小麦アレルギーやグルテンに関連する体調不良への関心が高まるなか、米粉パンはグルテンを使わない主食として注目されています。ただし米粉パンには弱点があり、焼き上がってから時間が経つと急速に硬くなってしまい、保存性に課題を抱えています。この現象は一般に「パンの老化」と呼ばれ、パン中のでんぷんの構造変化などが関係すると考えられています。今回紹介する研究では、この老化を遅らせる方法として、水溶性の多糖類を豊富に含む野菜であるモロヘイヤを米粉パンに加える試みが行われました。

研究チームは、米粉・グラニュー糖・米油・ドライイーストを基本材料とし、そこにモロヘイヤペーストを10%、15%、30%、50%という異なる割合で加えたパンを作りました。そのうえで、焼く前の生地の性質(力を加えたときの弾性や粘りの変化)、焼き上がったパンの比容積(ふくらみ具合の指標)や水分含量、力を加えて壊れるまでの特性、さらにX線回折という手法を使ったでんぷんの再結晶化の程度を測定しました。加えて、11段階の評価基準を用いた官能評価によって、実際に食べたときの食感や飲み込みやすさなども確認しています。試料は4℃・相対湿度63.8%の環境で7日間保存され、時間経過による変化も追跡されました。

モロヘイヤを加えると生地とパンの性質はどう変わったか

まず焼く前の生地では、モロヘイヤの添加量が増えるほど、力を加えたときの硬さや粘りを示す値が高まり、生地自体はより硬くなる方向に変化しました。ところが、焼き上がったパンについて壊れやすさを調べると、逆の傾向が見られました。モロヘイヤの添加量が多いパンほど、力を加えたときの見かけの弾性率や壊れるまでに必要な力(破断応力)が低下し、パンとしては軟らかい食感になっていたのです。この結果は、実際に食べて評価する官能評価でも裏付けられており、モロヘイヤの添加量が多いパンほど「やわらかい」「噛み応えが少ない」「飲み込みやすい」と評価されました。

保存中の硬化は抑えられたが、でんぷんの再結晶化には変化なし

7日間の保存後に改めてパンの硬さを比較したところ、モロヘイヤを加えたパンは、何も加えていないパンに比べて、見かけの弾性率や破断応力の上昇、つまり時間経過による硬化の進み方が抑えられていることがわかりました。一方で、パンが硬くなる要因の一つとされるでんぷんの再結晶化をX線回折で調べた結果については、モロヘイヤを加えたかどうかによる差は認められませんでした。つまりこの研究では、モロヘイヤの添加は保存中の食感の硬化を和らげる方向に働いたものの、そのメカニズムがでんぷんの再結晶化の抑制によるものとは言えない、という結果が示されています。

この研究を読むうえでの注意

この研究は、特定の配合・保存条件のもとで米粉パンの物性や食感を調べた一つの研究であり、モロヘイヤの添加によって保存性や食感が必ず改善されると断定するものではありません。また、老化を抑えたと見られる変化の背景にあるしくみ(でんぷんの再結晶化以外の要因の関与など)については、この研究だけでは十分に解明されておらず、さらなる検証が必要と考えられます。なお本研究は日本の調理科学分野の学会で発表されたものです。

まとめ

この研究では、グルテンフリーの主食として期待される米粉パンが抱える「老化のしやすさ」という課題に対し、モロヘイヤという水溶性多糖類を含む野菜を加える方法を検証しました。その結果、モロヘイヤの添加によって生地は硬くなる一方、焼き上がったパンはより軟らかい食感になり、保存中の硬化も抑えられる傾向が示されました。ただし、でんぷんの再結晶化そのものへの影響は確認されておらず、老化を抑えるしくみの全容は今後の研究課題として残されています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Chie Kozaki, Nao Kawamura, Keiko Fujii. 米粉パンの老化特性に及ぼすモロヘイヤ添加の影響. 日本調理科学会大会研究発表要旨集 (2026). DOI: 10.11402/ajscs.37.0_71.