著者の所属・活動拠点の国は、ノルウェーです。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
体の中では、炭素原子1個を含む小さな部品をある物質から別の物質へ受け渡す反応が数多く起きています。これは「一炭素代謝」と呼ばれ、アミノ酸のメチオニンとホモシステインが行き来する回路、葉酸がかかわる回路、コリンやベタインを分解する経路、DNAやたんぱく質に目印を付ける反応などを含みます。著者らは、この代謝の乱れがいくつかの病気と結び付けられていること、とくに血液中のホモシステイン濃度が高いことが心血管疾患のリスク上昇と関連していることを背景として挙げています。
人や肥満ラットを対象とした先行研究では、魚の摂取がホモシステイン濃度の低さと関連したという報告があります。一方で、一炭素代謝にかかわるほかの物質がどう変わるかは、よく分かっていませんでした。また、栄養研究の動物モデルには主にネズミなどのげっ歯類が使われていますが、著者らは、人と似た病気を自然に発症し、人と生活環境を共有する飼い犬の方が、人の栄養研究のモデルとして適している可能性があると考えました。
そこで研究チームは、ニシン由来のたんぱく質とトリ由来のたんぱく質のどちらかを含む食事を飼い犬に与え、血清中のホモシステイン濃度と関連する一炭素代謝物質を比べることを目的としました。著者らは、ニシンのたんぱく質を食べた犬の方がホモシステイン濃度が低くなると予想していました。
どのように調べたか
研究には、ノルウェーのベルゲン周辺の家庭で暮らす健康な成犬のゴールデン・レトリーバーとラブラドール・レトリーバー40頭が参加しました。研究は、犬をくじで無作為に2群に分け、2種類の食事を順番を入れ替えて両方とも与える「クロスオーバー試験」として行われました。獣医師や飼い主、分析担当者は、どの犬がどちらの食事を食べているかを知らない「二重盲検」の状態で研究を進めました。
試験用のフードは2種類の乾燥フードで、一方はニシンの切り身を作る際に残る頭・皮・骨・内臓から得たたんぱく質を、もう一方は食肉用のトリから出る頭・足・内臓から得たたんぱく質を含んでいました。たんぱく質・脂肪・炭水化物の量は両フードでそろえられました。犬は、まず少なくとも4週間、市販フードを食べる準備期間を過ごしてから、一方の試験フードを8週間食べました。その後、少なくとも4週間市販フードに戻す期間をはさみ、もう一方の試験フードを8週間食べました。試験期間中は、魚など海産物を含むおやつやサプリメントは禁止されました。
各試験フードの期間の前後に採血と採尿を行い、ホモシステインやメチオニン、システイン、ベタイン、コリン、グリシンなどの代謝物質と、ビタミンB群の濃度を測定しました。途中で参加をやめた4頭と、海産物の油のサプリメントを与えられていた1頭を除いた35頭が解析の対象となりました。
主な結果
主な調査項目である血清中のホモシステイン濃度は、ニシンとトリのどちらのフードを食べた後でも低下し、低下の程度に両フードの差はありませんでした。つまり、ニシンのたんぱく質の方がホモシステインを下げるという研究チームの予想は、今回の結果では支持されませんでした。
ほかの代謝物質でも、多くは両フードで似た変化が見られました。シスタチオニン、サルコシン、セリンの血清濃度はどちらのフードでも同程度に低下しました。ベタインはどちらのフードでも増え、その増え方はトリのフードの方が大きいという結果でした。コリンはどちらのフードでも変化しませんでした。グリシンはどちらのフードでも減り、減り方はニシンのフードの方が大きいと報告されています。メチオニンとシステインはニシンのフードでは変化せず、トリのフードではメチオニンが低下し、システインが上昇しました。
ビタミン類では、葉酸がニシンのフードで低下しトリのフードで上昇し、ビタミンB12はその逆の変化を示しました。著者らによると、すべての犬の葉酸とビタミンB12の濃度は基準範囲内か、それをわずかに上回る値でした。また、ニシンのフードを食べた後には、血球中の魚由来の脂肪酸であるEPAやDHAが、トリのフードと比べて増えていました。試験期間中に体重は変化せず、飼い主から有害な出来事の報告はありませんでした。
研究から分かったこと
研究チームは、ニシン由来とトリ由来のどちらのたんぱく質も犬の一炭素代謝に影響を与えたものの、両者の違いはわずかだったと結論づけています。魚のたんぱく質がホモシステインをとくに下げるという予想とは異なり、今回の飼い犬の試験では、主要な代謝物質の変化の多くがたんぱく質の由来によらず似ていたことが示されました。
原著論文の著者・所属:Olivia Bysheim Helland(Dietary Protein Research Group, Centre for Nutrition, Department of Clinical Medicine, University of Bergen, 5021, Bergen, Norway)、Henriette Johansen Syrrist(Dietary Protein Research Group, Centre for Nutrition, Department of Clinical Medicine, University of Bergen, 5021, Bergen, Norway)、Øystein Ahlstrøm(Department of Animal and Aquacultural Sciences, Faculty of Biosciences, Norwegian University of Life Sciences, 1433, Ås, Norway)、Nicole Frost Nyquist(The Nutrition and Health Unit, Faculty of Veterinary Medicine, Norwegian University of Life Sciences, 1432, Ås, Norway)、Svein Are Mjøs(Department of Chemistry, University of Bergen, 5020, Bergen, Norway)、Per Magne Ueland(Bevital AS, 5068, Bergen, Norway)、Oddrun Anita Gudbrandsen(Dietary Protein Research Group, Centre for Nutrition, Department of Clinical Medicine, University of Bergen, 5021, Bergen, Norway)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Olivia Bysheim Helland, Henriette Johansen Syrrist, Øystein Ahlstrøm, et al. Effects of diets containing fish proteins or poultry proteins on one-carbon metabolites in domestic dogs. A randomised, double-blind, two-period cross-over study. Scientific Reports 2026-07-31. DOI: 10.1038/s41598-026-64366-2. 原著ライセンス:CC BY.