エビや魚の冷凍品など、日本の食卓にもなじみ深い水産物は世界中で活発に取引されています。なかでもインドは世界有数の水産物輸出国であり、外貨獲得や雇用、沿岸地域の生活を支える重要な産業となっています。ただし、どの商品がどの国にどれだけ売れているか、その関係がどう変化してきたかを長期的にたどった分析は簡単ではありません。今回、インドのタミル・ナードゥ農業大学の研究者らが、2005年度から2024年度までの約20年間にわたる輸出データを用いて、インド産水産物の輸出動向と今後の予測を分析した研究を発表しました。
何を、どうやって調べたのか
研究チームは、冷凍エビ、冷凍魚、冷凍イカ(コウイカ)、冷凍イカ(スルメイカ類)、乾燥品、活魚、チルド品、その他という8つの商品グループと、7つの主要な輸出先市場を対象に、2005〜2006年度から2024〜2025年度までの二次データを分析しました。分析には複数の統計手法が使われています。まず、年平均でどれだけ成長したかを示す「CAGR(年平均成長率)」で各商品・市場の伸びを比較し、「Cuddy-Della Valle不安定性指数(CDVI)」で輸出額の変動の大きさ(安定しているか、ぶれが大きいか)を測定しました。さらに「ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)」を使って、輸出先が特定の国に偏っているか(市場の集中度)を評価しています。加えて、ある市場からある市場へと輸出のシェアがどう移り変わるかを確率的にとらえる「マルコフ連鎖分析」で市場間の構造変化を調べ、最後に「ARIMA(自己回帰和分移動平均)モデル」という時系列予測の手法を用いて、2035年までの将来の輸出額の傾向を予測しました。
研究でわかったこと
分析の結果、冷凍エビがインドの水産物輸出の中で引き続き最も主要な輸出品目であることが示されました。市場別に見ると、中国向け輸出の成長率が最も高かった一方で、その変動(不安定性)も比較的大きいという結果でした。マルコフ連鎖分析からは、輸出先市場の構成に構造的な変化が起きていることが明らかになり、特に後半の期間ではアメリカ合衆国が最も安定した輸出先として位置づけられるようになったと報告されています。さらにARIMAモデルによる将来予測では、これまでの傾向が続いた場合、多くの商品カテゴリーで2035年にかけて輸出額が緩やかに減少していく可能性が示されました。
これらの結果を踏まえ、研究チームは、インドの水産物輸出セクターが長期的な強靭性と競争力を高めていくためには、輸出先や商品構成の多様化、付加価値を高めた製品づくり、新たな市場開拓といった取り組みが必要になると指摘しています。
この研究を読むうえでの注意
この研究は、あくまで2005〜2006年度から2024〜2025年度までの過去の統計データと、それに基づく数理モデルによる分析です。ARIMAモデルによる2035年までの予測は「これまでの傾向が続いた場合」を前提とした試算であり、実際の貿易政策や国際情勢の変化、需要動向によって結果は変わり得るものです。また、本研究が対象としているのはインドの水産物輸出という特定の産業・地域のデータであり、他国の水産物貿易や日本国内の水産物需給に直接当てはめられる内容ではない点にも留意が必要です。一つの研究による分析結果であり、今後の実際の輸出動向を確定的に示すものではありません。
まとめ
今回の研究は、インドの水産物輸出について、どの商品がどれだけ伸びているか、どの市場が安定しているか、そして今後どのような傾向が予想されるかを、CAGRやマルコフ連鎖、ARIMAといった統計的手法を組み合わせて整理したものです。冷凍エビが引き続き主力商品であること、中国向け輸出の成長と変動の大きさ、そしてアメリカ合衆国が安定した輸出先として存在感を増していることなど、水産物貿易の構造変化を数値で追った点に特徴があります。今後の輸出戦略を考えるうえでの一つの参考情報として位置づけられる研究といえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:M. Boopathi, N. Deepa, A. Rohini, et al. Market transition dynamics and export forecasting of India's marine products: a phase-wise analysis using Markov Chain and ARIMA models. ジャーナル・オブ・フィッシャリーズ (2026). DOI: 10.17017/j.fish.1354. 原著ライセンス: cc-by-nc-sa.