この研究は、スペインの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

総説のねらい

腸の内側は、食べ物に由来する物質や腸内細菌、毒素などに常にさらされています。腸の壁は、こうした腸管内の内容物と体内の免疫細胞を隔てる「バリア」として働いており、その健全さは免疫のバランスを保つうえで欠かせないとされています。このバリアの制御が失われ、腸の壁が物質を通しやすくなった状態は「腸管透過性の亢進」、俗に「リーキーガット」と呼ばれ、消化器、代謝、自己免疫、精神神経、肝臓、心血管などの幅広い病気との関わりが指摘されてきました。

スペインの研究チームによるこの論文は、新たな実験を行った研究ではなく、既存の研究をまとめて解説する「ナラティブレビュー(総説)」です。著者らは、腸の細胞どうしをつなぐ構造の分子的な仕組み、腸の粘膜の免疫の成り立ち、細胞間のすき間を開閉する「ゾヌリン」というタンパク質の働き、バリアを損なう主な食事要因、そして腸管透過性に関連する病気や検査について、食事・腸内細菌・バリア・免疫のつながりという視点から整理することを目的としています。

細胞をつなぐ「タイトジャンクション」と何層もの防御

物質が腸の壁を通る道には、細胞そのものを通り抜ける経路と、隣り合う細胞のすき間を通る経路(傍細胞経路)があります。後者を主に制御しているのが、細胞どうしを密着させる「タイトジャンクション(密着結合)」です。論文によれば、タイトジャンクションは50種類を超えるタンパク質の網目で成り立っており、細胞膜を貫くオクルディンやクローディン、細胞の内側で骨組み(細胞骨格)とつなぐZO(ゾヌラ・オクルデンス)タンパク質などが含まれます。著者らは、クローン病や潰瘍性大腸炎、セリアック病、過敏性腸症候群などの患者の腸で、これらのタンパク質の量や配置が変化していたという既存の報告をまとめています。

バリアは細胞の結合だけで成り立っているわけではありません。総説では、腸の表面を覆う粘液層や抗菌作用をもつペプチドからなる「化学的バリア」、腸に付随するリンパ組織や、粘膜に分泌されて細菌や毒素の付着を防ぐ抗体「分泌型IgA」などからなる「免疫学的バリア」、さらに腸内細菌とその代謝物が担う「微生物のバリア」が重なり合う多層構造として説明されています。細胞間のすき間が開いて腸管内の抗原が過剰に入り込むと免疫が活性化され、これが透過性の亢進と慢性炎症や自己免疫疾患を結びつける中心的な仕組みだと著者らは述べています。

ゾヌリンの働きとバリアに影響する食事要因

著者らが特に注目するのがゾヌリンです。ゾヌリンは2000年に同定されたタンパク質で、「プレハプトグロビン2」と同じものであることが分かっています。論文では、体内で作られるタンパク質のうち、細胞間の透過性を「可逆的に」調節することが現在知られている唯一のものとして紹介されています。ゾヌリンの放出を引き起こす主な要因は、小麦などに含まれるグリアジンと腸内細菌です。放出されたゾヌリンは細胞内で一連の信号を伝え、細胞骨格を組み替えてタイトジャンクションを緩めます。信号が終わると結合は再び閉じた状態に戻ります。また、ゾヌリンを増やす方向・減らす方向に関わると報告された細菌の種類も整理されています。

続いて総説は、バリアを損なう食事要因として、過剰なブドウ糖、果糖、脂肪、オメガ6脂肪酸、塩分、アルコール、そして乳化剤や人工甘味料などの食品添加物を取り上げています。報告されている仕組みは、腸内細菌叢の乱れ、局所的な炎症や酸化ストレス、タイトジャンクションのタンパク質への直接的な作用などの組み合わせです。ただし、その根拠には細胞や動物を用いた研究が多く含まれています。たとえば添加物については動物や細胞のモデルでの報告として紹介されています。また、高脂肪食で脂質を運ぶ粒子が細胞のすき間にたまり結合に負担をかけるという考えについては、直接の証拠がまだなく「仮説」とみなすべきだと著者ら自身が注意を促しています。

論文はさらに、食物繊維が腸内細菌に発酵されてできる短鎖脂肪酸や、オメガ3脂肪酸、ポリフェノール、亜鉛など、バリアを支える方向に働くと報告されている食事要因についても既存研究を紹介しています。

この総説が示すもの

この総説は、腸のバリアを細胞の結合構造だけでなく、粘液、免疫、腸内細菌が連携する仕組みとしてとらえ、その開閉の調節役としてゾヌリンを位置づけています。著者らは、食事・腸内細菌・バリア・免疫のつながりをより明確に理解することが、腸のバリア機能を保ち、粘膜の免疫の活性化を調整することを目指した栄養面の取り組みを支える可能性があるとまとめています。

著者:David Granizo Bermejo(Department of Real Madrid Graduate School, Faculty of Medicine, Health and Sports, Universidad Europea de Madrid, Campus de Villaviciosa)、Guillermo García-Pérez-de-Sevilla(Department of Real Madrid Graduate School, Faculty of Medicine, Health and Sports, Universidad Europea de Madrid, Campus de Villaviciosa)、Antonio Molina-López(Department of Real Madrid Graduate School, Faculty of Medicine, Health and Sports, Universidad Europea de Madrid, Campus de Villaviciosa)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):David Granizo Bermejo, Guillermo García-Pérez-de-Sevilla, Antonio Molina-López. Intestinal permeability and the zonulin pathway: tight junctions, mucosal immunity, dietary modulators and clinical relevance. Frontiers in Nutrition 2026-10-06. DOI: 10.3389/fnut.2026.1938370. 原著ライセンス:CC BY.