スーパーで見かける大豆もやしの中には、茎の部分がうっすら赤紫色を帯びたものがある。この色はアントシアニンという色素成分によるもので、光の当て方によって蓄積量が変わることが知られている。とくに青色の光を大豆もやしに当てると、茎(胚軸)の部分でアントシアニンが大きく増えることが分かっており、見た目の商品価値だけでなく栄養面での付加価値も期待されている。ただし、青色光がどのような仕組みで色素の合成を促しているのかは、これまで十分に解明されていなかった。中国・南京農業大学の研究グループは、この仕組みに関わる遺伝子を新たに突き止め、その働き方を調べた。
研究でわかったこと
研究グループはまず、青色光を当てた大豆もやしの胚軸で発現が大きく上昇する遺伝子を探し、GmMYB306と名付けられたMYB型の転写因子(他の遺伝子のスイッチを操作するタンパク質)を見つけた。GmMYB306の発現量は、大豆におけるアントシアニンの蓄積量と連動して変化することが確認されたという。
次に、この遺伝子を大豆の毛状根(ヘアリールート)で過剰に働かせる実験を行ったところ、アントシアニンが明確に増加し、色素合成に関わる遺伝子であるGmDFRとGmANSの発現が特に強く上昇した。さらに詳しい解析により、GmMYB306はこの2つの遺伝子のプロモーター(遺伝子の発現を調節する領域)に直接結合し、発現を活性化させる働きを持つことが示された。
加えて、以前の研究で青色光によって誘導され、アントシアニン合成を促すことが確認されていたGmMYB114という別の遺伝子についても検討が加えられた。その結果、GmMYB306はタンパク質レベルでGmMYB114と相互作用し、互いに協力し合うことでアントシアニンの合成をさらに高めていることが分かった。一方で、光応答に関わることで知られるHY5というタンパク質については、GmMYB306のプロモーター領域に結合しうる配列が多数見つかったものの、遺伝学的な検証の結果、実際にはHY5がGmMYB306の発現を制御してはいないことが示された。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
今回の研究は、大豆もやしという特定の植物材料を対象に、遺伝子レベルでの分子メカニズムを解析したものであり、実際に人がもやしを食べた際の健康への影響を直接検証したものではない。アントシアニン含量が増えること自体は確認されているが、それが栄養価や健康効果の向上に直結すると断定できるものではなく、あくまで植物の色素合成を制御する仕組みの一端を明らかにした基礎研究として位置づけられる。一つの研究であり、今後さらに検証が重ねられていく性質のものと考えられる。
まとめ
この研究では、青色光を受けた大豆もやしの茎でアントシアニン合成が促される仕組みの一部として、GmMYB306という転写因子がGmDFRやGmANSといった色素合成関連遺伝子を直接活性化し、さらに別の転写因子GmMYB114と協調して働くことが示された。もやしの色づきという身近な現象の背後にある遺伝子どうしの連携が、少しずつ明らかになりつつある。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yinan Liu, Wanqing Dong, Jiaqi Ju, et al. Synergistic regulation of anthocyanin synthesis in soybean sprouts under blue light by GmMYB306 and GmMYB114. サイエンティフィック・リポーツ (2026). DOI: 10.1038/s41598-026-64686-3. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.