プロセスチーズは、ナチュラルチーズに『溶融塩(乳化塩)』と呼ばれる添加物を加えて加熱・撹拌することで作られる加工食品です。この溶融塩は、チーズの中のカルシウムとたんぱく質(カゼイン)の結びつきをほどき、脂肪と水を均一に取り込ませて、なめらかな組織を作る役割を担っています。今回紹介する研究では、水牛乳から作られたたんぱく質濃縮物(BMPC80)を原料としたプロセスチーズ製品を対象に、使用する溶融塩の種類と量によって、製品の性質がどのように変わるのかが調べられました。

水牛乳はカルシウムやカゼインの含有量が牛乳よりも多いとされ、そうした原料でプロセスチーズを作る場合、溶融塩がどのように働くのかについては、これまで十分に解明されていなかったと研究チームは述べています。今回の研究は、インドのICAR-国立乳製品研究所(ICAR-National Dairy Research Institute)の研究者らによって行われました。

どのような方法で調べたのか

研究チームは、リン酸水素二ナトリウム(DSP)、ピロリン酸四ナトリウム(TSPP)、ヘキサメタリン酸ナトリウム(SHMP)、クエン酸三ナトリウム(TSC)という4種類の溶融塩を用意し、それぞれを180mEq/kgと360mEq/kgという2段階の濃度でBMPC80ベースのプロセスチーズ製品に加えて、できあがった製品の性質を比較しました。具体的には、水に溶け出すたんぱく質の量、チーズが加熱時にどれだけ溶けて広がるか(メルタビリティ・流動性)、レオロジー(変形や流動のしやすさ)、そして電子顕微鏡などによる微細構造の観察が行われています。

研究でわかったこと

溶融塩の濃度を高くするほど、水に溶け出すたんぱく質の量が減少する傾向が見られました。これは、可溶化されたカゼインがより多く脂肪・たんぱく質のネットワーク構造の中に取り込まれたことを示していると報告されています。

塩の種類による違いも観察されました。TSPP、SHMP、TSCの3種類は、カルシウムを効果的に捕捉(封鎖)してミネラルを溶けやすい状態にし、たんぱく質の水和と分散を促す働きを示したとされています。一方でDSPは、カルシウムを捕捉する能力が限定的で、水に溶けにくいリン酸カルシウムの複合体を作ってしまう傾向が見られたと述べられています。

また、溶融塩の濃度を高くすると、チーズのメルタビリティ(溶けやすさ)と流動性が向上することも確認されました。微細構造の観察では、濃度が低い場合は粗い網目状の構造だったのに対し、360mEq/kgという高濃度では、たんぱく質が連続的に広がった構造の中に脂肪の粒がより細かく均一に分散した状態へと変化していたことが報告されています。研究チームは、この変化は溶融塩がカルシウムと結びつく能力(イオン交換能力)が濃度に応じて高まったことの直接的な結果だと説明しています。

この研究をどう読むか

この研究は、水牛乳由来のたんぱく質濃縮物を使ったプロセスチーズ製品において、溶融塩の種類と濃度がたんぱく質やカルシウムの挙動、そして製品の食感や構造にどう関わるかを、実験室レベルで詳しく検証したものです。特定の溶融塩や配合が優れている、あるいは健康に良いといったことを示すものではなく、原料の性質に応じて溶融塩の選び方や量を最適化するための、仕組みに関する基礎的な知見を提供するものと位置づけられています。一つの研究成果であり、実際の商業生産や他の乳原料への適用については、さらなる検証が必要と考えられます。

まとめ

今回の研究では、水牛乳たんぱく質濃縮物を使ったプロセスチーズにおいて、溶融塩の種類(DSP、TSPP、SHMP、TSC)と濃度(180・360mEq/kg)が、たんぱく質の分散のしかたやチーズの溶けやすさ、微細構造に影響を与えることが報告されました。溶融塩がカルシウムをどれだけ効果的に捕捉できるかが、プロセスチーズの仕上がりを左右する重要な要因の一つであることが示唆されています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Avinash Chandra Gautam, Gaurav Kr Deshwal, Yogesh Khetra, et al. Effect of calcium sequestering salts on the functional, textural, rheological and structural attributes of processed cheese products prepared from buffalo milk protein concentrate 80. エルダブリューティー(食品科学技術) (2026). DOI: 10.1016/j.lwt.2026.119831. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.