エビやカニだけでなく、貝類も子どもの消化管アレルギーの原因になることがあります。今回紹介するのは、アサリを食べた後に嘔吐を繰り返した6歳女児について、血液検査の一種と少量の食物負荷試験を組み合わせて診断に至った症例報告です。舞台は栃木県の獨協医科大学の小児科および獨協医科大学病院アレルギーセンターで、日本の医療機関からの報告です。
この女児が経験したのは「食物タンパク誘発性腸炎症候群(FPIES)」と呼ばれる状態です。これは食物アレルギーの一種ですが、じんましんや呼吸困難を起こす一般的な「即時型」アレルギーとは異なり、原因となる食品を食べた後に嘔吐などの消化器症状が遅れて現れるタイプで、血液中の食物特異的IgE抗体が検出されないことが多いとされています。論文によれば、甲殻類・貝類はFPIESの原因食品全体の約3.7%を占めると報告されており、アサリは世界中で広く食べられている食材である一方、アサリが原因のFPIES報告は少なく、経口食物負荷試験(OFC)以外の診断方法は確立されていないとされています。
検査と少量の負荷試験で何がわかったか
女児は、加熱したアサリの入ったパエリアを食べてから3時間後に嘔吐を3回繰り返し受診しました。血液検査では、総IgE値は178 IU/mLで、アサリ・ホタテ・バフンウニ・カキに対する特異的IgE抗体はいずれも0.10 kUA/L未満と、いわゆる即時型アレルギーを示す値ではありませんでした。白血球数は5500/μL(好中球39%、好酸球2.7%)、TARC値(皮膚の炎症などでも上がる指標)は477 pg/mLでした。
そこで実施されたのが「リンパ球刺激試験(LST)」です。これは血液中のリンパ球を原因と疑われる食品のたんぱく質にさらし、増殖反応が起こるかどうかを調べる検査で、遅れて症状が出るタイプの食物アレルギーの診断に役立つ可能性があるとされています。今回はアサリを600Wの電子レンジで殻が開くまで1分加熱し、煮汁を除いた可食部分だけを抗原として使用したところ、陰性対照に対する刺激指数は2.8となり、日本で実用的な陽性の目安とされる1.8以上を上回りました。
この結果を受けて3週間後、加熱したアサリの可食部5gを用いた経口食物負荷試験が行われました。女児の体重20kgとアサリのたんぱく質含有量から計算すると、これはたんぱく質量にしてわずか0.015 g/kgに相当する量でした。摂取から4時間後に嘔吐が始まり、その後1時間のうちにさらに2回の嘔吐が続き、顔色不良と活気低下もみられましたが、皮膚症状や呼吸器症状といった即時型アレルギーを示す所見はありませんでした。摂取後3〜4時間で嘔吐を繰り返し、顔色不良や活気低下を伴い、即時型の症状がないという経過から、国際的な診断基準に沿ってアサリによる急性FPIESと診断されました。女児は点滴と安静で回復し、翌日には発熱などの異常はなかったとされています。その後アサリを除去し、1年間の経過観察で再発はなかったと報告されています。
この研究からわかること・読むうえでの注意
論文の考察では、過去の報告との比較も行われています。ある先行報告では生のアサリ全体を、別の報告では加熱したアサリ全体を検査に使っており、抗原の調製方法が研究ごとに異なっていました。今回は日本で一般的な調理法に合わせて加熱・可食部のみを使い陽性となったことから、著者らはこの患者の消化管で症状を引き起こすたんぱく質が熱に強い性質を持つ可能性を指摘しています。ただし、著者ら自身がいくつかの限界も挙げています。過去の報告では健康な人でもLSTが陽性になる例があったとされ、偽陽性の可能性が指摘されていること、今回の症例では健康な対照群との比較を行っておらず、また陽性と判定する基準値も確立されたものではないことです。そのため、LSTはあくまで診断を補助する検査であり、確定診断は経口食物負荷試験によるべきだと述べられています。
負荷試験の量についても興味深い指摘があります。一般的な診断基準では体重1kgあたり0.06〜0.6gのたんぱく質量(総たんぱく質量は最大3g、食品全体では最大10gまで)が目安とされ、過去の報告ではアサリ16〜60gを用いた例があったとされています。これは体重換算するとおよそ0.05〜0.17 g/kgのたんぱく質量に相当すると著者らは試算しています。今回はこの目安よりもかなり少ない0.015 g/kgという量で症状が誘発されており、著者らは、アサリは重量のわりにたんぱく質含有量が少ないため、体重に基づいて通常どおり計算すると特に年長児では非常に多い量になりかねないと指摘し、少ない量でも診断できる可能性が子どもの検査の負担や危険性を減らすことにつながるかもしれないと述べています。なお、この患者は他の貝類(シジミやホタテなど)を元々食べる習慣がなく、貝類同士の交差反応性については今後の症例の蓄積が必要だとされています。
まとめ
この報告は、アサリが原因のまれな消化管アレルギー(FPIES)について、リンパ球刺激試験が診断の補助として役立つ可能性、そして通常よりも少ない量の負荷試験で診断できた例を示したものです。ただし単一の症例報告であり、健康な対照群との比較もないことから、LSTの正確さや、今回のような少量での負荷試験が他の患者にも当てはまるかどうかは、今後さらに症例を重ねて検証する必要があるとされています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Sayuri Kajitani, Manabu Miyamoto, Shigemi Yoshihara. Lymphocyte Stimulation Test and Oral Food Challenge in the Diagnosis of Food Protein–Induced Enterocolitis Syndrome Due to Short‐Neck Clam. クリニカル・ケース・レポーツ (2026). DOI: 10.1002/ccr3.73259.