この研究は、モロッコ、イタリア、サウジアラビア、フランスの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとした研究か
モロッコの伝統的な食事は、新鮮な果物や野菜、豆類、全粒穀物、オリーブオイルを中心とし、魚や鶏肉、乳製品は適度に、赤身肉は少なめという特徴を持ちます。これは地中海食と呼ばれる食事パターンと多くの点で共通します。しかし著者らは、急速な都市化や経済発展、生活様式の変化に伴って、モロッコでも世界的に見られる「栄養転換」(加工食品や甘味飲料、高脂肪食品の摂取が増え、豆類や全粒穀物、生鮮食品の摂取が減る変化)が進んできたと説明しています。
研究チームによれば、モロッコにおけるこれまでの研究には、デジタル技術やソーシャルメディアが普及する前に実施されたものが多く、伝統的な地中海食をどれだけ守っているかに焦点が置かれ、栄養管理のための技術の利用状況は調べられてこなかったという限界がありました。そこで本研究は、現代のモロッコ成人の食習慣、ダイエット(食事改善)の経験、栄養管理技術の利用状況を同時に把握し、それらと社会人口学的要因との関連を探ることを目的としています。著者らは特に、食の変化の最前線にあり、デジタル技術の早期利用者にもなりやすい都市部の若い高学歴層に注目しています。
どのように調べたか
著者らは2024年10月から2025年1月にかけて、モロッコの成人1,035人を対象にオンライン調査を実施しました。ある一時点の状況を一度に把握する「横断研究」という設計です。質問票は社会人口学的属性、食習慣、ダイエット歴、栄養管理技術の利用について尋ねる19項目で構成され、既存の調査票(米国のNHANES食行動質問票、地中海食遵守度スクリーナー、WHOのSTEPS調査票)から項目を取り出して作られました。英語からアラビア語とフランス語への翻訳と逆翻訳を行い、モロッコの専門家5人が内容の妥当性を評価し、成人50人で予備調査を行ったと報告されています。
身長と体重は、あらかじめ用意された範囲から回答者自身が選ぶ形で集められ、各区分の中央値を用いてBMI(体格指数)が算出されました。参加者の募集は大学のメーリングリストやソーシャルメディア、知人への紹介といった複数の経路を通じて行われており、著者らはこれを「便宜的サンプリング」と呼んでいます。統計解析では、多数の検定を同時に行うと偶然の有意差が出やすくなるため、ボンフェローニ補正という調整を施し、p<0.001を満たしたものだけを有意と判断しました。さらに、年齢・性別・学歴・居住地・収入を同時に考慮して各要因の独立した関連を調べる多変量解析も実施されています。
報告された主な結果
参加者の82.9%が都市在住で、79.8%が学士以上の学位を持っていました。自己申告の身長・体重から計算したBMIでは、60.9%が過体重または肥満(BMI25以上)に該当したと報告されています。
食習慣には対照的な傾向が見られました。新鮮な果物を「よく食べる・常に食べる」と答えた人は89.7%、新鮮な野菜は89.0%、食物繊維の多い食品は85.6%と高い割合でした。一方で、脂質の多い食品を同じ頻度で食べる人は76.6%、甘味飲料を同じ頻度で飲む人は49.1%に達していました。著者らはこれを、伝統的な健康的食品と加工された高エネルギー食品が共存する食事パターンだと述べています。
健康のために何らかのダイエットを行った経験がある人は49.6%で、その内容は砂糖を控えるもの(34.7%)や低カロリーのもの(22.8%)が中心でした。しかし、食事内容やカロリーを記録するアプリやツールを使っていると答えた人は全体の9.5%にとどまりました。食事を改善したいという関心は高いのに、そのための技術利用は非常に少ないという開きが示されています。
社会人口学的要因との関連では、補正後も残ったのは、調理後に塩を足す習慣と学歴、揚げ物の摂取と学歴、砂糖摂取を減らそうとすることと年齢の3つでした。多変量解析では性別が食行動と最も一貫して関連する要因で、年齢・学歴・収入は一部の行動と関連しました。たとえば女性は果物を頻繁に食べる傾向、男性は甘味飲料を頻繁に飲む傾向が示されています。一方、BMIと食習慣の間には統計的に有意な関連は認められませんでした。なお、関連の強さを表す指標は全体として弱いから中程度の範囲にとどまっていたと報告されています。
この研究が示すこと
著者らは結論として、この都市在住・高学歴のモロッコ成人のサンプルでは、伝統的な健康的食品と不健康な食品が併存する食事パターンが観察され、過体重・肥満がこの集団で非常に多く見られたと述べています。また、ダイエットへの関心があるにもかかわらず、栄養管理技術の利用はごく少なかったとしています。
同時に著者らは、この研究が便宜的サンプリングによるものであり、都市住民・大学卒業者・若年層が多く含まれる一方、農村部や学歴の低い人、高齢者が少ないことを明確な限界として挙げています。そのため結果はモロッコの成人全体を代表するものではなく、都市部の教育を受けたデジタル環境にある人々の状況を示すものと解釈すべきであり、確認には確率抽出による研究が必要だとしています。横断研究であることからも、示された関連は原因と結果の関係を意味するものではありません。
それでもこの報告は、教育水準の高さが必ずしも健康的な食事や適正体重につながるわけではないという、一つの集団における実態を数字で描き出しています。食の変化の最前線にいる層で何が起きているかを知る手がかりとして、著者らはこの知見を位置づけています。
著者:Morad Kaddouri(Laboratory of the Engineering and Applied Technologies, Higher School of Technology, Sultan Moulay Slimane University)、Salah Chaji(Department of Drug Science and Technology, University of Turin)、Omar Ait El Alia(Laboratory of the Engineering and Applied Technologies, Higher School of Technology, Sultan Moulay Slimane University)、Zakaria Asbai(Laboratory of Biochemistry, Agri-Food Materials and Environment, Hassan 2 University of Casablanca)、Abdelaziz Ait Melloul(Laboratory of Water Sciences, Microbial Biotechnologies and Natural Resources Sustainability (AQUABIOTECH), Unit of Microbial Biotechnology, AgroSciences and Environment (BIOMAGE)-CNRST Labeled Research Unit N° 4, Faculty of Sciences Semlalia, Cadi Ayyad University (UCA))、Morad Oubouali(Laboratory of the Engineering and Applied Technologies, Higher School of Technology, Sultan Moulay Slimane University)、Nouhaila Ajbli(Laboratory of the Engineering and Applied Technologies, Higher School of Technology, Sultan Moulay Slimane University)、Sana El Fadeli(Laboratory of Computer Mathematics and Modeling of Complex Systems, Higher School of Technology of Essaouira, Cadi Ayyad University)、Abdelaaty A. Shahat(Department of Pharmacognosy, College of Pharmacy, King Saud University)、Rashed Naji Herqash(Center for Research on Medicinal, Aromatic, and Poisonous Plants, DSR, King Saud University)、Joe Miantezila Basilua(Department of Biostatistics and Mathematics, Faculty of Pharmacy, Paris Cité University)、Khalid Boutoial(Laboratory of the Engineering and Applied Technologies, Higher School of Technology, Sultan Moulay Slimane University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Morad Kaddouri, Salah Chaji, Omar Ait El Alia, et al. Dietary behaviors, nutrition-monitoring technology use, and their socio-demographic determinants among Moroccan adults: a cross-sectional study. Frontiers in Nutrition 2026-09-10. DOI: 10.3389/fnut.2026.1912937. 原著ライセンス:CC BY.