日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:ACM Transactions on Applied Perception

ライセンス: 論文に記載なし

森の中で飲む緑茶と、居酒屋で飲むビール。同じ飲み物でも、周囲の環境によっておいしさの感じ方が変わるのではないか——そんな素朴な疑問を科学的に検証した研究が、エーシーエム・トランザクションズ・オン・アプライド・パーセプション誌に2026年08月に掲載予定です。この研究は東京大学に所属する研究者らが主導しており、日本主導の研究といえます。筆頭著者のKento Kawada氏、およびS. Komiya氏、Ryota Nitto氏、Shin'ichi Warisawa氏、Yuki Ban氏はいずれも東京大学に所属しています。

これまでの研究では、特定の環境が食事のおいしさに影響を与えることや、季節感と食べ物の組み合わせに一致(コングルーエンシー)があることは分かっていました。しかし、異なる場所の環境と飲み物の組み合わせが、同じ人の中でどのように相互作用するのかは、まだよく分かっていなかったといいます。

どのように調べたのか

研究チームは22人の参加者を対象に、仮想的な音と映像で再現した4種類の環境(森、居酒屋、ビーチ、環境を提示しない対照条件)と、2種類の飲み物(緑茶、ビール)を組み合わせる実験を行いました。参加者一人ひとりが全ての組み合わせを体験する『参加者内計画』と呼ばれる方式で、4×2の合計8条件について、飲む前に予想したおいしさ(期待palatability)と、実際に飲んだ後に感じたおいしさ(知覚palatability)の両方を評価してもらいました。

何が分かったのか

尤度比検定という統計手法を用いた分析の結果、環境と飲み物の間には統計的に有意な交互作用が見られました(期待おいしさについてχ²(3) = 39.01、p < .001、知覚おいしさについてχ²(3) = 25.46、p < .001)。これは、どの環境が高く評価されるかは、その場にある飲み物が何かによって変わることを示しています。つまり、環境単独の効果だけでなく、環境と飲み物の『組み合わせ』自体が評価に影響していたということです。

また、飲む前の期待おいしさと、実際に飲んだ後の知覚おいしさとの間には強い正の相関が確認されました(rrm(153) = 0.705、p < .001)。これは、実際に口にする前の『期待』が、環境を選ぶ際の目安として使える可能性を示唆していると著者らは述べています。

さらに、参加者が各条件から連想した言葉(評価語)を分析したところ、居酒屋とビールの組み合わせでは文化的・状況的な知識の共有が、森と緑茶の組み合わせでは感覚的な特徴の重なりが、それぞれ関わっている可能性が示されました。そして、連想語の類似度が高いほど、おいしさの評価も高くなる傾向があったといいます。

この研究をどう読むか

本研究は22人という限られた人数を対象に、緑茶とビールという2種類の飲み物、森・居酒屋・ビーチ・対照という4種類の仮想環境の組み合わせに絞って行われたものです。得られた知見は、この特定の飲み物と環境の組み合わせの範囲内での傾向であり、他の食品や環境、より多様な参加者集団に一般化できるかどうかは、この一つの研究だけでは確定していません。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意する必要があります。

それでも、文化的な結びつきや感覚的な共通点に着目することが、おいしさが高く評価されやすい環境を選んだり設計したりする際の手がかりになりうる、という方向性を示した点は興味深い成果だといえます。

まとめ

この研究では、仮想的な音と映像による環境と飲み物の組み合わせが、飲む前の期待おいしさと飲んだ後の知覚おいしさの両方に影響することが示されました。また、期待と知覚の評価には強い相関があり、連想される言葉の類似性がおいしさの評価と関連している可能性も示唆されています。飲食の場の演出やデザインを考えるうえで、今後さらなる研究の発展が期待されるテーマです。

著者:Kento Kawada(The University of Tokyo, Japan)、S. Komiya(The University of Tokyo, Japan)、Ryota Nitto(The University of Tokyo, Japan)、Shin’ichi Warisawa(The University of Tokyo, Japan)、Yuki Ban(The University of Tokyo, Japan)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Kento Kawada, S. Komiya, Ryota Nitto, et al. Investigating Environment–Beverage Matching: Effects on Expected and Perceived Palatability. エーシーエム・トランザクションズ・オン・アプライド・パーセプション (2026). DOI: 10.1145/3841188.