著者の所属・活動拠点の国は、ドイツです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
「欠点」という言葉が指すものを問い直す
コーヒーの生豆は、黒く変色した豆や虫食いの豆、果皮の破片、石などの異物、異臭の有無といった「欠点」によって世界各地で格付けされています。しかし著者らは、格付けで付けられる欠点のラベルと、実際にいれたコーヒーの味や香りとの関係は、直接的でも一様でもないと指摘しています。
このレビューの目的は三つあります。第一に、国際規格、各国の基準、先物取引所の規則といった分類の仕組みを、元の試料量や欠点の数値を換算せずに比較すること。第二に、欠点を「どの段階で生じたか」という観点で整理し、格付けで観察された欠点から原因についてどこまで言えるかを明確にすること。第三に、主な欠点について、成分、揮発性成分、焙煎中の化学変化、官能面での影響に関する証拠を検討し、化学的に区別できることと、カップの香りへの影響が確かめられていることとの間にある隔たりに注目することです。対象はアラビカ種とカネフォラ種の生豆です。
分類基準の比較と文献の整理
このレビューは、体系的レビューではなく、構造化された叙述的レビューとして行われました。著者らは、国際標準化機構(ISO)の規格、スペシャルティコーヒー協会のハンドブック、ICE(インターコンチネンタル取引所)の先物契約規則に加え、ブラジル、コロンビア、ペルー、メキシコ、インドネシア、ベトナムなど多数の生産国・地域の基準を原文書から確認しました。あわせて、2026年8月までに発表された学術文献を言語を限定せずに集め、欠点豆の成分、保管、焙煎化学、発酵、カビ毒、害虫被害などに関する研究を検討しています。
比較の結果、基準ごとに試料の量(300グラム、350グラム、500グラム、1キログラムあたり、容積で測るトレーなど)、数え方(欠点の換算値、点数、重量比率など)、法的な位置づけ、目的が異なることが示されました。たとえば代表的な欠点である黒豆一つをとっても、豆1粒を1欠点と数える基準もあれば、重量比率で表す基準もあります。そのため著者らは、ある基準の値を別の基準へ計算で換算しても元のルールは保たれず、共通の官能評価の尺度に変換することはできないと結論づけています。
欠点の扱いを整理するため、著者らは、見た目(形態)、発生の原因(成り立ち)、化学成分、官能的な証拠という四つの段階を区別すべきだとしています。ここで「香りの前駆体」とは、焙煎中の反応に加わったり、その反応の釣り合いを左右したりしうる生豆の成分(ショ糖、遊離アミノ酸、クロロゲン酸、トリゴネリン、脂質、有機酸など)を指します。また、試料を区別するのに役立つ揮発性成分(マーカー)であっても、それが実際に人が感じる香りの原因であるとは限らない点を、著者らは一貫して強調しています。
主な欠点についてわかっていること、わかっていないこと
著者らによれば、健全な豆と比べて成分や揮発性成分の違いが記録されているのは、黒豆、酸っぱい豆・褐色の豆、未熟豆、虫害豆、長く保管されて古くなった豆などです。黒豆では、ショ糖、脂質、クロロゲン酸、トリゴネリン、カフェインなどに違いが報告されていますが、論文は、黒豆は前駆体の釣り合いを悪化させたり焙煎のむらを招いたりしうるものの、普遍的な「黒豆の味」は存在しないとまとめています。一方、色の濃い緑色の豆や形の崩れた豆など、見た目で分類される多くの欠点については、その欠点に固有の香り成分や、量と影響の関係を示すデータが不足しているとされています。
酸っぱい豆・褐色の豆については、管理されていない発酵が原因の一つとして考えられるものの、すべての褐色の豆が同じ微生物や過程から生じるとは示されていません。著者らが紹介する混合試験では、健全なアラビカ豆に黒豆・緑色の豆・酸っぱい豆を合わせて10.25%混ぜると消費者は違いを感じ取りましたが、好ましさは低下せず、好みに影響する境界の濃度は推定できなかったと報告されています。未熟豆については、青臭さや干し草のような印象と結び付けられることが多い一方、よく語られる「ピーナッツのような」という特徴は確立された根拠に支えられていないとして、慎重な扱いを求めています。
用語の混乱を象徴する例として、著者らは「クエーカー」という言葉を取り上げています。ISOの規格などはクエーカーを未熟豆と同じ区分に入れていますが、別の立場では、軽く縮んだ、栄養的・生理的に消耗した豆を指し、早摘みの未熟豆とは別の経路として扱います。論文は、これらは同じものの言い換えではなく、互いに競合する定義であり、安易に一つにまとめるべきではないとしています。
これに対して、特定の化学物質との結び付きが比較的はっきりしている欠点もあります。「リオ臭」と呼ばれる異臭は2,4,6-トリクロロアニソール(TCA)と、「ポテト臭」と呼ばれる欠点は2-イソプロピル-3-メトキシピラジン(IPMP)と結び付けられており、著者らは、これらが多くの見た目の欠点よりも具体的な化学的特徴を持つと述べています。
格付けと香りの化学をつなぐために
このレビューが示しているのは、欠点を決まった風味を持つ「もの」として捉えるのではなく、香りの前駆体のまとまりを乱すもの、あるいは加工上・安全上のリスクとして捉えるほうが適切だという考え方です。石のような異物は安全や設備への危険であっても、コーヒー由来の香りの前駆体とは無関係ですし、黒豆のような区分にも、原因の異なる豆がまとめられている可能性があります。
著者らは、こうした前駆体を中心とした枠組みによって、格付けの現場と化学分析・焙煎の実務を結び付けることを提案しています。同時に、証拠のつながりが途切れている部分では、不確かさを不確かさのまま残すべきだとしています。格付けのラベルが何を意味し、何を意味しないのかを見極めることが、欠点と香りの関係を理解する出発点になる、というのがこのレビューから伝わるメッセージです。
原著論文の著者・所属:Steffen Schwarz(Coffee Consulate, Hans-Thoma-Straße 20, 68163 Mannheim, Germany)、Dirk W. Lachenmeier(Chemisches und Veterinäruntersuchungsamt (CVUA) Karlsruhe, Weissenburger Str. 3, 76187 Karlsruhe, Germany)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Steffen Schwarz, Dirk W. Lachenmeier. Green Coffee Defects and Their Aroma-Relevant Precursors: A Review of Classification Systems, Causal Pathways, and Sensory Chemistry. Foods 2026-10-24. DOI: 10.3390/foods15213809. 原著ライセンス:CC BY.