サウジアラビアではナツメヤシが広く栽培されていますが、収穫されるうちの約5〜33%は品質基準に届かず、廃棄されるか家畜飼料に回されているといいます。こうした低品質ナツメヤシは糖分が豊富で、本来は捨てるにはもったいない資源とも言えます。今回紹介する研究では、この低品質ナツメヤシを、食品や化粧品などに幅広く使われる増粘剤「キサンタンガム」をつくるための発酵原料として活用できないかが調べられました。
研究の内容
研究チームは、Wannana、Shagra、Sabbaka、Barhi、Saqai、Khalas、Sukkariという7種類のサウジアラビア産の低品質ナツメヤシ品種を対象にしました。それぞれのナツメヤシから糖度約12.5〜17ブリックスのナツメヤシ果汁をつくり、これを唯一の炭素源として、Xanthomonas campestris(キサントモナス・カンペストリスという細菌)による好気的なバッチ発酵を行いました。発酵条件は温度30℃、撹拌速度180rpm、時間120時間という標準的な条件に統一されています。比較のため、純粋なグルコース、純粋なスクロース、そして市販のキサンタンガムも同じ条件で対照として用いられました。
得られたキサンタンガムは、量を測定したうえで、赤外分光法(FTIR)による化学構造の確認、色の測定、熱重量分析(TGA)・示差走査熱量測定(DSC)による熱的性質の評価、さらに定常および動的なせん断による粘性(レオロジー)の測定など、複数の角度から特性が調べられました。
わかったこと
キサンタンガムの生産量は、ナツメヤシ由来の原料では1リットルあたり5.60〜7.77グラムの範囲となりました。特にBarhi品種(7.77g/L)とSaqai品種(7.58g/L)は、グルコース対照(6.68g/L)やスクロース対照(6.23g/L)を上回る収量を示したと報告されています。
FTIRによる分析では、ナツメヤシ由来のキサンタンガムのスペクトルは市販の標準品とほぼ一致しており、官能基や基本構造がよく似ていることが示唆されました。一方で色については、ナツメヤシ由来の粉末は市販品(明度L*=84.71、白色度78.19)に比べて色が濃く黄味がかっており(明度L*=61.09〜71.00、白色度54.92〜63.34)、これはナツメヤシ自体の色素の残存や、加熱調理時に起こるメイラード反応・カラメル化反応の生成物によるものと考えられると論文では述べられています。
熱重量分析では、いずれの試料も2段階で分解が進むことが確認されました。500℃まで加熱した際に炭化物として残る割合は、ナツメヤシ由来のガムで48.93〜54.05%と、市販の標準品(33.49%)よりも高く、熱による分解への耐性がより高い可能性が示されています。
粘性の性質については、すべての溶液がずり応力を加えると粘度が下がる「擬塑性(シアシニング)」の挙動を示し(流動挙動指数nが1未満)、濃度が高くなるほど粘り気を表す指数(K値)は上昇し、温度が高くなるほど低下する傾向が見られました。また、粘度が温度変化に反応する度合いを示す活性化エネルギーは、市販品の9.98kJ/molからSaqai品種の29.39kJ/molまで幅がありました。
この研究の位置づけ
この研究は、サウジアラビア産の低品質ナツメヤシが、技術的にも経済的にも実現可能で、持続可能かつ低コストな炭素源として、食品添加物として利用可能なキサンタンガムの生産にアップサイクルできる可能性を示すものだと結論づけられています。ただし、これは実験室規模での一つの研究であり、複数の品種や条件を比較した結果に基づくものです。実際の産業規模での生産や、長期的な安全性・品質の検証などについては、この要旨の範囲では言及されていません。
まとめ
本研究は、通常は廃棄されるか飼料にしかならない低品質のナツメヤシを、微生物発酵によって食品添加物であるキサンタンガムに変える可能性を検討したものです。品種によっては従来の糖原料であるグルコースやスクロースよりも高い収量を示し、市販品と近い化学構造を持ちながら熱に強い性質を示したことが報告されています。食品廃棄物の有効活用という観点からも注目される研究といえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:発酵基質としての異なる品種の低品質ナツメヤシからのキサンタンガムの生産と特性評価(ポリマーズ・2026年08月)