この研究は、ドイツの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Microbiology Spectrum

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、アシル鎖に二重結合を二つ以上もつ脂肪酸です。論文によれば、PUFAは細胞膜の構成成分として働くほか、シグナル伝達にかかわる分子のもとにもなり、一部はヒトの食事に欠かせない必須栄養素だと説明されています。

著者らは、魚油といった従来の海洋由来の供給源が減りつつある一方で、真核微生物から得られる単細胞油のような、より持続可能な供給源が見いだされてきたものの、食品添加物としてはまだ経済的に競争力がないと述べています。細菌はより安価な単細胞油の製造基盤として提案されてきましたが、多くの細菌種は低温に応答したときにしかPUFAをつくらず、商業的な発酵には向かないという課題があると指摘しています。

そこで研究チームは、より高い温度でPUFAをつくる細菌を潮間帯の堆積物から探し出す「バイオプロスペクティング(有用な生物資源の探索)」に着手しました。その背景には、そうした分離株は寒さではなく酸化ストレスへの防御としてPUFAをつくっているのではないか、という考えがあったと説明されています。

調べた方法と報告された結果

堆積物は、ドイツの北海沿岸に沿ったさまざまな生態系から採取されました。著者らは、堆積物やその他の供給源に由来する2,000株を超える分離株を網羅的にスクリーニングしたと報告しています。

その結果、54株のPUFA生産菌が特定され、そのうち18株は活性酸素種(ROS、反応性の高い酸素分子で、細胞に酸化ストレスを与えます)の濃度が高い生息環境から得られたものでした。著者らは、この後者の細菌群が、低温に適応した株よりも高い温度でPUFAを生産することを示したと述べています。

この報告が意味すること

論文は、この知見によって、実験室や工業的な発酵で一般的に用いられる温度でPUFAを生産するために細菌系を利用しやすくなるとしています。また、高い温度でPUFAをつくる細菌を含む生息環境を見いだすことは、低温適応という制約を回避し、従来のバイオテクノロジーに基づく大規模生産への道を開きうるとも述べられています。

つまりこの研究は、「どこを探せばよいか」という手がかりを示したものだと言えます。冷たい海ではなく酸化ストレスの強い環境に目を向けるという発想の転換が、PUFAをつくる細菌の見つけ方そのものを変えうることを、実際の分離株の報告によって裏づけた点に意義があります。

著者:Patric Bourceau(Department of Industrial Biotechnology, Fraunhofer Institute for Molecular Biology and Applied Ecology IME)、Stefan Jennewein(Department of Industrial Biotechnology, Fraunhofer Institute for Molecular Biology and Applied Ecology IME)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Patric Bourceau, Stefan Jennewein. Isolation of bacteria that synthesize polyunsaturated fatty acids under mesophilic conditions from environments with high oxidative stress. Microbiology Spectrum 2026-09-28. DOI: 10.1128/spectrum.01444-26. 原著ライセンス:CC BY.