野菜の栽培では、土や培地に施す肥料だけでなく、植物の生育を助ける「バイオスティミュラント」と呼ばれる資材が近年注目されています。海藻由来の抽出物やフミン酸をベースにした製品は、根の働きや養分の吸収を高める目的で商業的に広く使われていますが、実際にどの程度、どんな作物に効果があるのかは、作物や品種ごとにまだよくわかっていない部分が多いのが実情です。今回紹介する研究では、ホウレンソウを対象に、こうした市販のバイオスティミュラント資材を根の周り(根圏)に施用したときの効果を、品種による違いに注目しながら調べています。
研究チームは、温室内の鉢植えでホウレンソウの3品種(「Lakeside」「Mandolin」「SV2157」)を育て、市販の海藻抽出物系資材(Kelpak®)とフミン酸系資材(Nutra Need™、微生物由来の抽出物を含む製剤)を、それぞれ単独または組み合わせて底面給水(サブイリゲーション)で根圏に施用しました。処理区は、無施用の対照区、海藻抽出物1%区、フミン酸1%区、両者を半分ずつ組み合わせた併用区の4種類です。
研究でわかったこと
結果として、バイオスティミュラントの効果と品種との間に、統計的に意味のある相互作用(組み合わせによって効果が変わること)が、地上部・地下部の乾燥重量やミネラル含有量において見られたと報告されています。
具体的には、品種「SV2157」では、いずれのバイオスティミュラント処理でも地上部の乾燥重量が対照区に比べて約34%増加し、海藻抽出物区と併用区では根の乾燥重量も約47%増加したとされています。この品種では、フミン酸処理で窒素・カリウム・鉄・硫黄・ホウ素が、海藻抽出物処理でカルシウム・マグネシウム・鉄・マンガン・硫黄が、それぞれ対照区より多く蓄積したことも示されています。
一方、品種「Mandolin」では反応の傾向が異なり、フミン酸処理と併用区で根の乾燥重量が対照区より177〜268%増加したものの、地上部の乾燥重量が増えたのは海藻抽出物区のみで、フミン酸処理と併用区ではむしろ窒素とマグネシウムの蓄積が対照区より少なくなったと報告されています。さらに品種「Lakeside」では、根の生育に目立った反応が見られず、カルシウム・鉄・マンガンの濃度も他の2品種に比べて一貫して低い水準にとどまったとされています。
海藻抽出物とフミン酸を組み合わせた併用区は、複数のミネラルをバランスよく蓄積させる傾向が見られたものの、単独処理より必ずしもバイオマスが大きくなるわけではなかったとのことです。また、葉の形態的な特徴は主に品種による違いが大きく、二次代謝産物や抗酸化活性へのバイオスティミュラントの影響は限定的だったと述べられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、温室内の鉢植えというコントロールされた条件下で、3つの品種・特定の市販製品を用いて行われたものであり、他の栽培条件や品種、製品にそのまま当てはまるとは限りません。研究チームは、ホウレンソウの根圏へのバイオスティミュラント施用の効果は品種に強く依存すると結論づけていますが、これは一つの研究から得られた知見であり、結論が確定したわけではない点に留意する必要があります。
まとめ
今回の研究では、同じバイオスティミュラント資材を同じように施用しても、ホウレンソウの品種によって地上部・根の生育やミネラル蓄積への反応が大きく異なることが示されました。今後、限られた栽培スペースで収量を最大化することが求められる施設園芸などの場面で、品種特性を踏まえた資材選びの重要性を考えるうえで、参考になる知見と言えそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:商業的バイオスティミュラント施用によるホウレンソウの根圏改善効果は品種間で異なる(フロンティアーズ・イン・プラント・サイエンス・2026年07月)