日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Functional Foods in Health and Disease

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

カボスの香りは人にどう働くのか

カボスは主に大分県で栽培されている日本の香酸かんきつです。果肉を食べるより、焼き魚や鍋料理に果汁を搾ったり、皮を刻んだりして香りを楽しむ使い方が一般的です。皮から採った精油は入浴剤やせっけんなどにも使われています。ところが、香りを楽しむアロマテラピーの素材としての研究はほとんどなく、過去の脳活動の研究は参加者が2人と非常に少数でした。

研究チームは、カボスの皮から得た精油の香りが、人の気分や自律神経の働きにどのような変化をもたらすかを調べました。自律神経は心拍や体温などを無意識に調整する神経で、活動的なときに優位になる交感神経と、休息時に優位になる副交感神経があります。あわせて、就寝時にこの香りを漂わせたときの睡眠の質についても調べました。

短時間香りを嗅いだときの気分と体の反応

一つ目の実験には、24〜45歳の健康な男女12人が参加しました。水蒸気蒸留でカボスの皮から得た精油を綿片に少量含ませて瓶に入れ、鼻の下で2分間自然に呼吸して香りを嗅いでもらいました。精油の主な香り成分は、リモネンが約75%、ミルセンが約18%でした。

気分は「疲労感」「緊張」「頭のすっきり感」「爽快感」などの6項目について、100ミリの線上に印をつける方法で香りを嗅ぐ前後に評価しました。その結果、緊張が有意に下がり、頭のすっきり感と爽快感が有意に高まったと報告されています。参加者全員が香りを心地よいと評価しました。

体の反応としては、光を当てたときに瞳孔が縮む割合(縮瞳率)と、指先の温度を測りました。いずれも自律神経の状態を反映する指標で、指先の温度は、交感神経が血管を縮める働きが弱まると上がりやすくなります。無臭の空気を2分間吸った場合と比べ、カボスの香りを嗅いだ後は縮瞳率と指先の温度がともに有意に高くなりました。著者らは、香りがリラックスを示唆する自律神経の反応と関連し、交感神経の活動低下と結びついている可能性があると解釈しています。

就寝時に香りを漂わせたときの睡眠

二つ目の実験には、日ごろ疲れを感じ、寝つきの悪さや夜中に目が覚めることなど睡眠に不満のある34〜44歳の8人が参加しました。自宅で2週間、1週間は水だけ、もう1週間はカボス精油を加えた水を、超音波式のアロマディフューザーで寝床の近くに漂わせました。ディフューザーは就寝の1時間前に作動させ、3時間後に自動で止まる設定です。順番は参加者ごとにランダムに割り振りました。

睡眠は、質問票による本人の評価と、腹部に着けた小型の活動量計で体の動きから推定する客観的な評価の両面で調べました。活動量計による測定では、カボスの香りがある週に、床についてから眠りにつくまでの時間(入眠潜時)が有意に短くなり、平均約24分から約9分になりました。夜中に目覚める回数も有意に減り、寝床にいた時間のうち実際に眠っていた時間の割合(睡眠効率)が有意に上がりました。目覚めてから起き上がるまでの時間も、平均約10分から約6分へと有意に短くなっています。一方、総睡眠時間には差がありませんでした。

起床時の睡眠感を尋ねる質問票では、起床時の眠気と、夢をよく見ることに関する評価が有意に改善しました。ただし、過去1か月の睡眠を振り返る別の質問票(PSQI-J)や、ストレス症状のチェックリストでは、改善の傾向は見られたものの統計的に有意な差には至りませんでした。

研究が示すこと

著者らは、カボスの精油の香りがリラックスを示唆する気分や自律神経の変化と関連し、就寝時に香りを漂わせることが睡眠に関するいくつかの指標の良好な変化と関連したとまとめています。主成分のリモネンはむしろ血圧を上げると報告されている成分であるため、ミルセンなど他の成分やその組み合わせが働いているのではないかという仮説も示されています。

ただし、睡眠の実験は8人と少人数であり、香りの有無が参加者に分かってしまうため目隠し(盲検化)ができていません。最初の実験では無臭条件を必ず先に行っており、順番の影響も否定できません。著者ら自身も、これらは予備的な結果であり慎重に解釈すべきだと述べています。そのうえでこの研究は、料理の香りづけとして親しまれてきたカボスの香りについて、気分・体の反応・睡眠を組み合わせて人で調べた初めての試みとして、その可能性を示したものといえます。

著者:Lanxi Zhou(Material Research & Development Division , Ogawa & Co., Ltd. , Urayasu , Chiba 279-0032 , Japan;)、Yasutaka Shoji(Material Research & Development Division , Ogawa & Co., Ltd. , Urayasu , Chiba 279-0032 , Japan;)、Hisanori Kenmotsu(Material Research & Development Division , Ogawa & Co., Ltd. , Urayasu , Chiba 279-0032 , Japan;)、Yukihiro Yada(School of Integrative and Global Majors , University of Tsukuba , Tsukuba , Ibaraki 305-8577 , Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lanxi Zhou, Yasutaka Shoji, Hisanori Kenmotsu, et al. Effect of kabosu (Citrus sphaerocarpa Hort. ex Tanaka) essential oil inhalation on mood, autonomic nervous system activity, and sleep quality in humans. Functional Foods in Health and Disease 2026-10-01. DOI: 10.31989/ffhd.v16i10.2089. 原著ライセンス:CC BY.