キウイフルーツは収穫後も追熟が進む果物で、低温で貯蔵したあと常温の売り場に並ぶ『シェルフライフ(常温移行期)』の間に、やわらかさや香りが大きく変化します。この時期の品質管理は、果物の味わいを左右する重要な要素です。今回紹介する研究は、植物ホルモンの一種であるメチルジャスモン酸(MeJA)を処理したキウイフルーツが、低温貯蔵から常温に移った際にどのような変化を示すのかを、香気成分の分析と遺伝子発現の解析を組み合わせて調べたものです。研究は江西省収穫後果物・野菜貯蔵保存重点実験室(江西農業大学 農学院、中国・南昌市)に所属する研究者らによって行われました。
何を調べ、何がわかったのか
研究チームはまず、MeJAで処理したキウイフルーツの生理的な変化を調べました。その結果、MeJA処理は果実の軟化を有意に遅らせ、エチレンの発生量と呼吸強度を抑えることが確認されました。一方で、糖度の指標となる可溶性固形分量には有意な影響を与えませんでした。
香気成分については、MeJA処理により揮発性化合物の総量が明らかに増加し、特にエステル類とケトン類の蓄積が増えることで、果実の香りの構成が変化したことが示されました。
さらに、RNAシーケンシング(RNA-seq)と重み付き遺伝子共発現ネットワーク解析(WGCNA)を用いた解析により、脂肪酸代謝に関わる遺伝子群が集まった『MEblackモジュール』が見出され、これがエステル類の蓄積と密接に関連していることがわかりました。MeJA処理は、香気の合成に関わる主要な遺伝子であるFAD、LOX、ADH、AATの発現を上昇させていました。加えて、AAT遺伝子の一つであるAcAAT17を一時的に過剰発現させる実験を行ったところ、AAT酵素の活性とエステル類の蓄積が有意に高まることが確認されました。
これらの結果から、研究チームはMeJAが香気生合成経路に関わる遺伝子の発現を転写レベルで再編成することを通じて、低温貯蔵されたキウイフルーツの風味品質を向上させる、と結論づけています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、MeJA処理と香気成分・遺伝子発現の関連を統合的に解析した一つの研究であり、今回の要旨で示された内容の範囲を超えて、実際の効果や応用可能性を断定するものではありません。今回の記事で紹介した内容は要旨に基づくものであり、対象となった品種や処理条件、貯蔵期間などの詳細な実験条件については、原著論文を参照する必要があります。
まとめ
今回の研究では、メチルジャスモン酸の処理によって低温貯蔵後のキウイフルーツの軟化やエチレン生成、呼吸強度が抑えられる一方、エステル類やケトン類を中心とした香気成分の蓄積が増加することが報告されました。また、この変化の背景には、FAD、LOX、ADH、AATといった脂肪酸代謝・香気合成に関わる遺伝子群の発現変化があり、特にAcAAT17遺伝子がエステル蓄積に関与することが示唆されています。収穫後の果物の品質管理や香気形成の仕組みを理解するうえで、参考になる知見といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:メチルジャスモン酸はキウイフルーツの収穫後低温貯蔵から常温移行期における香気生合成を制御する:揮発性成分解析とトランスクリプトーム解析の統合(ジャーナル・オブ・インテグレイティブ・ホーティカルチャー・2026年08月)