オレガノ(Origanum vulgare)は料理に欠かせない香草として高い価値を持つ一方、乾燥・粉砕された状態では見た目から植物種を識別することが難しくなり、経済的動機による混入(別の安価な植物を混ぜて量を水増しする不正)の標的になりやすいとされています。今回紹介する研究は、こうしたオレガノの真正性を確認する方法として、複数の元素を同時に測定する分析手法を用い、オリーブの葉(Olea europaea)が混入した場合にそれを検出できるかを調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームはまず、本物のオレガノとオリーブ葉のロット(仕入れ単位)について、ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光分析)という手法でカルシウム(Ca)、カリウム(K)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)、亜鉛(Zn)の含有量を測定し、それぞれの元素プロファイル(含有パターン)の特徴を把握しました。続いて、オレガノにオリーブ葉を重量比で1〜20%の範囲で段階的に混ぜた試料シリーズを作成しました。
これらのデータをもとに、元素プロファイルから混入割合を推定する多変量校正モデル(複数の変数を組み合わせて数値を予測する統計モデル)を構築しました。交差検証(データの一部を使ってモデルの精度を確かめる手法)の結果、潜在変数の数(LV)が2のときに最も良好な性能が得られ、決定係数R2(CV)は0.939、予測誤差を示すRMSECVは1.666%でした。どの元素が予測に重要かを分析したところ、Zn、Ca、Fe、Mn、Mgが特に影響力の大きい指標(VIP値が1超)として挙げられました。
さらに、このモデルの実用性を確かめるため、実際に9種類の市販オレガノ製品を個別に購入し、それらを組み合わせた3種類の混合品を用意したうえで、オリーブ葉を2%、7%、11%、16%(重量比)で加えた外部検証用の試料を作成しました。この市販品ベースの検証では、決定係数R2predが0.67、予測誤差RMSEPが2.96%となり、著者らは元素プロファイリングが今回の試料の範囲内でオリーブ葉混入のおおよその予測を提供しうると述べています。
加えて、元素分析を補完する目的で複数の化学的フィンガープリンティング(成分パターンの特徴づけ)も行われました。ATR-FTIR(赤外分光法)ではオレガノとオリーブ葉をスペクトル上で定性的に区別できることが示され、LC-MS/MSによるフェノール成分のプロファイリングと、GC-MSによる揮発性成分・精油成分の分析も、それぞれ独立した角度からの裏付けとなる情報を与えたとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、あくまで今回用いた試料の範囲内での結果であることに留意が必要です。実験室で作成した混入シリーズでは高い予測精度(R2(CV)=0.939)が得られた一方、実際の市販品を組み合わせた検証セットではR2predが0.67、RMSEPが2.96%と、精度がやや低下しています。著者らはこの結果について、元素プロファイリングが「おおよその予測(approximate prediction)」を与えるものであり、「有望な分析的枠組み(promising analytical framework)」であると位置づけており、断定的な結論としては述べていません。一つの研究であり、今後さらなる検証が必要な段階の知見と言えます。
まとめ
本研究は、オレガノへのオリーブ葉混入という、乾燥・粉砕後には見分けにくい食品の不正表示問題に対し、ICP-OESによる多元素分析と、FTIR・LC-MS/MS・GC-MSといった複数の化学分析を組み合わせるアプローチを検討したものです。実験室内で作成した試料では高い予測性能が得られた一方、実際の市販品を用いた検証ではやや精度が下がることも示され、著者らはこの手法を食品の真正性評価・混入スクリーニングのための一つの分析的枠組みとして位置づけています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:多元素ICP-OESプロファイリングによるオレガノの真正性評価:相補的フィンガープリンティングによるオリーブ葉混入の検出(フィグシェア・2026年08月)