この研究は、ベナンの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
保存できる原料をつくる、という課題
ベナンでは、アクパン(akpan)と呼ばれるヨーグルトのような発酵食品が広く親しまれています。これは発酵させたトウモロコシのでんぷん(FMS)を部分的に加熱して作られ、砂糖や加糖乳、氷などを加えて食べられるのが一般的です。
ところが、その原料となる発酵トウモロコシでんぷんは、多くの場合、小規模な伝統的手法で作られています。研究チームは、そのために品質のばらつきが大きく、日持ちも短いことが、アクパンの安定生産や供給量の拡大を妨げていると指摘しています。
そこで著者らが着目したのが「乾燥」です。発酵させたでんぷんを粉(フラワー)にして乾かしておけば、長期間保存でき、必要なときに水で戻してアクパンを作れます。本研究の目的は、市販のアクパンに近い性質の製品が得られるような、発酵と乾燥の条件を見つけることでした。
発酵時間・乾燥温度・乾燥時間を組み合わせて比較
研究チームは、ベナン南部の市場で購入した白トウモロコシを用い、煮沸・浸漬・湿式粉砕・ふるい分けを経てトウモロコシでんぷんスラリー(液状の原料)を調製しました。そのうえで、発酵時間(24〜72時間)、乾燥温度(45〜65℃)、乾燥時間(4〜6時間)という3つの条件を組み合わせた15通りの試験を、ボックス・ベンケン計画という実験計画法にもとづいて行いました。これは、条件の組み合わせを効率よく割り当てて、各要因の影響を統計的に調べる手法です。
得られた粉については、乾物量、水分活性(微生物が利用できる水の量を示す指標)、色、pH、滴定酸度(酸の総量を示す指標)、乳酸含量、糊化特性(加熱したときの粘りの変化)を測定しました。さらに各粉から標準化した手順でアクパンを作り、離水率(シネレシス、液が分離して出てくる割合)、粘度、硬さを調べています。アクパンの調理手順は、熟練した6人の女性加工者が実際に行った作り方を記録して統一したものです。比較の基準として、市場で集めた2点の市販アクパンも同じ方法で分析されました。
報告された主な結果
著者らによれば、発酵時間は主に粘度に影響し、乾燥温度はでんぷんの老化(retrogradation、加熱後の冷却ででんぷんが再び結合して固くなる現象)や離水に影響しました。滴定酸度は発酵時間と乾燥温度のどちらが長く・高くなっても上昇した一方で、pHと乳酸含量は比較的安定していたと報告されています。粉の乳酸が発酵時間で大きく変わらなかった点について、著者らは乾燥の過程で乳酸が減少し、発酵の効果が覆い隠された可能性を挙げています。
乾燥後の粉はいずれも乾物量が90%を超え、水分活性は0.6以下にとどまりました。著者らはこの条件であれば、常温で数か月の保存に耐えると見込まれるとしています。
総合すると、発酵60〜72時間、乾燥温度およそ55℃という条件が最も良いバランスだったと報告されています。この条件で作った粉から得られたアクパンは、滴定酸度0.25〜0.34 g/100 g、硬さ約14 g、離水率18%未満で、市販品と同程度でした。なお市販アクパンは、pH 3.1、滴定酸度の平均0.27 g/100 g、硬さ約14 g、離水率約16%と測定されています。著者らは、アクパンの硬さと離水を記録したのは本研究が初めてだと述べています。
興味深い報告として、粉の糊化特性はアクパンの粘度を予測できませんでした。両者の相関はごく小さく、著者らはこれを、部分加熱の際の水と粉の比率、撹拌の強さ、温度の推移といった調理側の条件のほうが強く効いているためだと解釈しています。
この研究が示すこと
この研究は、伝統的に作り置きのきかなかったアクパンの原料を、乾燥粉として保存できる形に整えるための具体的な条件を示しました。発酵と乾燥のどちらか一方ではなく、両者の兼ね合いが製品の酸味や口当たり、見た目の安定性を左右することが、数値として整理された点に意味があります。
同時に、粉の分析値だけでは最終的な食感が決まらないという結果は、粉づくりと同じくらい調理工程の標準化が重要であることを示しています。著者らは、これらの知見がアクパンの生産を標準化し、規模の拡大や市場性を高める土台になると結論づけています。
著者:Laurent Adinsi(Faculty of Agronomics Sciences University of Abomey‐Calavi Cotonou Benin)、Fernande G. Honfo(Faculty of Agronomics Sciences University of Abomey‐Calavi Cotonou Benin)、Agnes Mehoba(Faculty of Agronomics Sciences University of Abomey‐Calavi Cotonou Benin)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Laurent Adinsi, Fernande G. Honfo, Agnes Mehoba. Production of Shelf‐Stable Fermented Maize Starch Flour for Akpan: Effects of Fermentation and Drying Conditions on Flour Characteristics and Final Product Quality. Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72285. 原著ライセンス:CC BY.