著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Journal of Functional Foods
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的:複数の性質をまとめて評価する
プロバイオティクスは、適切な量を摂取すると体に良い働きをもたらす生きた微生物と定義されています。候補となる菌株は数多く見つかっていますが、どれが有望かを見極めるには複数の性質が関わります。胃や腸の過酷な環境で生き残れるか、腸の表面にとどまれるか、炎症などで傷んだ腸のバリアを守れるか、といった点です。
著者らは、多くの研究がこうした性質の一つだけに注目しがちだと指摘しています。そこで研究チームは、消化液への耐性、胆汁酸塩への耐性、腸の組織モデルへの付着、腸バリアの保護という複数の観点を組み合わせた評価の仕組みをつくりました。この仕組みで候補菌株を調べ、優れた性質を持つ菌株を見つけることを目指しました。
何をどう調べたか
対象は16の候補菌株です。比較の基準には、研究例が多く広く使われている乳酸菌株LGGを用いました。候補には乳酸菌の仲間とビフィズス菌の仲間が含まれ、ヒトの腸や便、伝統的な発酵食品などから分離されたものです。
まず、試験管内で唾液、胃液(pH2.5)、腸液を模した液に菌を順番にさらし、どれだけ生き残るかを測りました。続いて、胆汁の成分である胆汁酸塩を0.3%含む条件での耐性を調べました。
次に、腸への付着しやすさを調べました。使ったのは「大腸オルガノイド」です。大腸の細胞を培養して、本来の組織に近い性質を持たせたモデルで、従来の培養細胞より体内の状態に近い評価ができるとされます。
さらに、絞り込んだ菌株について腸バリアへの作用を調べました。オルガノイドを菌で24時間処理したあと、炎症に関わる物質TNF-αを加えてバリアを傷つけました。そのうえで、細胞同士のつなぎ目や粘液に関わる分子の遺伝子の働きと、タンパク質の量を調べました。
主な結果:Hi188とLc19が総合的に良好
連続した消化液の試験では、多くの菌株で胃液、腸液と進むにつれて生存率が下がりました。そのなかで、植物乳酸菌の一種Hi188と、乳酸菌の一種Lc19は、LGGと統計的に差のない生存率を保ちました。論文の報告では、胃液の段階での生存率はHi188が約85%、Lc19が約85%でした。腸液の段階ではHi188が約73%、Lc19が約70%でした。胆汁酸塩の試験では、LGGと差のない高耐性株がいくつかあり、そのなかでもHi188とLc19の耐性が最も高かったとされています。
大腸オルガノイドへの付着では、Hi188とLc19がLGGより有意に高い付着率を示しました。こうした結果をもとに、研究チームはこの2株を選び、腸バリアへの作用を詳しく調べました。
TNF-αで処理すると、細胞のつなぎ目や粘液に関わる遺伝子(ZO-1、MUC-2、E-カドヘリン、CLDN1)の働きが低下しました。あらかじめHi188またはLc19で処理しておくと、これらの遺伝子の働きはTNF-αだけの場合より有意に高くなりました。その程度はLGGと差がありませんでした。
つなぎ目のタンパク質オクルディンの観察では、どの菌で処理した群でもTNF-αだけの群より増加が見られました。特にLGGとLc19で比較的強く、Hi188は中程度の回復でした。タンパク質のZO-1とE-カドヘリンについては、Lc19がTNF-αだけの群より有意に増加させたと報告されています。なお、Hi188、Lc19、LGGの3株の間に有意な差はありませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、Hi188とLc19が消化液や胆汁への耐性、腸モデルへの付着、バリア保護のいずれでも、基準株LGGと同等かそれ以上の性能を示したと結論づけています。そのうえで、両株を腸の健康に関わる有望なプロバイオティクス候補と位置づけました。
ただし、これらは試験管内の消化モデルとオルガノイドで得られた結果です。著者ら自身も、このモデルは実際の腸の複雑さを完全には再現できないと述べています。また、効果をもたらす具体的な分子は特定されていません。菌株は1種類ずつ試験しており、複数の菌を混ぜた場合に同じ結果になるかは確かめられていません。この研究は、一つの性質だけでなく複数の段階を通して候補菌を絞り込む方法と、その方法で選ばれた2株の試験管内での特徴を示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Liwen Liu(College of Biotechnology and Bioengineering, Zhejiang University of Technology, Hangzhou 310032, China; The State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Product and Institute of Food Sciences, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou, China)、Cheng Wang(Global R&D Innovation Center, Inner Mongolia Mengniu Dairy (Group) Co. Ltd., Hohhot, China)、Linjun Wu(The State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Product and Institute of Food Sciences, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou, China)、Xiangyu Bian(The State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Product and Institute of Food Sciences, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou, China)、Xiaoqiong Li(The State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Product and Institute of Food Sciences, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou, China)、Jian Kuang(The State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Product and Institute of Food Sciences, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou, China)、Jianqiang Li(The State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Product and Institute of Food Sciences, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou, China)、Fangshu Shi(The State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Product and Institute of Food Sciences, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou, China)、Zhiyuan Yan(Global R&D Innovation Center, Inner Mongolia Mengniu Dairy (Group) Co. Ltd., Hohhot, China; Yashili International Group Ltd., Guangzhou, China)、Yuejian Mao(Global R&D Innovation Center, Inner Mongolia Mengniu Dairy (Group) Co. Ltd., Hohhot, China)、Jing Yang(Global R&D Innovation Center, Inner Mongolia Mengniu Dairy (Group) Co. Ltd., Hohhot, China)、Jinjun Li(The State Key Laboratory for Quality and Safety of Agro-Product and Institute of Food Sciences, Zhejiang Academy of Agricultural Sciences, Hangzhou, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Liwen Liu, Cheng Wang, Linjun Wu, et al. Multi-dimensional screening identifies Lactiplantibacillus plantarum Hi188 and Lacticaseibacillus paracasei Lc19 as probiotics with enhanced gastrointestinal tolerance, organoid adhesion, and barrier protection. Journal of Functional Foods 2026-10-29. DOI: 10.1016/j.jff.2026.107552. 原著ライセンス:CC BY.