この研究は、ルーマニアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:International Journal of Molecular Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:肝臓を「被害者」ではなく「発信源」として捉え直す

著者らは、代謝機能障害に関連する脂肪性肝疾患(MASLD)と2型糖尿病という二つの病気が、どのように互いを悪化させ合っているのかを、肝臓が分泌するタンパク質に注目して整理しました。MASLDは、以前は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれていた病気で、画像検査や組織検査で肝臓に脂肪がたまっていることが確認され、かつ肥満や高血糖といった心血管・代謝上の危険因子を少なくとも一つ持ち、慢性的な飲酒がない場合に診断されると論文は説明しています。

従来、2型糖尿病はすい臓による血糖調節の問題として理解されてきましたが、論文は、これを複数の臓器が関わる全身の病気として捉える見方が広がっていると述べています。その中で肝臓は、単に病気の影響を受ける臓器ではなく、全身の代謝を左右する物質を分泌する内分泌器官でもある、という視点の転換が重要だと著者らは指摘します。

この「肝臓から分泌され、全身の代謝を調節するタンパク質」がヘパトカインです。著者らは、線維芽細胞増殖因子21(FGF21)、フェチュインA、フェチュインB、白血球細胞由来ケモタキシン2(LECT2)、セレノプロテインP(SeP)、アンジオポエチン様タンパク質(ANGPTL)類、レチノール結合タンパク質4(RBP4)という主要なヘパトカインを取り上げ、これらが二つの病気をつなぐ仕組みについて、これまでに報告されてきた知見をまとめることを目的としました。

何をどう調べたか:既存研究を集めて整理する「ナラティブレビュー」

この論文は、著者らが新たに患者を集めて測定を行った研究ではなく、すでに発表されている研究を集めて論じる「ナラティブレビュー(叙述的総説)」です。PubMed/MEDLINE、Web of Science、Scopusといった主要な文献データベースを中心に、Google ScholarやGoogle検索も補助的に使い、「MASLD」「2型糖尿病」「インスリン抵抗性」「ヘパトカイン」などのキーワードと、対象とした各ヘパトカインの名称を組み合わせて検索したと述べられています。

収集の対象には、細胞を用いた実験、動物実験、ヒトを対象とした研究、臨床試験、これまでの総説やメタ解析(複数の研究結果を統合して分析する手法)が含まれました。比較的新しい研究に重点を置いたものの、発表年による絞り込みは行っていません。著者らは、この論文が叙述的総説であるため、あらかじめ定めた厳密な手順に従って網羅的に集めたのではなく、テーマとの関連性と証拠の質に基づいて文献を選んだと明記しています。

報告されている主な内容:双方向の悪循環と、それぞれのヘパトカインの役割

まず著者らは、MASLDと2型糖尿病の関係が双方向であると整理しています。引用されたメタ解析によれば、2型糖尿病の患者におけるMASLDの世界的な有病率はおよそ55.5%と推定され、別の報告では約65%とされています。糖尿病があるとMASLDの肝線維化への進行が速まり、肝臓に関連する死亡や全死因死亡の増加と関連すると報告されています。逆に、MASLDのある人は2型糖尿病を発症する危険や代謝の状態が悪化する危険が高いとされ、あるメタ解析では約5年の追跡でMASLDが2型糖尿病とメタボリックシンドロームの発症リスク上昇と有意に関連していたと紹介されています。なお、世界の糖尿病人口については、20〜79歳の成人で現在5億8900万人、2050年には8億5300万人に達すると推計されるデータが引用されています。

個々のヘパトカインについては、働く方向が異なると報告されています。FGF21は保護的に働くと考えられており、脂肪酸の燃焼を促して肝臓での脂肪合成を抑え、インスリンの効きを改善し、ミトコンドリアの機能改善や酸化ストレスの軽減に関わるとされます。ただし著者らは「パラドックス(逆説)」も紹介しています。肥満やインスリン抵抗性、2型糖尿病では血中のFGF21濃度がしばしば高くなっており、これは標的となる組織がFGF21の信号に反応しにくくなる「FGF21抵抗性」の状態として解釈されてきた、という説明です。つまり肝臓は代謝ストレスへの代償として産生を増やすものの、保護効果が十分に発揮されないと考えられています。論文は、FGF21が疾患の重症度を反映する可能性はあるものの、日常診療の診断指標としてはまだ確立していないと述べています。

