「ストレスがたまると、つい食べ過ぎてしまう」という話をよく耳にします。しかし実際には、ストレスを感じたときに食べる量が増える人もいれば、逆に食欲が落ちる人、あるいはほとんど変わらない人もいることが、これまでの研究で指摘されています。つまり「ストレス=過食」と単純には言い切れず、人によって反応のパターンが異なるというわけです。こうした個人差をきちんと捉えるためには、ストレス下での食行動の変化を客観的に測る「ものさし」が必要になります。今回紹介する研究は、そのためのものさしの一つである「ザルツブルグ・ストレス摂食尺度(SSES)」の日本語版が、日本の成人においてきちんと機能する尺度なのかどうかを検証したものです。
研究でわかったこと
この研究では、ストレスによる食行動の変化を測定する尺度として開発された「ザルツブルグ・ストレス摂食尺度」の日本語版(SSES-J)について、3つの調査を通じてその妥当性(測りたいものを正しく測れているか)と信頼性(測定結果が安定しているか)が検討されました。
研究1では、763名の日本人を対象にオンライン調査が行われ、SSES-Jのほか、ストレスの感じ方や食行動、身長・体重に関するデータが集められました。参加者は2つのグループに分けられ、まず一方のグループ(382名)のデータを用いた分析で、SSES-Jが「単一の因子(一つのまとまった要素)」で構成されていることが確認されました。続いてもう一方のグループ(381名)のデータを使って、その構造が本当に当てはまるかどうかを確かめる分析が行われ、似た内容の項目同士の関連を考慮したうえで、良好な当てはまりが得られたと報告されています。
研究2では、653名の日本人の学生と成人を対象に、SSES-Jが食行動に関連する他の指標や、抑うつ傾向とどのように関連するかが調べられました。さらに研究3では、414名の学生と成人を対象に、摂食障害に関連する概念とSSES-Jとの関連が検討され、対象と観点を広げる形で検証が続けられました。
これら3つの研究を通じて、SSES-Jは一貫して単一因子構造を示し、高い信頼性と妥当性を備えていることが示されたと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ストレス時の食行動を測定するための尺度が、日本語版としてきちんと機能するかどうかを検証したものであり、「ストレスで食欲が増える・減る」といった具体的な因果関係そのものを新たに証明したものではありません。あくまで、今後の研究や実践で使える「測定ツール」の精度を確かめた研究という位置づけです。また、これは一つの研究であり、ここで示された結果がすべての人に当てはまるとは限らず、今後さらなる検証が重ねられていく性質のものと考えられます。
まとめ
ストレスを感じたときの食べ方は人それぞれで、増える人もいれば減る人、変わらない人もいます。今回紹介した研究では、そうした個人差を捉えるための尺度「SSES-J」が、日本人を対象とした複数の調査を通じて、安定した構造と高い信頼性・妥当性を持つことが確認されたと報告されています。こうした測定ツールの整備は、今後、ストレスと食行動の関係をより詳しく調べていくための土台になるものと言えそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:成人集団におけるザルツブルグ・ストレス摂食尺度日本語版の妥当性および信頼性の検証(ジャパニーズ・サイコロジカル・リサーチ・2026年08月)