ヤマモモ(Chinese bayberry, Morella rubra)は独特の芳香を持つ果物で、収穫後の日持ちが短いことでも知られています。その果汁は個性的な香りが評価されており、特徴のあるお酒(果実酒)づくりにも向いていると考えられています。品種の違いや加工の工程によって香りは大きく変わるとされますが、ジュースから発酵、蒸留へと至る製造の各段階で、香り成分がどのように変化していくのかを体系的に調べた研究はこれまで限られていました。

今回紹介する研究では、「ビチー(Biqi)」「ドンクイ(Dongkui)」「シアジホン(Xiazhihong)」という3つのヤマモモ品種を対象に、「生の果汁」「発酵させた果汁」「蒸留したお酒」という3つの主要な段階における香り成分のプロファイルが調べられました。分析にはGC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)という手法が用いられています。

研究でわかったこと

分析の結果、加工の過程で特に大きく変化していたのは「テルペノイド類」と「エステル類」と呼ばれる香り成分のグループでした。それぞれの段階を特徴づける指標となる成分も複数見つかったとされています。

工程ごとの特徴としては、発酵の段階では主にテルペノイド類の含有量が変化し、一方で蒸留の段階では揮発性のエステル類が選択的に濃縮される傾向がみられたと報告されています。また、香りの感じ方に関わる「オドアアクティビティ(においの活性度)」の分析からは、発酵果汁の段階ではフルーティーさやグリーン(青々しい)な香りの印象が優勢であったのに対し、蒸留酒の段階では木のような香りや甘い香りの印象が優勢になっていたことが示されました。

品種による違いも確認されており、「ビチー」種は香りに関わる複数の成分が他の品種より多く含まれており、官能評価(人による香りや味の評価)でもより高い評価を受けたとされています。これらの結果から、品種ごとに特徴的な香りの「指紋」のようなパターンがあること、そして一連の加工工程がヤマモモ酒の香りの化学的な特徴を段階的に形作っていくことが示唆されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、3つの品種・3つの加工段階を対象にGC-MS分析と官能評価を組み合わせて香り成分の変化を追跡したものであり、ヤマモモの香りづくりの仕組みを理解するための一つの知見と位置づけられます。取り上げられた品種や工程条件のもとで得られた結果であり、他の品種や異なる加工方法にそのまま当てはまるとは限りません。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではない点には留意しておきたいところです。

まとめ

ヤマモモの香りは、生の果汁から発酵、そして蒸留へと工程が進むにつれて、テルペノイド類やエステル類を中心に大きく変化していくことが、今回の研究から見えてきました。発酵ではフルーティーでグリーンな印象が際立ち、蒸留を経ると木のような香りや甘い香りへと変化していくという流れは、香り好きの読者にとっても興味深いポイントではないでしょうか。品種ごとの個性が香りや評価に反映されていたことも、今後の果実加工や香気研究を考えるうえで参考になりそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ジュース加工・発酵・蒸留工程におけるヤマモモの代謝物および揮発性成分の変化(フード・ケミストリー:エックス・2026年07月)