一方、フェチュインAは代謝を悪化させる側に位置づけられています。インスリン受容体の自己リン酸化を妨げ、骨格筋での糖の取り込みを減らすことで、インスリンの効きを低下させるとされます。複数のメタ解析では、血中フェチュインAが1標準偏差増えるごとに2型糖尿病の新規発症リスクが23%あるいは24%高いという報告が紹介されています。ここで注意したいのは、これらが「関連」の報告であり、論文自体もフェチュインAを非侵襲的なバイオマーカー候補として位置づけつつ、より大規模で独立した集団での検証が必要だと述べている点です。

フェチュインBは、肝臓の脂肪蓄積に応じて分泌が増える「脂肪肝に反応するヘパトカイン」として紹介されています。MASLD患者3800人と対照3614人を含む30研究の大規模メタ解析では、MASLD患者で血中フェチュインB濃度が有意に高かったと報告されています。LECT2は、肝臓の脂肪蓄積と炎症を結びつける因子として、SePは糖代謝異常やインスリン抵抗性との関連が指摘される因子として扱われていますが、著者らはいずれについても知見が単純ではないことを強調しています。特にSePについては、MASLDで血中濃度が高いとする報告がある一方、明らかなMASHでは低いとする報告や、2026年の前向き症例対照研究でMASLDでの低値、とりわけ有意な線維化で最も低値だったとする報告もあり、証拠は部分的に一致していないと記されています。

ANGPTL類は、血中の中性脂肪を分解する酵素であるリポタンパク質リパーゼの働きを調節することで、脂質代謝に関わります。中でもANGPTL8(ベータトロフィンとも呼ばれます)は、MASLDの成人で対照群より血中濃度が高いこと、2型糖尿病の人で健常対照より概して高いことがメタ解析で報告されています。ただし著者らは、これらのメタ解析で研究間のばらつき(異質性)が大きいことを繰り返し指摘し、診断や予後予測の価値を示すには大規模な前向き研究が今も必要だと述べています。

この総説が示す意味

著者らがまとめた知見が示しているのは、脂肪肝と2型糖尿病が「たまたま併存しやすい二つの病気」ではなく、肝臓から分泌される一群のタンパク質を介して互いに影響を及ぼし合う関係にある、という見方です。肝臓に脂肪がたまるとヘパトカインの分泌が変化し、それが筋肉や脂肪組織でのインスリンの効きや炎症、脂質の処理に影響して、さらに肝臓の状態を悪くする——こうした循環の存在が、これまでの研究から浮かび上がってきたと論文は整理しています。

同時にこの総説は、ヘパトカインをめぐる知見がまだ確定的ではないことも率直に示しています。FGF21のように血中濃度の上昇が保護的な働きの不足を意味しうる場合もあれば、SePのように研究によって結果が食い違う場合もあり、LECT2のように実験の条件次第で逆の方向の結果が出る場合もあります。肝臓を全身の代謝を発信する臓器として捉え直すことが、脂肪肝と糖尿病を一体のものとして理解する手がかりになる——この総説が伝えているのは、そうした視点の枠組みです。

著者:Liliana Foia(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy Iasi, 700115 Iasi, Romania)、Ancuța Goriuc(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy Iasi, 700115 Iasi, Romania)、Ionuț Luchian(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy Iasi, 700115 Iasi, Romania)、Dana Gabriela Budală(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy Iasi, 700115 Iasi, Romania)、Vasilica Toma(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy Iasi, 700115 Iasi, Romania)、Mária Bogdán(University of Medicine and Pharmacy, 200349 Craiova, Romania)、Bogdan Minea(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy Iasi, 700115 Iasi, Romania)、Larisa Ghemiș(Grigore T. Popa University of Medicine and Pharmacy Iasi, 700115 Iasi, Romania)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Liliana Foia, Ancuța Goriuc, Ionuț Luchian, et al. Key Hepatokines Linking MASLD and Type 2 Diabetes: From Pathophysiological Mechanisms to Therapeutic Modulation. International Journal of Molecular Sciences 2026-09-04. DOI: 10.3390/ijms27177917. 原著ライセンス:CC BY.