パンや麺など、小麦粉を使う食品は世界中で日常的に食べられていますが、多くの発展途上国では小麦を輸入に頼っており、経済の不安定さや気候変動の影響を受けやすいという弱点があります。こうした状況を背景に、キャッサバや雑穀、豆類など地域で手に入る作物を小麦粉に混ぜ合わせた「コンポジット粉(混合粉)」が、途上国の食料安全保障を支える手段になり得るかを検証した論文が、フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ誌に2026年8月に掲載予定です。著者にはナイジェリアのフェデラル工科大学(Federal University of Technology)に所属する研究者のほか、トルコのサカリヤ大学、イスタンブール工科大学、ドイツのハノーファー大学(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ大学ハノーファー)の研究者が名を連ねています。この論文は2010年から2024年にかけて発表された文献を対象に、Scopus、Web of Science、PubMed、Google Scholarなどのデータベースを用いて行われた文献レビューで、コンポジット粉、食料安全保障、小麦代替、未利用作物、持続可能な食料システムなどのキーワードで検索した既存研究をテーマ別に整理したものです。
コンポジット粉とは何か、何が期待されているのか
コンポジット粉とは、小麦粉を含む場合も含まない場合もある、2種類以上の粉を混ぜ合わせたものを指します。論文では、世界の食料生産のうち約3分の1が毎年失われたり廃棄されたりしているとされ、食料システム全体で世界の温室効果ガス排出量の約21%を占めるという推計も紹介されています。こうした無駄を減らす手段として、収穫後に廃棄されがちな作物を粉にして活用するコンポジット粉が注目されているといいます。論文は途上国を、小麦を輸入に頼りコンポジット粉が代替戦略として働くナイジェリアのような国、小麦栽培と多様な地元作物が混在する東南アジアの一部のような国、キャッサバなど在来作物への依存が強くコンポジット粉が利用効率を高める役割を果たすサブサハラアフリカの一部のような国、という3つのタイプに大まかに分類し、地域によって求められる役割が異なると整理しています。
実際にどんな組み合わせが試されてきたか
論文には、各国で試みられた具体的な配合例が数多く紹介されています。ナイジェリアでは全粒小麦、サツマイモ、脱脂ピーナッツ、米ぬかを組み合わせた粉が、市販の小麦粉よりもたんぱく質と食物繊維の含有量が高くなったと報告されています。インドネシアでは、タロイモ、ピーナッツ、緑豆、赤米、トウモロコシ、バナナを使った配合が、中等度の急性栄養不良の子ども向けビスケットとして高い受容性を示したとされます。また、モカフ(発酵キャッサバ粉)、クズウコン粉、コンニャクイモの一種であるスウェグ粉を70対15対15で混ぜたグルテンフリーのパンケーキは、小麦ベースの製品に匹敵する機能性と受容性を持つと評価されています。ウガンダのカムリ地区での学校給食プログラムでは、トウモロコシ、雑穀、アマランサスを配合した粉が微生物学的に安全(カビの数が許容範囲内で、アフラトキシンも検出されず)と確認された一方、たんぱく質と食物繊維の含有量が子どもの1日の栄養必要量を満たすには不十分だったとされ、配合の見直しが必要だと指摘されています。マレーシアではカボチャや豆類の粉を小麦に混ぜたベーカリー製品が、適切な配合比率であれば食物繊維や必須アミノ酸を増やしつつ、焼成性能や受容性を維持できたと報告されています。
栄養面では、そら豆を使った配合で鉄分とたんぱく質が大きく増えたとする研究や、バナナやニンジンを使った配合でベータカロテンやビタミンCの供給量が増えたとする研究が紹介されています。また、血糖値への影響を調べた研究もいくつか取り上げられており、サツマイモとヒヨコマメ、大豆を組み合わせた粉ではブドウ糖の放出が緩やかになったこと、ヒヨコマメ・トウモロコシ・サツマイモを使ったチャパティ(インドなどの薄焼きパン)では人での食後血糖値の上昇が抑えられたことなどが報告されています。一方でキヌア全粒粉を使った麺では、たんぱく質の消化率が下がり糖の放出量も減少したとする研究もあり、原料の種類や加工方法によって結果が異なることが示されています。ソルガムやシコクビエの粉を使ったパスタでは、これらの原料に含まれる抗栄養成分の影響でたんぱく質の消化率が下がったとする報告もあります。
この研究の位置づけと注意点
この論文は個別の実験を新たに行ったものではなく、既存の研究成果を整理・統合した文献レビューです。著者らは、未加工の原料に含まれる抗栄養成分の存在、風味の違いによる消費者の抵抗感、政策的な取り組みの一貫性の欠如といった課題が依然として残ると述べています。また、製品の安全性を高めるためには加工技術のさらなる改善が必要であるとし、地域主導の啓発活動が受容性を高めるうえで重要である一方、地元の農産物の活用を後押しするための政策的な後押しも欠かせないとしています。今回のレビューで紹介された個々の研究は対象や方法がさまざまであり、ある配合で得られた結果が別の配合や地域にそのまま当てはまるとは限らない点には注意が必要です。
まとめ
コンポジット粉は、地元で手に入る作物を活用しながら栄養価を高め、輸入小麦への依存を減らす一つの選択肢として、途上国の複数の事例で有効性が示されてきたことがこの論文からうかがえます。ただし、風味や安全性、政策面での課題も指摘されており、実際の普及には配合の最適化や加工技術の改善、地域に応じた取り組みが必要とされています。今回の内容は既存研究をまとめたレビューであり、特定の配合が特定の健康効果をもたらすと断定するものではない点を踏まえて読むとよいでしょう。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Taiwo A. Aderinola, Deniz Günal-Köroğlu, Esra Capanoglu, et al. Composite flour: a promising and sustainable avenue for achieving food security in developing countries. フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ (2026). DOI: 10.3389/fsufs.2026.1821430. 原著ライセンス: cc-by.