この研究は、オランダ、オーストラリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Eating Behaviors
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとした研究か
イライラや不安、落ち込みといった嫌な気持ちに反応して食べてしまう傾向を「感情的な食行動(エモーショナル・イーティング)」と呼びます。著者らによれば、この傾向は幼い子どもには少ないものの、思春期の入り口あたりから現れて一般的になり、体重が高めであることや健康的でない食事パターンと結びつくことが報告されてきました。一方で、なぜ思春期にこの傾向が増えるのか、その仕組みはよく分かっていないと論文は述べています。
有力な候補として挙げられてきたのが睡眠の問題です。寝つきの悪さや不眠、日中の強い眠気といった睡眠の乱れは、子どもや思春期の若者の食行動の乱れと繰り返し結びつけられてきました。ただし、これまでの研究の多くは一時点だけを切り取った横断研究で、どちらが先でどちらが後なのかという向きは十分に検討されていません。そこで研究チームは、感情的な食行動と睡眠の問題のあいだに、同じ個人の中で時間を追った前後関係があるのかを調べることを目的としました。研究チームの仮説は、両者が互いに影響し合う双方向の関係があるというものでした。
どのように調べたか
用いられたのは、オランダのロッテルダムで実施されている出生コホート研究「Generation R」のデータです。2002年4月から2006年1月までに出産予定だった妊婦9778人が登録された大規模な追跡研究で、今回の分析対象は10歳・14歳・18歳の三つの時点で参加に同意した3216人の若者です。感情的な食行動は10歳では保護者の回答、14歳と18歳では本人の回答によって測られました。睡眠の問題は、三時点すべてで保護者が「寝つきが悪い」「睡眠時間が他の子より短い」といった項目に答える形で測られ、主に不眠に関わる側面をとらえています。
分析には「ランダム切片交差遅延パネルモデル(RI-CLPM)」という手法が使われました。これは、人によってもともと感情的な食行動が多い・睡眠に問題が出やすいといった持続的な個人差を切り分けたうえで、同じ人の中での時間的な上下の動きだけに注目できる統計モデルです。つまり「よく食べる人は眠りも悪い」という人と人のあいだの違いではなく、「ある人がその人の平均より多く感情的に食べた時期のあとで、その人の睡眠が悪化するか」を問うことができます。研究チームはさらに、性別、10歳時点の不安の問題・気分の問題、出身地域(ヨーロッパ系か非ヨーロッパ系か)、母親の学歴、10歳時点の体重の状況(過体重リスクが低いか、リスクがあるか)という条件ごとに結果が違うかどうかも探索的に検討しました。
報告された主な結果
全体の集団では、感情的な食行動と睡眠の問題のあいだに、個人内での時間をまたいだ予測関係(交差遅延効果)は見つかりませんでした。10歳時点の一方が14歳時点の他方を予測する、あるいは14歳時点の一方が18歳時点の他方を予測するという経路は、いずれも統計的に意味のある大きさにはならなかったと報告されています。
一方で、18歳の時点では、同時期における小さな正の関連が個人内で見られました。著者らはこれを、18歳の時点でその人自身の平均より感情的な食行動が多かった人は、同じ時期に睡眠の問題も多く報告していた、という形で説明しています。これは同時に起きていること(併存)を示すものであり、どちらかが原因だと示すものではありません。
また、それぞれの傾向の持続性にも違いが見られました。感情的な食行動は10歳から14歳のあいだでは個人内で安定していませんでしたが、14歳から18歳では強い持続性を示しました。睡眠の問題は、10歳から14歳、14歳から18歳のどちらの区間でも持続性が確認されています。ただし著者らは、感情的な食行動の測定が10歳では保護者の回答、その後は本人の回答に切り替わっているため、観察された安定性の変化が測定方法の違いを部分的に反映している可能性があると注意を促しています。
条件別の検討では、性別や10歳時点の不安・気分の問題によって時間的な前後関係が違うという証拠は得られませんでした。これらの条件では、報告される量そのものには差がある場合でも、二つの行動の結びつき方は変わらなかったということです。他方、出身地域と10歳時点の体重の状況では経路に違いが見られ、ヨーロッパ系の若者、および10歳時点で過体重リスクが低かった若者では、14歳時点の感情的な食行動が18歳時点の睡眠の問題の増加を予測していました。過体重リスクがあった群では、10歳から14歳にかけての経路が負の向き、つまり想定とは逆向きに出たと報告されており、著者らはこの結果を直感に反するものとしつつ、体重がこの関係に関わっていることは示唆されるものの、その正確な役割は不明なままだと述べています。
この研究が示していること
著者らはいくつかの限界も挙げています。睡眠の問題は三時点すべてで保護者の回答に基づいており、自立が進む思春期の若者の睡眠の実感を十分にとらえられていない可能性があること、測定された睡眠の問題が主に不眠に関わる側面に限られること、対象集団の母親の学歴が比較的高く結果の一般化に注意が必要なこと、そして測定時点が三つだけでは細かな発達的変化を追いにくいことです。
それでも、一時点の観察に頼らず同じ人を8年間追った設計から、論文は一つの明確な結論を示しています。感情的な食行動と睡眠の問題は、思春期後期において個人の中で同時に現れる形で結びついてはいるものの、どちらかが他方を時間的に引き起こすという一貫した証拠は得られなかった、ということです。二つが一緒に起こるからといって一方がもう一方の原因だとは限らない、という区別を、大規模なデータで丁寧に示した研究だと言えます。
著者:Veerle van Garling(The Generation R Study Group, Erasmus University Medical Center, Rotterdam, the Netherlands; Department of Child and Adolescent Psychiatry/Psychology, Erasmus University Medical Center, Rotterdam, the Netherlands)、Holly A. Harris(Discipline of Nutrition and Dietetics, Sydney Nursing School, Faculty of Medicine and Health, The University of Sydney, Sydney, New South Wales, Australia; Charles Perkins Centre, The University of Sydney, Sydney, New South Wales, Australia; Department of Psychology, Education and Child Studies, Erasmus University Rotterdam, the Netherlands)、Pauline W. Jansen(The Generation R Study Group, Erasmus University Medical Center, Rotterdam, the Netherlands; Department of Child and Adolescent Psychiatry/Psychology, Erasmus University Medical Center, Rotterdam, the Netherlands; Department of Psychology, Education and Child Studies, Erasmus University Rotterdam, the Netherlands. Electronic address: [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Veerle van Garling, Holly A. Harris, Pauline W. Jansen. Longitudinal associations between emotional eating and sleep disturbances: A Generation R study. Eating Behaviors 2026-09-03. DOI: 10.1016/j.eatbeh.2026.102131. 原著ライセンス:CC BY.