同じ飲み物でも、飲む場所や雰囲気によっておいしさの感じ方が変わるという経験は多くの人にあるのではないでしょうか。これまでの研究では、特定の環境がおいしさに単独で影響することや、季節感と食べ物・飲み物の一致(合っている感じ)がおいしさに関わることが示されてきました。しかし、森やビーチ、居酒屋といった場所ごとに異なる環境と、飲料の組み合わせが、同じ人の中でどのように相互に影響し合うのかについては、まだよくわかっていませんでした。今回紹介する研究は、この「環境と飲料のマッチング」に焦点を当て、期待されるおいしさと実際に知覚されるおいしさの両方への影響を調べたものです。
どのように調べたのか
研究チームは、22名の参加者を対象に、参加者ごとに複数の条件を試す形式(within-participants実験)で実験を行いました。実験は、森・居酒屋・ビーチ・対照(コントロール)という4種類の仮想的な音と映像による環境と、緑茶・ビールという2種類の飲料を組み合わせた、4×2のデザインで構成されています。参加者は、それぞれの環境と飲料の組み合わせについて、飲む前に感じる「期待されるおいしさ」と、実際に飲んだあとに感じる「知覚されるおいしさ」を評価しました。あわせて、各条件から連想される言葉(評語)についても分析されています。
研究でわかったこと
尤度比検定という統計的な手法を用いた分析の結果、期待されるおいしさ(χ²(3) = 39.01、p < .001)と、知覚されるおいしさ(χ²(3) = 25.46、p < .001)の両方において、環境と飲料の組み合わせによる有意な交互作用が見られたと報告されています。これは、どの環境が比較的高く評価されるかが、組み合わせる飲料によって異なることを示しています。
さらに、期待されるおいしさと知覚されるおいしさの間には強い正の相関(r_rm(153) = 0.705、p < .001)が見られたとされ、飲む前の期待の評価が、環境を選ぶ際の一つの手がかりになりうることが示唆されています。加えて、連想語の分析からは、居酒屋とビールの組み合わせでは文化的・状況的な知識の共有が、森と緑茶の組み合わせでは感覚的な特徴の重なりが、それぞれのマッチングに関わっている可能性が指摘されており、連想語の類似度がおいしさの評価と正の関係にあったことも報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は22名を対象とした一つの実験であり、緑茶とビールという2種類の飲料、森・居酒屋・ビーチ・対照という4種類の仮想環境という限られた組み合わせの中で得られた結果です。したがって、ここで示された「マッチング」の効果が、他の飲料や環境、あるいはより多くの人を対象とした場合にも同様に当てはまるかどうかは、この研究だけでは断定できません。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意する必要があります。
なお、この研究は東京大学(The University of Tokyo)に所属する研究者らによって行われたものです。
まとめ
この研究では、仮想的な音と映像による環境と飲料の組み合わせ方によって、期待されるおいしさと実際に知覚されるおいしさの評価が変わりうることが示唆されました。また、期待されるおいしさが、知覚されるおいしさと強く関連していたことも報告されています。飲料と文化的・感覚的に調和した環境を選ぶことが、おいしさの評価に関わる一つの手がかりになりうると考えられていますが、これは限られた条件下での知見であり、今後さらなる研究による検証が必要とされています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:環境と飲料のマッチングの検討:期待されるおいしさと知覚されるおいしさへの影響(エーシーエム・トランザクションズ・オン・アプライド・パーセプション・2026年08月)