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timișoara, Calea Aradului 119, 300645 Timișoara, Romania)、Alexandra Ban-Cucerzan(Department of Animal Production and Veterinary Public Health, Faculty of Veterinary Medicine, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timișoara, Calea Aradului 119, 300645 Timișoara, Romania)、Sebastian-Alexandru Popa(Department of Animal Production and Veterinary Public Health, Faculty of Veterinary Medicine, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timișoara, Calea Aradului 119, 300645 Timișoara, Romania)、Bianca-Luiza Ghițan(Department of Animal Production and Veterinary Public Health, Faculty of Veterinary Medicine, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timișoara, Calea Aradului 119, 300645 Timișoara, Romania)、Daiana-Ionela Cocoș(Department of Pharmacy and Pharmacology, Faculty of Veterinary Medicine, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timișoara, Calea Aradului 119, 300645 Timișoara, Romania)、Kálmán Imre(Department of Animal Production and Veterinary Public Health, Faculty of Veterinary Medicine, University of Life Sciences “King Mihai I” from Timișoara, Calea Aradului 119, 300645 Timișoara, Romania)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Răzvan-Tudor Pătrînjan, Adriana Morar, Viorel Herman, et al. Consumer Attitudes, Knowledge, and Consumption Behaviours Toward Game Meat in Romania: Evidence from an Online Convenience Sample. Foods 2026-09-08. DOI: 10.3390/foods15183179. 原著ライセンス:CC BY.