体調や出産の事情で自分の母乳を十分に与えられない赤ちゃんのために、他の女性が余った母乳を提供する仕組みがあります。それが「母乳バンク」です。提供された母乳(ドナーミルク)は「ヒューマンミルクバンク」と呼ばれる施設を通じて、必要とする赤ちゃんに届けられます。こうした仕組みを継続的かつ公平に運営していくには、安定した組織体制や資金の仕組みが欠かせません。しかし、母乳バンクが世界各地でどのように整備され、どのように規模を拡大してきたのかについては、実はまとまった形で整理されてきませんでした。今回紹介する研究は、この点について、これまでに発表された複数のシステマティックレビュー(系統的レビュー)を横断的に見直す「アンブレラレビュー」という手法でまとめたものです。
研究でわかったこと
この研究では、JBI(ヨアンナ・ブリッグス研究所)が示す手法に沿って、CINAHL、MEDLINE、PsycINFO、Embase、JBI Evidence Synthesis、Epistemonikos、PROSPEROといった学術データベースに加え、Google ScholarやBASE、NICEのウェブサイトなどのいわゆる「グレー文献」も対象に検索が行われました。対象としたのは2000年から2025年6月までに発表された研究で、2人の独立した研究者がそれぞれスクリーニング(選別)を行っています。対象となる母乳バンクは、中所得国および高所得国で運営されているものに限定されました。
検索の結果、条件に合致する13件のシステマティックレビューが特定されました。これらを統合して見えてきたのは、母乳バンクの「組織のあり方」や「資金の仕組み」に関する情報が、これまでの研究では限られていたという点です。一方で、母乳バンクに関わる主な関係者として、母乳を提供するドナー、母乳を受け取る家族、医療従事者、そして社会的な支援に携わる人々が挙げられています。
母乳の提供や、受け取る側の家族がドナーミルクを受け入れる際には、施設からの支援体制や、母乳バンクについての情報提供があることが、後押しとなる要因として報告されています。反対に、母乳バンクの整備が進みにくい要因としては、一般向けの情報の少なさ、宗教的な価値観、そして周囲からの支援不足が挙げられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、個々の患者や母親を対象にした新しい実験や調査ではなく、既存の複数のレビュー論文を整理し直した「レビューのレビュー」にあたるものです。そのため、母乳バンクの効果や安全性そのものを新たに検証したものではなく、あくまで「これまでの研究から何がわかっていて、何がわかっていないか」を整理した内容と理解するとよいでしょう。特に、母乳バンクの資金調達や組織運営の仕組みについては、著者らも「大きな情報の空白がある」と指摘しており、この分野では今後さらなる研究が必要とされています。
また、対象となったのは中所得国・高所得国の母乳バンクに関する文献であり、要旨からは具体的な国名や地域は明らかにされていません。掲載誌の言語や研究チームの所属から特定の国の状況を推測することはできない点にも注意が必要です。
まとめ
今回のアンブレラレビューでは、母乳バンクの運営を支える資金モデルや組織体制について、これまでの研究では十分な情報が蓄積されていないことが浮き彫りになりました。一方で、母乳の提供や受け入れを後押しする要因として施設の支援体制や情報提供の重要性が、また障壁として情報不足や価値観の違いが指摘されています。著者らは、持続可能な資金モデルの確立や標準化されたガバナンス体制の整備、医療従事者の知識向上や社会的な認知拡大が、今後の研究課題であるとしています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:母乳バンクサービス:アンブレラレビュー(パブリックヘルス・ニュートリション・2026年07月)