著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:International Journal of Molecular Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

夏の緑茶の弱点に光で迫る

緑茶は澄んだ水色と爽やかな味が好まれる一方で、夏に摘んだ茶葉から作ると香りが弱く、苦味や渋みが強くなりやすいことが知られています。研究チームは論文の中で、その背景として、夏の茶葉は春に比べてうま味に関わる遊離アミノ酸やテアニンが少なく、渋みのもとになるカテキンなどのポリフェノールが多いことを挙げています。こうした品質上の弱点は夏茶の市場価値を下げ、資源の無駄にもつながるとされます。

これまでの研究では、紅茶や烏龍茶の萎凋(摘んだ葉をしおれさせる工程)で赤や黄などの光を当てると、香り成分の生成が変わることが報告されてきました。しかし緑茶、特に夏の緑茶を対象にした研究は限られていました。そこで研究チームは、緑茶づくりの初期に摘んだ葉を薄く広げて置く「広げ置き」の工程で光の色を変え、それが夏の緑茶の味と香りをどう左右するかを調べました。

4種類の光で同じ茶葉を処理

実験には中国・四川省で栽培された品種「名山白毫131」の夏の茶葉を使い、一芯二葉(新芽と若葉2枚)の段階で摘み取りました。茶葉を4つに分け、屋内で6時間の広げ置きを行う間に、赤(700ナノメートル)、黄(595ナノメートル)、青(480ナノメートル)のLED光をそれぞれ当て、自然光の区を比較対照としました。その後はすべて同じ手順で加熱・成形・乾燥し、緑茶に仕上げています。

出来上がった茶は、資格を持つ5人の審査員が目隠し条件で官能評価しました。あわせて、アミノ酸や糖、カテキン、カフェインといった主要成分を測定し、さらに香り成分(揮発性成分)と、香りとして立ち上らない成分(不揮発性代謝物)を網羅的に分析しました。

光の色ごとに異なる味と香りの変化

官能評価では、光を当てた3つの区はいずれも総合点が自然光の区を統計的に有意に上回りました。光による違いは主に香りと味に現れ、外観や水色の変化は小さかったと報告されています。総合点が最も高かったのは赤色光の区で、豆や焼き栗、花のような香りが評価されましたが、わずかな渋みも残りました。黄色光の区はなめらかでまろやかな味と爽やかさが特徴で、青色光の区はすべての項目でバランスよく高い評価を得ました。

成分分析では、青色光の区でアミノ酸と可溶性糖の量がほかの区より有意に多く、赤色光の区ではアミノ酸が最も少なくなりました。一方、熱水に溶け出す成分の総量、ポリフェノール、カフェインには処理間で有意な差がありませんでした。著者らは、苦味や渋みに関わる主要成分を大きく変えずに、味の評価を高められる可能性を示す結果と見ています。青色光の区ではエステル型と呼ばれる渋みの強いカテキンも多くなりましたが、アミノ酸も多かったことで、味のバランスが保たれたと考察しています。

香りの分析では379種類の揮発性成分が見つかり、光を当てた区はそろって自然光の区とは異なる香り成分の構成を示しました。黄色光の区では果実のような香りのエステル類、硫黄を含む成分、甘い香りの成分(フラノン類の一種)が多く、新鮮な青葉の香りに関わるアルデヒド類の寄与も最も大きくなりました。青色光の区では、ヨノン類など花の香りに関わる成分が多く見られました。

2216種類が検出された不揮発性代謝物でも、光を当てた区は自然光の区と明確に分かれました。黄色と青の区は互いに似た傾向を示し、赤の区は独自の特徴を持っていました。青色光の区ではカテキン類などのポリフェノールやトリプトファン関連の成分が多く、どの区の比較でもフラボノイド(カテキンを含む成分群)の生合成経路が、差のあった代謝物に共通して関わる経路として浮かび上がりました。その傾向が最も強かったのは、青色光と自然光の比較でした。黄色光の区では脂肪酸の代謝に関わる成分が増えており、著者らはこれが青葉様のアルデヒド類が多いことと符合すると述べています。

工程中の光が夏茶の個性を左右する

研究チームはこれらの結果をまとめ、青色光はカテキンとアミノ酸を増やして味のバランスを整え、黄色光は味と香りの両面を改善し、赤色光は香りを高める一方で味に関わる成分への効果は限られていたと結論づけています。さらに、香りを重視する緑茶には黄色光、爽やかなうま味を重視する緑茶には青色光が向くといった使い分けも提案しています。

ただし、この研究は1品種のみを用い、屋内の管理された光条件で行われたものです。香りの寄与度の算出に公開データベースの値を使っている点や、光の強さを植物が利用する光量とは異なる照度の単位で記録している点も、著者ら自身が限界として挙げています。それでも、摘んだ後に葉を広げて置く工程で光の色を選ぶことが、夏の緑茶の味と香りを異なる方向へ導きうることを、成分の面から示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Xiaojiao Xia(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Ling Lin(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Fan Xu(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Yuzhu Liu(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Yueling Zhao(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Wei Xu(Tea Resources Utilization and Quality Testing Key Laboratory of Sichuan Province, College of Horticulture, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiaojiao Xia, Ling Lin, Fan Xu, et al. Influence of Light Quality During Spreading on the Chemical and Aromatic Profile of Summer Green Tea. International Journal of Molecular Sciences 2026-07-29. DOI: 10.3390/ijms27156799. 原著ライセンス:CC BY.