この研究は、ポーランドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Innovative Food Science & Emerging Technologies

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

昆虫を原料とする食品は、たんぱく質や脂質、ミネラルを含む食材として関心が高まっています。とくにヨーロッパでは、見た目への抵抗を減らすため、コオロギなどを粉末や濃縮物に加工して既存の食品に配合する形が広がっています。しかし研究チームは、市販の即席コオロギ製品からは腸内細菌科の菌やブドウ球菌などの微生物が検出された調査報告が積み重なっており、飼育環境や加工温度の不足が背景にあると述べています。

一方で、高温での加熱殺菌は脂質の酸化など品質の劣化を招きやすいという課題があります。そこで研究チームは、光を使った殺菌に着目しました。青色光は細菌の中にある感光性の物質を励起させ、活性酸素を生み出して細菌を壊す働きをもつことが知られています。この働きは、外から加える「光増感剤」を併用すると強まります。著者らによれば、食品用色素としても使われるクルクミン(ウコンの黄色成分)を光増感剤として使い、青色光や弱い加熱と組み合わせて水分の少ない昆虫粉末に適用した研究はこれまでに例がなく、本研究はその効果を確かめることを目的としています。

何をどのように調べたか

研究チームは、市販の純コオロギ(イエコオロギ、Acheta domesticus)粉末を用意しました。製造者の表示では、たんぱく質が約70%、脂質が約20%を占める高脂肪の素材です。この粉末に、大腸菌、サルモネラ、リステリア・モノサイトゲネス、黄色ブドウ球菌の4種類の食中毒菌を、それぞれ3株ずつ混ぜた菌液として接種しました。

処理は3つの要素の組み合わせです。青色光(波長410・430・460ナノメートル、強度65ミリワット毎平方センチメートル)を10分間当てる処理、60℃で10分間おく弱い加熱、そしてクルクミンの添加です。青色光と弱い加熱は、単独の場合と同時に組み合わせた場合の両方を、クルクミンを加えた場合と加えない場合の両方で比較しました。処理直後の試料の温度は、無処理で23℃前後、青色光または加熱の単独で49〜50℃前後、両者を組み合わせた場合で65℃前後であり、低水分食品の一般的な殺菌に必要とされる80℃には達していません。

菌がどれだけ減ったかは選択培地で数えたほか、菌の状態をより細かく見るために、食塩水に菌を浮かべた懸濁液でも同じ処理を行い、フローサイトメトリーという手法で細胞膜が壊れているかどうかを調べました。あわせて、品質への影響を見るために、色、水分量と水分活性、脂質の酸化の程度、水溶性・脂溶性の抗酸化能、ビタミンE(トコフェロール類とトコトリエノール類)の量も測定しています。

報告された主な結果

まず懸濁液での検討から、クルクミンは単独ではほとんど殺菌力を示さず、青色光による活性化が必要であることが示されました。青色光で活性化させると、大腸菌で2.16、サルモネラで1.23の対数減少(log CFU/ml)がみられ、リステリアと黄色ブドウ球菌では5対数を超える減少が報告されています。菌の状態を調べた解析では、グラム陰性菌である大腸菌とサルモネラは生きた状態から死んだ状態へ一気に移るのではなく、損傷を受けた中間的な状態の集団が現れたのに対し、リステリアと黄色ブドウ球菌はほぼすべてが膜の壊れた状態になりました。両者のうちサルモネラは、より多くの生きた菌を残していたと報告されています。

コオロギ粉末そのものでは、大腸菌に対して青色光のみで0.48、弱い加熱のみで0.77の対数減少にとどまりましたが、両者を同時に組み合わせると2.74対数まで高まりました。さらにクルクミンを加えて青色光と弱い加熱を組み合わせた場合は、6対数の減少に達しています。他の3菌でも、単独処理より組み合わせ処理のほうが効果が高いという同じ傾向が報告されました。組み合わせ処理による減少は、サルモネラで1.41(単独ではそれぞれ0.55と0.40)、リステリアで1.19(同0.34と0.46)、黄色ブドウ球菌で1.10(同0.41と0.21)でした。クルクミンを加えるとサルモネラでは1.82対数、リステリアでは1.60対数まで効果が上がった一方、黄色ブドウ球菌ではクルクミンによる増強効果は小さいと報告されています。

品質面では、すべての処理で水分量と水分活性が有意に下がり、青色光と弱い加熱の組み合わせで乾燥の効果が最も大きくなりました。同じ組み合わせ処理では色の変化も最も大きく(色差ΔE=2.34)、ビタミンEの減少も最大の40%でした。クルクミンを加えた粉末では、青色光のみの処理後に抗酸化能が最も低くなり、これは同時に観察された脂質酸化の高さと整合するもので、クルクミンを介した光酸化によるものと著者らは説明しています。ただし、クルクミンを加えたうえで青色光と弱い加熱を組み合わせた場合には、ビタミンEの減少は20%にとどまり、抗酸化能もより高く保たれていました。

この研究が示すこと

研究チームは、クルクミンと青色光、そして弱い加熱を組み合わせる方法が、コオロギ粉末の殺菌手段として可能性をもつと結論づけています。とくに、80℃に達しない穏やかな条件でも、単独の処理をはるかに上回る菌の減少が得られた点が特徴です。

同時に、効果は菌の種類によって大きく異なり、色やビタミンE、脂質の酸化といった品質面への影響も無視できないことが示されました。著者ら自身、この手法を実際に用いるには、青色光を使った処理がこうした製品で抱える限界に対処するための、さらなる開発と条件の最適化が必要だと述べています。低水分の昆虫粉末という新しい食材について、加熱に頼りきらない衛生管理の選択肢を具体的な数値とともに検討した点に、この報告の意義があります。

著者:Magdalena A. Olszewska(Department of Food Microbiology, Meat Technology and Chemistry, The Faculty of Food Science, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Plac Cieszyński 1, 10-726 Olsztyn, Poland)、Aleksandra Zimińska(Department of Food Microbiology, Meat Technology and Chemistry, The Faculty of Food Science, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Plac Cieszyński 1, 10-726 Olsztyn, Poland)、Izabela Lipska(Department of Food Microbiology, Meat Technology and Chemistry, The Faculty of Food Science, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Plac Cieszyński 1, 10-726 Olsztyn, Poland)、Małgorzata Starowicz(Chemistry and Biodynamics of Food Team, Institute of Animal Reproduction and Food Research of Polish Academy of Sciences, Trylińskiego 18, 10-683 Olsztyn, Poland)、Anna Draszanowska(Department of Human Nutrition, The Faculty of Food Science, University of Warmia and Mazury in Olsztyn, Słoneczna 45F, 10-718 Olsztyn, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Magdalena A. Olszewska, Aleksandra Zimińska, Izabela Lipska, et al. Inactivation of Escherichia coli, Salmonella enterica, Listeria monocytogenes, and Staphylococcus aureus in cricket powder (Acheta domesticus) using combined curcumin, blue light irradiation and mild heat treatment. Innovative Food Science & Emerging Technologies 2026-09-08. DOI: 10.1016/j.ifset.2026.104784. 原著ライセンス:CC BY.