この研究は、イラクの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
メマツヨイグサ(Oenothera biennis L.)は、種子から採れる油や薬用成分で知られる作物です。しかし乾燥地・半乾燥地では水不足によって生産が制限されやすく、乾燥への強さを高めることが課題になっています。
ジャスモン酸は植物がもつホルモンの一種で、ストレスに関する信号の伝達や、細胞を傷つける活性酸素を処理するしくみ(抗酸化のはたらき)の調節に関わるとされています。著者らは、このメマツヨイグサでジャスモン酸が乾燥耐性を高めるかどうかはこれまで調べられていなかったと述べ、水が限られた条件での収量・生育・ストレス耐性に対して、外から与えたジャスモン酸がどう働くかを評価することを目的としました。
何をどう調べたか
研究チームは、ティクリート大学農学部の試験圃場で、乱塊法(区画ごとに処理を無作為に割り当てる実験計画)にもとづく二要因試験を行いました。一つ目の要因は灌漑量で、土壌が水を保持できる限界量(圃場容水量、FC)の100%(十分な灌漑)、70%(中程度の乾燥)、40%(強い乾燥)の3水準です。二つ目の要因はジャスモン酸の濃度で、0、10、30マイクロモーラーの3水準でした。処理の組み合わせは9通りで、それぞれ3反復を設けています。
ジャスモン酸は葉に向けて2週間おきに計3回散布し、対照区には蒸留水を散布しました。土壌の水分は毎日センサーで測定し、必要な灌漑量を計算しています。測定した項目は、草丈、地上部と根の乾燥重量、種子重量、種子の油分といった生育・収量の指標に加えて、葉の相対含水率(葉がどれだけ水を保っているかの割合)、総クロロフィル量、気孔コンダクタンス(気孔を通じたガスの通りやすさ)、プロリン(細胞内の浸透圧調整に働く物質)の量、SODとCATという二つの抗酸化酵素の活性、フェノール類の量、総抗酸化能、電解質漏出率(細胞膜の傷みの指標)などです。得られたデータは分散分析のほか、主成分分析・クラスター分析・相関分析によって総合的に整理されました。
主な報告結果
著者らの報告では、乾燥そのものの影響が最も大きく出ました。草丈は十分な灌漑で平均100.00センチメートルだったのに対し、40%FCでは58.78センチメートルとおよそ41.2%低下し、地上部の乾燥重量も約42.5%減りました。種子重量、葉の相対含水率、クロロフィル量、気孔コンダクタンスも水が減るにつれて低下しています。逆に、プロリン、抗酸化酵素、フェノール類、電解質漏出は乾燥下で増加しました。電解質漏出率は十分な灌漑での21.44%に対し、40%FCでは33.01%へと約54.0%増えており、細胞膜が不安定になっていることを示す結果とされています。
ジャスモン酸の効果は項目によって異なりました。十分な灌漑のもとでは、30マイクロモーラーの散布が地上部と根の乾燥重量、種子重量、クロロフィル量を高めています。とくに目立ったのは根の反応で、灌漑とジャスモン酸の組み合わせによる効果が認められました。最も強い乾燥(40%FC)では、散布なしの根の乾燥重量が2.80グラムだったのに対し、10マイクロモーラーで5.47グラム(約95.3%増)、30マイクロモーラーで5.97グラム(約113.1%増)へと増加しています。中程度の乾燥(70%FC)でも、10マイクロモーラーの散布で約88.8%の増加が報告されました。
抗酸化のはたらきについては、70%FCの中程度の乾燥下で30マイクロモーラーの散布がCAT活性を約13.3%高め、総抗酸化能も10マイクロモーラーで43%、30マイクロモーラーで27%上昇しました。SOD活性も同じ条件で、10マイクロモーラーで24.1%、30マイクロモーラーで40.0%増えています。ただし十分な灌漑のもとではジャスモン酸がCAT活性や総抗酸化能をむしろ低下させ、最も強い乾燥(40%FC)では30マイクロモーラーの散布でCAT活性が20%、総抗酸化能が約14.2%下がったとも報告されており、反応が灌漑条件に強く依存していたことが示されています。なお、種子の油分についてはどの処理でも統計的に意味のある差は出ませんでした。
主成分分析では、第1主成分と第2主成分で全体のばらつきの84.63%が説明されました。生育・収量に関する項目は、十分な灌漑やジャスモン酸を与えた区とまとまって位置づけられ、一方で抗酸化やストレスに関する指標は乾燥区で優勢だったと著者らは述べています。
この研究が示すこと
著者らは結論として、外から与えたジャスモン酸が、抗酸化のしくみの強化、浸透圧の調整、根の成長の促進を通じて、メマツヨイグサの収量の安定性を改善すると述べています。こうした生理的な変化は、乾燥下で10または30マイクロモーラーを与えた場合に、種子収量が部分的に回復したこととあわせて報告されました。
水が限られた条件での栽培を支える、実行しやすく費用のかからない手立てとして、ジャスモン酸の散布が位置づけられる——この試験結果からは、そうした見方が読み取れます。同時に、その効き方が水の与え方によって向きを変えるという点も、この研究が示した重要な一面です。
著者:Angham Ayad Kamaluddin AL-Aloosi(Department of Horticulture and Landscape, Tikrit University, Tikrit, Iraq)、Marwan Abdullah Sanam(Ministry of Education, Salah El-Dein Education Directorate, Tikrit, Iraq)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Angham Ayad Kamaluddin AL-Aloosi, Marwan Abdullah Sanam. Evening primrose (Oenothera biennis L.) plants under drought stress and jasmonic acid application. Scientific Reports 2026-09-21. DOI: 10.1038/s41598-026-71983-4. 原著ライセンス:CC BY.