著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。
掲載誌:Appetite
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:地域への愛着と食の選択
肉の消費は、環境への負荷が大きい人間活動の一つとされています。論文は先行研究を引き、畜産部門が世界の温室効果ガス排出の約14.5%を占めることにも触れ、肉を減らして植物性の食品を中心にした食生活へ移ることが気候変動への対応で重要だと位置づけています。そのうえで研究チームは、肉の消費には個人の要因だけでなく、文化や伝統といった社会的・文化的な要因も関わっているにもかかわらず、後者はまだ十分に調べられていないと指摘しています。
研究チームが注目したのは「場所への愛着」です。これは、特定の土地や地域とのあいだに感じる心理的な結びつきや帰属意識を指します。これまでの研究では、場所への愛着がリサイクルや節水といった環境に配慮した行動と結びつく例が報告される一方で、地元の伝統や暮らしが脅かされると感じる取り組みには抵抗を生む場合もあり、結果は一貫していませんでした。
イタリアでは、食の伝統が地域ごとに強く根づいています。そこには豆類や野菜、穀物を中心とした農民料理や地中海型の食の伝統がある一方で、ハムやソーセージなど肉を中心とした名物が地域を象徴する存在として目立つという面もあります。そこで著者らは、住んでいる地域への愛着が、肉を減らそうとする意欲に対して、逆向きの二つの経路を通じて関わっているのではないかと考えました。
何をどう調べたか
研究チームは、オンラインの調査パネルを通じて、性別・年齢・居住地域の構成がイタリアの人口を反映するように集めた18〜89歳の成人4066人に質問票調査を行いました。参加者の平均年齢は約51歳で、女性が51.5%でした。
質問票では、主に四つの点を尋ねました。一つ目は、住んでいる地域やそこに住む人々との結びつきをどれほど感じているかという「地域への愛着」です。二つ目は、地域の伝統料理を好んで食べ、食生活に取り入れているかという「地域の食の伝統への愛着」です。三つ目は、自分の地域の伝統料理には肉を使わない料理が多いと感じているかという「伝統的なベジタリアン料理が地域にあるという認識」です。四つ目は、今後7日間で肉の消費を減らすつもりがあるかという「肉を減らす意図」です。いずれも1から7までの段階で答える形式です。
分析には、変数どうしの関係を一つのモデルの中でまとめて推定する「パス解析」という統計手法が使われました。地域への愛着が肉を減らす意図に直接結びつくかどうかに加えて、二つの要素を間にはさんだ間接的な結びつき(媒介)も調べています。年齢、性別、政治的な立場、居住地域の影響は統計的に考慮されました。
主な結果:逆向きに働く二つの経路
地域への愛着そのものは、肉を減らす意図と直接には結びついていませんでした。一方で、間に入る二つの要素を通じた間接的な結びつきが、互いに反対の向きで見られました。
一つ目の経路では、地域への愛着が強い人ほど、自分の地域には伝統的なベジタリアン料理が多いと感じる傾向がありました。そして、そう感じている人ほど、肉を減らす意図が高い傾向にありました。この経路を通じると、地域への愛着は肉を減らす意図とプラスの方向で結びついていました。
二つ目の経路では、地域への愛着が強い人ほど地域の食の伝統への愛着も強く、食の伝統への愛着が強い人ほど、肉を減らす意図が低い傾向がありました。この経路を通じると、結びつきはマイナスの方向になりました。論文の報告では、二つの間接的な結びつきは大きさがほぼ同じで、向きが逆でした。
なお、このモデルで説明できた肉を減らす意図のばらつきは7%にとどまりました。また、今回の調査は回答から変数どうしの関連を調べたもので、原因と結果の関係を示したものではありません。著者らは、事前登録をしていない探索的な面を含む研究であるため、結果は慎重に解釈すべきだとも述べています。
この研究が示すこと
著者らは、場所への愛着は持続可能な食生活をもともと後押しするものでも、妨げるものでもないと考えています。愛着と持続可能な行動との結びつきは、地域の食文化がもつ具体的な意味や慣習を介して現れるという見方です。著者らによれば、地域の料理に肉を使わない伝統的なメニューが豊富だと感じられれば、肉を減らすことは容易で窮屈でないものと感じられやすくなるかもしれません。反対に、地域の伝統が肉料理と強く結びついて意識されていると、食習慣を変えることが地域の伝統への脅威のように受け止められる可能性があると論じています。
研究チームは、こうした結果が地域社会に根ざした新しい取り組みの手がかりになりうると述べています。地元への愛着は、それが地域の食文化のどの側面と結びつくかによって、肉を減らす意欲と逆向きの関わり方をしうる。この研究は、その二面性を示しています。
原著論文の著者・所属:Michela Lenzi(Department of Developmental Psychology and Socialization, University of Padua, Via Venezia 8, Padova, 35131, Italy. Electronic address: [email protected])、Davide Naddeo(Department of Developmental Psychology and Socialization, University of Padua, Via Venezia 8, Padova, 35131, Italy. Electronic address: [email protected])、Luciana Carraro(Department of Developmental Psychology and Socialization, University of Padua, Via Venezia 8, Padova, 35131, Italy. Electronic address: [email protected])、Luca Cussigh(Department of Developmental Psychology and Socialization, University of Padua, Via Venezia 8, Padova, 35131, Italy. Electronic address: [email protected])、Margherita Guidetti(Department of Communication and Economics, University of Modena and Reggio-Emilia, Via Università 4, Modena, 41121, Italy. Electronic address: [email protected])、Giulia Scaglioni(Department of Communication and Economics, University of Modena and Reggio-Emilia, Via Università 4, Modena, 41121, Italy. Electronic address: [email protected])、Andrea Scatolon(Department of Developmental Psychology and Socialization, University of Padua, Via Venezia 8, Padova, 35131, Italy. Electronic address: [email protected])、Valentina Carfora(Department of Psychology, Catholic University of the Sacred Heart, Largo Gemelli 1, Milan, 20123, Italy. Electronic address: [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Michela Lenzi, Davide Naddeo, Luciana Carraro, et al. Regional place attachment and meat reduction: The role of perceived availability of traditional vegetarian meals and attachment to culinary traditions. Appetite 2026-08-25. DOI: 10.1016/j.appet.2026.108758. 原著ライセンス:CC BY.