この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ迅速な検出法が求められるのか

リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)は、世界的に重要な食中毒の原因菌です。妊婦や高齢者、免疫が低下している人では致死率が20〜30%に達するとされ、米国では年間およそ1,250人の患者と172人の死亡が推定されると論文は紹介しています。この菌はソフトチーズ、デリミート、燻製魚、生鮮野菜など多様な食品に関連した集団発生を起こしてきました。近年はペットに生肉主体の食事を与える飼い主が増えたことを背景に、生ペットフードのリコールも増えていると著者らは指摘しています。

現在の標準的な検査は培養法です。米国食品医薬品局(FDA)の細菌学的分析マニュアル(BAM)などに定められた方法では、増菌培養、選択培地での分離、さらに生化学的・血清学的な確認まで行うため、全体で2週間以上かかります。そこで研究チームは、より早く結果が出る遺伝子検査法を開発し、それが従来の培養法と同等に使えるかを確かめることを目的としました。

どのような検査法を設計し、どう検証したか

研究チームが用いたのはLAMP法(ループ介在等温増幅法)です。一般的なPCR検査が温度を上げ下げする装置を必要とするのに対し、LAMP法は一定の温度のまま遺伝子を増幅できるため、専用のサーマルサイクラーが不要で、食品に含まれる反応を妨げる成分にも強いという特徴があると論文は説明しています。

標的として選ばれたのは、この菌が持つhlyA遺伝子です。これはリステリオリジンOという、菌が宿主細胞の膜を壊す際に働く毒素をつくる遺伝子で、すべてのリステリア・モノサイトゲネス株が保有していることから選ばれました。著者らは標的配列の7領域を認識する5本のプライマー(増幅の起点となる短いDNA断片)を設計し、プライマーの配合比と反応温度を比較検討したうえで、65℃・30分の条件を採用しました。63℃より低い温度では感度は上がるものの、近縁の別の菌にも反応してしまい特異性が損なわれたため、この条件は採らなかったと報告されています。

検証は2段階で行われました。まず純粋培養の菌を使い、検出すべき菌を確実に捉えられるか(包括性)、検出すべきでない菌に反応しないか(排他性)、そしてどこまで少ない菌を検出できるか(検出限界)を調べました。次に、実際の食品として、ヒト用食品の代表であるメキシコ風ソフトチーズ「ケソ・フレスコ」と、動物用食品の代表である鶏肉ベースの冷凍生ドッグフードに菌を意図的に混ぜ込み、FDAのBAM培養法を基準としてLAMP法の性能を比較しました。この検証はFDAの微生物学的手法検証ガイドラインに沿った単一試験室検証として実施されています。

報告された主な結果

特異性の試験では、10種類の血清型にわたる50株のリステリア・モノサイトゲネスと、リステリア属の別種20株および他の13属に属する31株、合わせて101株が調べられました。標的でない51株はすべて陰性となり、排他性は100%でした。一方、標的となる50株のうち43株は当初の低濃度の試料で検出され、残る7株もより濃度を上げて調べると検出されたため、包括性も100%と報告されています。検出までの時間は平均11.3分でした。

純粋培養での検出限界は、1反応あたり100細胞でした。また、1反応あたり100万細胞から100細胞までの範囲で良好な直線関係(相関係数0.919)が得られ、菌量の定量にも使える可能性が示されています。

食品での検証では、48時間の増菌培養液を対象にLAMP法を実施しました。ソフトチーズでは、低濃度(25gあたり約1個の菌)で汚染させた試験区の陽性率がLAMP法・培養法ともに45%で完全に一致し、両法の検出感度の比を表すRLODは1となりました。生ペットフードでは低濃度汚染での陽性率が培養法45%、LAMP法35%で、RLODは1.349でした。いずれも基準となる許容限界1.5の範囲内であり、著者らはLAMP法が低濃度汚染の検出においてBAM培養法と同等の感度を持つと結論づけています。菌を加えていない対照試料は、どちらの食品でも両方法で陰性でした。

なお生ペットフードでは、検出までの時間がソフトチーズより長くなりました(約8分に対し15〜19分)。著者らはこれを、生ペットフードの一般生菌数がチーズより大幅に多かったこと(1gあたり34万個に対し13個)によるものと考察しています。また簡易なDNA抽出試薬を用いた場合には反応の阻害がみられ、試料を10倍に薄めて再測定したことも報告されています。

この研究が示すこと

この研究は、公開された手順で構築できるリステリア検出用のLAMP法が、FDAの標準的な培養法の作業手順と組み合わせて使え、ヒト用食品と動物用食品の双方で同等の検出感度を示したことを報告しています。検査自体は30分以内に終わり、結果は培養法より少なくとも3日早く得られたとされています。

著者らは同時に、検証に用いたのが各食品につき1株・1製品だけであり、株や製品の種類による違いは考慮されていないという限界も明記しています。そのうえで、この手法は培養法に置き換わるものではなく、培養法と併用する日常的なスクリーニング手段として有用だと位置づけています。食品の安全確認において、早い段階で疑わしい製品を絞り込めることの意味を示した研究といえます。

著者:Beilei Ge(Office of Applied Science, Center for Veterinary Medicine, U.S. Food and Drug Administration)、Kelly J. Domesle(Office of Applied Science, Center for Veterinary Medicine, U.S. Food and Drug Administration)、Leticia Mallmann(Department of Environmental and Occupational Health, School of Public Health, Indiana University)、Madelyn Springer(Department of Environmental and Occupational Health, School of Public Health, Indiana University)、Xiaohong Deng(Joint Institute for Food Safety and Applied Nutrition, University of Maryland)、Hee Jin Kwon(U.S. Food and Drug Administration Human Foods Program)、Eduardo Ximenes(Department of Environmental and Occupational Health, School of Public Health, Indiana University)、Yi Chen(U.S. Food and Drug Administration Human Foods Program)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Beilei Ge, Kelly J. Domesle, Leticia Mallmann, et al. Development and validation of a rapid Listeria monocytogenes loop-mediated isothermal amplification assay in soft cheese and raw pet food. Frontiers in Microbiology 2026-09-01. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1920965. 原著ライセンス:CC BY.