この研究は、ハンガリーの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Dental Medicine
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
口の中が乾く「ドライマウス」は、食事や会話、味覚、入れ歯の使用感、さらには口の中の健康維持にまで影響を及ぼすことがあると言われています。その結果、栄養の量や質にも影響し、生活の質全体に関わる可能性があります。しかし、唾液の分泌や口・粘膜の乾燥症状と、日々の食べ物や栄養素との関係については、これまであまり詳しく調べられてきませんでした。今回、ハンガリーで実施された研究が、ドライマウスや自己免疫疾患の一つであるシェーグレン病を抱える人たちの食習慣を調べ、健康な人たちと比較した結果を報告しています。
どのように調べたのか
この研究には128名(男性10名、女性118名、平均年齢53±13歳)が参加しました。参加者は、新たにドライマウスやシェーグレン病と診断された人、または健康な人(対照群)に分けられ、さらに症状の種類によって「口の渇きを自覚する状態(口腔乾燥感)」「実際に唾液の量が少ない状態(唾液分泌低下)」「シェーグレン病」という3つの患者グループと、健康な対照群の計4グループで比較されました。シェーグレン病の診断には2016年のACR-EULARという国際的な診断基準が用いられています。方法としては、35項目からなる聞き取り調査(体格指数、食物アレルギーの有無、喫煙などの習慣、食事の情報源、果物・野菜・肉・ビタミン・微量元素の摂取頻度など)に加え、唾液を実際にコップに吐き出してもらう方法で唾液分泌量を測定しました。
研究でわかったこと
体格指数(BMI)は、4グループとも標準範囲からは大きく外れないものの、健康な対照群(24.7)に比べて患者グループでやや高め(口腔乾燥感25.4、唾液分泌低下26.2、シェーグレン病25.2)という結果でした。喫煙率は、シェーグレン病群で49%と、対照群の18%より高い一方、口腔乾燥感群と唾液分泌低下群では喫煙者が0%だったと報告されています。
食物アレルギーや不耐性(乳糖、乳製品や小麦のたんぱく質、お腹の張りなど)を訴える人の割合は、健康な対照群のわずか16%に対し、口腔乾燥感群で50%、唾液分泌低下群で44%、シェーグレン病群では68%にのぼり、いずれも統計的に有意な差だったとされています。
水分摂取量は1日1.9〜2.2リットルとどのグループも大きな差はなく、約78%が水を、80%以上が乳製品の飲み物を好んで摂取していました。一方で、口腔乾燥感群ではアルコールの定期的な摂取が対照群の18%に対し2.6%と少なく、植物性ミルクの摂取も同様に少ない傾向が見られました。アルコール摂取の少なさは、唾液分泌低下群(4.7%)やシェーグレン病群(6.4%)でも共通していたとのことです。ビタミンや微量元素の摂取頻度については、ビタミンD3を口腔乾燥感群がやや多く摂取していた点を除き、患者グループと対照群の間に有意な差はなかったと報告されています。
果物では4グループとも共通してりんごを好む傾向があった一方、ドライマウスの症状がある人たちは、ベリー類や柑橘類といった酸味の強い果物、玉ねぎのような刺激の強い食品を避ける傾向が見られました。これは、酸味や刺激が乾燥感や粘膜のヒリヒリした症状を悪化させる可能性があるためではないかと考察されています。また、じゃがいもは他のグループに比べて好まれにくく、口腔乾燥感群では飲み込みにくさとの関連も示唆されています。逆に、唾液分泌低下群では、米やトマト・パプリカといった水分を多く含む柔らかい食品の摂取が多い傾向が見られました。肉類については、鶏肉・豚肉・魚介類が全体的に人気でしたが、口腔乾燥感群とシェーグレン病群では、脂肪分の少なさが関係してか、鶏肉の摂取が対照群より少なかったとされています。なお、食事や健康に関する情報源としては、64〜92%の参加者がインターネットを利用しており、医師や専門家に相談する人はわずか0〜6%にとどまったと報告されています。油脂類の摂取については、植物油やバターの使用頻度を含め、グループ間で有意な差は見られなかったとのことです。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
著者らは、ドライマウスやシェーグレン病がある人の食事全体は、健康な人の食事と大きくは変わらず、むしろ地域の食文化や食材の入手しやすさに左右される部分が大きいとまとめています。1日の食事回数や水分摂取のパターンも、乾燥症状の有無によって大きく変わるものではなかったとされています。ただし、食物アレルギーの申告率が患者グループで高かったことや、酸味・刺激のある食品を避けて柔らかく水分の多い食品を好む傾向があったことは、注目すべき特徴として報告されています。
この研究は、ハンガリーの128名という限られた参加者(多くが女性)を対象にした調査であり、質問票による自己申告に基づくデータも含まれています。ここで示された傾向がすべての地域や集団に当てはまるとは限らず、一つの研究として得られた結果であることに留意する必要があります。
まとめ
今回の調査では、ドライマウスやシェーグレン病を抱える人の食習慣は、健康な人と大枠では似ているものの、食物アレルギーの訴えの多さや、酸味・刺激のある食品を避けて柔らかく水分の多い食品を好む傾向など、いくつかの特徴的な違いが報告されました。著者らは、こうした患者に対しては、かかりつけ医や歯科医、専門家による食事面でのアドバイスが症状の緩和に役立つ可能性があるとしつつ、信頼できるウェブサイトやSNSも健康情報の重要な入手先になり得ると述べています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):ハンガリーのコホートにおけるドライマウスおよび/またはシェーグレン病患者の栄養学的特徴(フロンティアーズ・イン・デンタル・メディシン・2026年08月)
著者:György Tóth(Department of Preclinical Dentistry, Faculty of Dentistry, Semmelweis University, Budapest, Hungary)、Dorottya Kiss(Department of Oro-Maxillofacial Surgery and Stomatology, Faculty of Dentistry, Semmelweis University, Budapest, Hungary)、Csilla Erdei(Department of Preclinical Dentistry, Faculty of Dentistry, Semmelweis University, Budapest, Hungary)、Krisztina Márton(Department of Preclinical Dentistry, Faculty of Dentistry, Semmelweis University, Budapest, Hungary)